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プロローグ


 とある日の夜、いつも通り私は父親と母親の3人で夕食を食べていた。


 いつものように他愛のない会話をしながら夕食を食べていた私であったが、夕食終わりに唐突に告げられた両親からの言葉に私は耳を疑った。


「今、何て言いましたか?」

「イレーネ、近々、貴方にお見合いを取り付けようと思っているの」

「お相手の方は私の仕事の取引相手の息子さんだ」

「え、ちょっと待ってよ、急にそんなこと言われても……」


 唐突な父親であるアルフと母親のカルラからの言葉に私は困惑する。

 そんな困惑している私を見つめてから両親は再び話しを再開した。


「イレーネ、貴方はこのエルディア伯爵家の唯一の跡取りなの。貴方が結婚をせず、子供を産まなかったらエルディア家の血筋は絶えてしまうのよ」

「早い段階から結婚を前提に付き合っていける者がいた方が未来のことを考えて安心だと私も母さんも思ったんだ」

「でも、私、ちゃんと恋愛して結婚したいわ」


 お見合い相手を好きになれるかなんてわからないし、結婚を前提に付き合うのは少々、重たく感じると思っている私は何とか拒否をしようと試みたのだが。


「なるほど。イレーネ、お前にはもうそういう相手がいるのか?」

「え、いないけど……」

「それならお見合いを受けてちょうだい」


 アルフとカルラから交互に責められ、私は渋々に頷いてしまう。


「わかったわよ」


 私の返事に両親はほっとしたような顔をする。

 私は気が重くなるのを感じながら心の中でため息をついたのであった。



 その日の夜、私は小さい頃から私のお世話を任されている侍女のエリザ・ラディスを呼び出した。


「イレーネ様、聞いてほしい話しとは何でしょうか?」


 侍女のエルザは私の部屋に入るなり、早々にそう問い掛けてくる。

 私はベットに腰を下ろしてから、エルザを見て話し始める。


「今日、お父様とお母様からお見合いを取り付けると言われたの。私はお見合いなんてしたくないし、結婚したくない訳ではないけれど、私はちゃんと相手のことを好きになって恋愛をしてから結婚したいのよ」

「なるほど。そんなことがあったんですね」


 私の話しを聞き終えたエルザは何やら少し考え込む。

 数分後、エルザは何かを思いついたのか、にこやかに私を見て口を開く。


「イレーネ様、とても良い提案がございます」

「良い提案? 教えてちょうだい」

「わかりました」


 エルザからの提案はまず闇市場で売られている奴隷を買い。


 買った奴隷を恋人役にして、好きであるからお見合いは出来ないという断る理由を本当のことのように両親に言って、お見合いを回避するという提案であった。


「なるほど。確かにそれならお父様もお母様も納得してお見合いはなしにしてくれそうだわ」

「はい。ですが、イレーネ様が奴隷を買うことに抵抗があるようでしたらこの案は使えませんが……」


 闇市場で売られている奴隷はある程度の礼儀作法を備えており、買ってくれた主人にしっかりと尽くすことを商人から徹底的に叩き込まれている。


 だから勝手なことはしないとは思うが。奴隷であっても自分と同じ人間だ。

 買うのは少し気が引けると思った私であったが、お見合いをするのは絶対に嫌である私は奴隷を買うことを決める。


「明日、ランドルと一緒に闇市場に行ってくるわ」

「わかりました」



 フィアルゼ王国の南に位置する闇市場ルディスでは奴隷や闇商品が売られていたり、闇取引が行われている場所だ。


 私は闇市場に着くなり、側近のランドルと共に奴隷が売買されている場所へと向かい歩き始める。


「初めて来たけれど闇市場ってこんな感じなのね」

「そうですね。俺も初めて来ましたよ」


 私とランドルは歩きながら両道に立ち会話をしている柄の悪そうな人達を横目に見つめる。


 大分歩いて細い路地の通りまで来た私とランドルは奴隷売買店と書かれている看板がある建物の中へと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ〜!」


 店の中へ入るなり店員らしき黒髪の男から明るい声で出迎えられる。


「あの、男性の奴隷が欲しいのだけれど、年齢は20代くらいでお願いしたいわ」

「承知致しました。では、ご案内させて頂きますね」

「ええ、」


店員の男は私とランドルに着いてくるように促して歩き出す。 

 店員の男は私達を引き連れ、白い扉を開けて階段を下りていく。


階段を降りるとひんやりとした空気を肌に感じた私は少し身震いする。

 そんな私はランドルと共に階段を下り終え、店員に後ろについて再び通路を歩き始めた。


 私は両側にある広い牢屋の中にいる複数人の奴隷を鉄格子越しに見ながら口を開く。


「ここにいる奴隷って孤児である人もいるんですか?」

「ええ、おりますよ」

「そうなんですね」


 両親に捨てられたり、死んでしまっていたりして、育てる親がいない孤児は高値の価値がある為、奴隷売買する商人達にとってはとても貴重な存在であった。 


 私は店員の男に説明されながら、鉄格子越しにいる者達を見てどの者を買うか考えていた。


「気に入った者はおりましたでしょうか?」


 歩きながら店員である男に問われた私は首を横に振れば、店員である男は苦笑してから話し始める。


「まあ、人によってはお気に召す者がいないこともありますしね。あと2人おりますので、どちらか気に入って下さると嬉しいです」

「ええ、」


 私の横を歩くランドルは何も言わず黙って私と店員の男のやり取りを聞いていたが、ランドルが何か言いたそうな顔をしていることに気付き私はランドルを見た。


「どうかしたの?」

「イレーネ様が気に入る者がおりませんでしたら、もう諦めて帰りましょうね」

「ええ、そうね」


 いくら偽りの恋人関係を任せる相手であるからと言っても誰でもいいとは思っていない。


 偽りの関係であったとしても自分が好きと思えそうな相手が良いと思っていた私は自身の好みで選定していた。


「最後はこちらです。つい最近売られたばかりの新入りです~」


店員の男はそう言い、薄暗い牢屋の中にいる人物を紹介し始める。


「こちらの者はルックスが売りとなってます〜! 容姿は此処に売られている奴隷の中で断トツであると思いますよ」

「綺麗な顔……」


 店員の男が紹介した鉄格子の中にいる男の容姿があまりにも私好みであった為、見惚れてしまう。


「おや、お気に召されましたか?」

「ええ、気に入ったわ! この方を買います」

「おお、お買い上げありがとうございます〜! 気に入って頂けて何よりです」


店員の男は弾んだ声でそう言ってから、私が選んだ奴隷である者がいる鉄格子の鍵を開けて男に鉄格子から出るよう促す。


「では、お会計は受付で行いますので、戻りましょうか」

「ええ、」


 私は店員の男の言葉に頷き返事をしてから、店員の男の隣に立つ金髪に青い瞳をした青年に目を向ける。


 青年は顔色一つ変えずに無言のまま、店員の男に背を押されて歩き始めた。



 帰り道、私は闇市場で買った奴隷の青年に質問を投げかけながら会話をしていた。


「貴方、名前は何て言うの?」

「名前はラディだよ」

「ラディっていうのね。良い名前ね!」

「あ、ありがとう……」


ランドルはそんな私とラディの会話を聞きながら、2人を見守るように後ろから歩いていた。

 私はそんなランドルのことなど気にもせず話しを続ける。


「ラディは何歳なの?」

「21だよ」

「そうなのね、私は19よ!」

「そうなんだ、年下か」

「ええ、あ、私のことはイレーネって呼んでくれていいわよ!」


 ラディは私の人柄に困惑しながらもこくこくと頷き返してくれた。


「イレーネ、えっと、俺は買われた身だから、言ってくれれば何でもするよ……!」


 ラディは私が奴隷として自分のことをこれから使おうとしているのだと思っていた。


 しかし、私はラディのことを奴隷としてではなく対等な人として接するつもりであった為、ラディの言葉に頷くことはせず首を横に振る。


「ラディ、私は貴方のことを奴隷としてではなく、対等な人として接するつもりよ。貴方には私の偽の恋人になって欲しいの」

「え……? 今なんて?」

「貴方には私の偽の恋人になってほしいのって言ったわ」


 私の言葉にラディは目を見開き驚いた後、動揺し始める。


「え、え、イレーネの恋人……!?」

「ええ、そうよ。私が婚約者と婚約するかしないかは貴方の演技力にかかっているわ。頼んだわよ、ラディ」

「え、ちょ、ちょっと待って……! そんなの、俺には無理だよ……!?」


 こういう風に言われるであろうことは私の想定の範囲内だった為、私は満面の笑顔でラディに告げた。


「ラディ、私は貴方に恋人となってほしいと思ったの。例え偽の恋人関係であったとしても、私は貴方がいいと思ったのよ」

「イレーネ……」

「ラディ様、イレーネ様は一度決めたことは曲げない性格なので諦めた方がよろしいかと思いますよ」


 そう言いラディに耳打ちしたランドルはいつの間にかラディの隣を歩いていた。

 ランドルからの言葉にラディは心を決めたのか、左隣を歩く私を見て口を開く。


「わかった、イレーネ。俺、やるよ。偽の恋人役」

「ありがとう、ラディ。じゃあ、これからよろしくね」

「ああ、よろしく」

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