エピローグ
数ヶ月後。
いつも通りの静かな夜。
私は中々寝付けず、自室のベランダへと出ようとしたその時、私の部屋のドアが2回程ノックされる。
「イレーネ、起きてる?」
「ラディ? ええ、起きているわ。入ってきて大丈夫よ」
ラディはドア越しに私の声を聞いてから部屋のドアを開けて部屋へと入ってきた。
「イレーネ、夜遅くにごめんね」
「ええ、大丈夫よ。どうかしたの?」
「うん、中々寝付けなくて。あと、今夜は星が綺麗だから起きてたら一緒に夜空を見たいなって思ってね」
ラディは柔らかい笑みを浮かべながら、私がいるベランダの窓の前までやって来る。
「私も中々寝付けなくて、ちょうど今ベランダに出ようとしていた所だったの」
「そうなんだね」
「ええ、」
イレーネは窓を開けて、ラディと共にベランダへと出た。
静かな夜の空気がラディと私の身体に当たり、ラディは私を気遣い自身が羽織っていた黒いジャケットを私に羽織らせる。
「ありがとう、ラディ」
「うん、もう、風が寒く感じる時期だから」
「ええ、ラディを買ってから大分経ったわね」
両親が取り付けたお見合いを拒否する為に偽の恋人を作ろうと決めた私。
闇市場に行って奴隷として売られていたラディと出会い。私はラディの容姿に惹かれてラディを買った。
最初は偽の恋人でいいと思っていたのに、今では本当の恋人になりたいと私は思ってしまっていた。
「イレーネ、俺さ、イレーネとこれから先も一緒にいたい。偽の恋人じゃなくて、イレーネの本当の恋人になりたい」
ラディは星が瞬く夜空から、隣に立つ私に視線を移し真剣な顔で自身の気持ちを言葉にした。
「私もラディと本当の恋人になりたいと思っているわ。一緒に日々を過ごす中でいつからか偽の恋人じゃ満足できなくなっていたの」
「そうだったんだね」
「ええ、これからは本当の恋人として一緒に居てくれるかしら?」
私がラディの顔を見て問い掛ければ、目の前にいるラディは優しく笑いイレーネからの問いに答える。
「ああ、これからも一緒にいるよ。イレーネ、俺の婚約者になってくれないか?」
「ええ、いいわよ」
ラディと私は互いに見つめ合ってから少しぎこちなく手を繋ぎ、星が瞬く夜空へと再び視線を移した。
「私、ラディと出会えてよかったわ」
「ああ、俺もだよ。イレーネ」
ラディと私は互いの手の温もりを感じながらこれからは偽の恋人ではなく、本当の恋人として一緒に居られるということに嬉しさと幸せを感じていた。
*
「久しぶりの外だ〜!」
「もう、まだ風邪の治りたてなのだから、走り回らないの!」
「まあ、もう走れ回れるくらいには元気になったってことだよ、イレーネ」
金髪の青年は中庭を走り回る少女を見つめてから、自分の後ろに立つ茶髪の女性に視線を移す。
「まあ、そうね」
「ああ、俺達も行こう」
「ええ、」
ラディは私の手を優しく握り、こちらを見て『早く来て』と手招きする私達の娘である少女の元へと向かう為に私と共に歩き出した。
そんな3人の家族の姿を春の穏やかな日の光が照らしていた。