83 エピローグ
「困ったわね」
「まさかこんなことになるなんてね……」
「まあ、こうなったらグダグダ考えてもしかたないわね。どうやって、次の転生先を決めるか、考えましょう」
ある日の天界の一角、久々に集まった運命の女神の三姉妹は、目の前に積まれた書類の山を見ながら、ため息をついていた。
その書類は、天空神パラスから長女クローラに託されたものであった。内容は、彼女たちが担当する宇宙区の、とある星にまだ生存中の人物について、その人物が死んだら、ぜひ自分が担当する星に転生させてほしい、という請願書だった。
この宇宙には、それこそ数えきれないほどの宇宙区があり、それぞれに担当する神々がいる。その中の一つの宇宙区が交流するのは、せいぜい数百の隣接する宇宙区である。
今、彼女たちの目の前にある書類は、どう見ても、交流のある宇宙区のほとんどから送られたと思えるほどの数だった。
「決めると言っても、何を基準に決めればいいのか分からないわ」
末っ子のアトロポスが、不満たらたらな顔で言った。
「まあ、一枚ずつ中身を読んで、一番必要だって思えるところに送るしかないわね」
常識派の長女は、さっそく書類に目を落としながら答えた。
ただ一人、次女のラクシスは、腕を組んでじっと何かを考えていた。
「ほら、お姉様も早く書類を読んで」
妹にそう言われて、ハッと我に返ったラクシスは、何かを決断したように椅子から立ち上がった。
「うん、やっぱり、こんなこと間違っている」
「急に何だい?」
姉と妹がびっくりして次女の方へ目を向けた。
「あの子の気持ちを考えないで、ここで勝手に運命を決めるなんて、間違っている、ねえ、そう思わない?」
次女の言葉に、長女と三女の女神は呆れたように顔を見合わせた。
「だって、それが私たちの仕事じゃない」
アトロポスは、姉を諭すように言った。
「う、うん、そうだけど…今回だけは特別なのよ、あの子がまた他の星で苦労ばかりするって考えたら……そんなことさせたくないのよ」
「ああ、確かに……お姉様の気持ちも分かるわ」
「私はあまり知らないんだけど、そんなに良い子なのかい?」
「「良い子なの~」」
そこだけは、次女と三女の声と表情はぴったりと一致した。
「そ、そう……う~ん、困ったわね。ちょっと考えさせて」
長女クローラは、そう言ってじっと考え込んだ。
「じゃあ、こうしましょう……」
しばらくして、クローラが妹神たちを見ながら口を開いた。
「……私たちでいくつか候補を選んでおくの。そして、その子が死んだら、ここに魂を呼んで、直接聞くの、どの候補地がいいか、あるいは他に行きたい場所があるか、ね」
「うん、さすがお姉様、それがいいわ。ね、ラクシス姉様?」
「え、ええ、それでいいわ……」
女神ラクシスは、何やら思いつめたような顔で小さく頷いた。そして……。
「ねえ、クローラ姉様、あの子を使天使にできないかしら?」
「ええっ! ちょ、ちょっと、ラクシス姉様、本気なの?」
「ええ、もちろん本気よ。あの子をここで、私の助手として使いたいの」
長女の女神は、じっと妹を見つめた後、静かにこう言った。
「それは、私たちで決められることじゃないわね。他の神々が承諾して、最終的にパラス様が決められることよ。まあ、これまでの実績としては申し分ないようだから、これから大きな失敗をしないようにちゃんと見守ってあげなさい」
ラクシスは嬉しげな表情で小さくガッツポーズをした。
「よし、私、頑張るわ」
ラクシスはさっそく「遠見の水盤」を持ってきて机の上に置いた。そして、彼女がその上に手をかざすと、水面にどこかの星の風景が浮かび上がってきた。
「ん?……はあっ?」
水面を見ていたラクシスの変な声に、姉と妹も何事かとやってきた。
「えっ、な、何、これ?」
「な、何をしているのだ、この子は?」
三人の女神たちが驚愕しながら見つめる水面には、水蒸気を噴き出す奇妙な乗り物に乗って、楽しげにはしゃいでいる美しい銀髪の美少女と、その乗り物と並走しながら、嬉し気に微笑む美しい黒髪の女性が映し出されていた。
本作は、これで一応完結となります。
ここまで読んでくださった読者の皆様に、心から感謝いたします。




