表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/81

66 勇者パーティ決定

「ふむ、わしらはここに出てくるつもりはなかったのだ。二階の部屋から眺めておったのだが、もう、試験は終わったようだし、どうするかのう」

 ボーゼス王国のオルセン侯爵が、とぼけた様子で言った。


「まだ、終わってはおりません、侯爵様」

 ブレンダ・ボーグがそう言ってリオンとロナンに目を向けた。

「ロナン殿のあの攻撃を防げなければ、私も勇者パーティに加わる資格はありません。ロナン殿、お願いいたす」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


「うむ、それでこそ、ブレンダだ。健闘を祈るぞ」

 侯爵はそう言うと、セドル伯爵とともに二階の部屋へ去っていった。一人残ったガーランド王国第二王子トーラスは、リオンに問いかけた。


「リオン殿、妹のイリスにも何か試験があるのか? イリスがこの場に呼ばれた理由が分からぬのだが……」


 王子の問いにリオンは頷いて答えた。

「はい、あります。もちろん戦闘ではありません。試験というより、課題と言った方が良いでしょうか。ブレンダさんの試験の後、お話します」


「分かりました。お兄様、心配なさらないで。私は大丈夫です」


「うむ、そうか。では、また後でな」

 トーラス王子は、安心したように微笑むと、侯爵たちの後を追って去っていった。



♢♢♢


「では、始めます。内容はガーネットさんの時と同じです。ブレンダさん、よろしいですか?」

 鍛錬場の中央で向かい合った二人の間で、リオンが問いかける。


「うむ、相分かった」

 ブレンダ・ボーグは頷いて、携えていた奇妙な形の盾を前に出した。その盾は、大きなX字型の金属の板の中央に丸く膨らんだ盾を取り付けたものだった。


(なるほど…よく考えられた盾だな。槍や飛んでくる岩、矢などは、あの中央の膨らんだ部分で受け流し、剣はV字の部分で受けてひねるのか。もしかしたら、あの盾を回転させて武器にするのかもしれない……厄介だな)

 ロナンは、ブレンダの盾を見て心の中で感心していた。


「では、双方、構えっ……始めっ!」


 リオンの声とともに戦いは始まった。だが、ガーネットの時のように、ロナンはいきなり動き出すことはしなかった。まずは、ブレンダの出方を見ようと思ったのである。


「ふ…来ないか……ならば……」

 ブレンダは、ロナンの動きを見ながら小さくつぶやいた。そして、一瞬その長身の体を深く沈めると、次の瞬間、信じられない身軽さで高く跳躍したのである。


「うわっ」

 片手で軽々と振り下ろされた木製の大剣を、ロナンは危うくかわして横に移動した。ズドンッ、という音とともに、ロナンがいた場所の土が大きくえぐられ、穴が開いた。恐らく、剣に何か〝闘気〟のようなものを(まと)わせていたのだろう、普通なら木剣が折れてしまうほどの威力だった。


(なんという身体能力とパワーだ……これがS級冒険者の力か)

 審判役のリオンは、驚くとともに、心が沸き立つような喜びも感じていた。


 ロナンも同じ気持ちなのか、楽しげな顔で再び動き出した。右に左に、上に下に、得意のスピードと身体能力で動き回り、ブレンダの防御の隙を狙って木剣をふるった。しかし、ブレンダの反射神経も、やはり人間の能力を超えていた。体勢を崩されながらも、何とかロナンの剣を間一髪でかわし、盾で弾いていた。


(くっ……なんという速さだ…いかん、このままでは、そのうちやられる)

 ブレンダも必死だった。これほど動きの速い敵に対したのは初めてだった。ブレンダは、ここで、とっておきの防御兼攻撃の必殺技を繰り出した。これこそが、彼女を十年間闘技場のチャンピオンとして君臨させ、S級冒険者たらしめたオリジナル技だった。


 ブレンダの盾がゆっくりと回転を始める。やがて、それは彼女の体の周囲を囲うように回り始め、彼女自身も大剣を横に突き出したまま回り始めたのである。そして、その危険な回転体は鍛錬場の中を縦横無尽に移動し始めたのだ。

 これには、リオンも逃げ惑うしかなかった。当然、ロナンも手の出しようがなく、ただぶつからないように逃げるのが精いっぱいだった。


「勝負ありっ!」

 リオンは、鍛錬場の施設が破壊される前に、大きな声で宣言した。


 回転していたブレンダが動きを止め、その場に片膝をついてハアハアと肩で息をし始める。彼女にとっても、スタミナ勝負、やるかやられるかという一か八かの技だったのである。


「すごいや……手も足も出なかった。ブレンダさん、僕の完敗です」


 ロナンの言葉に、ブレンダは汗の滴る顔を上げて嬉し気に微笑んだ。


「いや、こちらこそ、礼を言わせてもらおう。ここまで追い詰められたのは、まだ剣闘士になって間もない頃以来だ。勝ちを譲ってもらったが、あのままだったら、私が先に体力を使い果たして負けていたはずだ……」

 ロナンはその言葉を肯定も否定もせず、微笑むだけだった。

「……もう一つ訊いてもよいか?」


「え、あ、はい、何でもどうぞ」


「そなたは、私の〝(シールド)スクランブル〟を止める手段を持っているのではないか?」


 ブレンダの真剣な目に射すくめられたように、ロナンは逃げることができず、小さく頷いた。

「はい。止められるかどうかは分かりませんが、もし、実戦であったなら、水魔法で対抗していたと思います」


 ブレンダは、あっと小さく叫んで目を見開いたが、すぐに額に手を置いて苦笑し始めた。

「あはは……やれやれ、魔法まで使えるのか。適うはずがないな」


「いや、そんなことはありませんよ……」

 リオンが歩み寄りながらブレンダの言葉を否定した。

「……ブレンダさん、あなたも何か魔法のようなものを使っていましたね? あれで攻撃されたら、たぶんロナンは負けていたと思います」


 ブレンダはますます楽し気に笑いながら、右手に持った木製の大剣を肩に担いだ。

「あははは……そこまで見抜かれていたか。ああ、あれは魔法じゃないと自分では思っているんだが……いつの間にか身についていたものなのだ。私は〝闘気〟と呼んでいるがね」


「闘気……不思議な感じですね。もっと調べて見たくなりました」


「うん、リオンも教えてもらいなよ。同じ大剣使いだから、きっとできるようになるよ」


 三人がそうやって和気あいあいと話をしていると、二階からセドル伯爵たちが降りてきて、三人のそばに歩み寄った。


「見事な戦いであった。ブレンダ、誇りに思うぞ」

 オルセン侯爵の言葉に、ブレンダは片膝をついて頭を下げ礼を言った。他の二人は拍手をしてそれを讃えた。


「リオン、これでメンバーの一人は決まったな?」


 父親の問いに、リオンはしっかりと頷いてこう言った。

「はい。ブレンダさん、あなたを正式に勇者パーティの一人としてお迎えします。あなたには、主にイリスさんの護衛をしていただきます」


 リオンの言葉に、ロナン以外の者たちは、少なからず驚きの表情を浮かべた。当のブレンダが戸惑ったようにリオンに尋ねた。

「リオン殿…イリス殿の護衛はもちろんやるつもりだが、私は主に勇者殿の護衛役だと思っていたぞ」


「ええ、その理由は、今は詳しくは話せませんが、後でお話します。簡単に言うと、私とロナンは〝もう一つの防御法〟を持っているということです。そしてそれは、あなたもイリスさんも鍛錬で使えるようになるかもしれない、ということです。今はこれだけしか話せません。どうか、お許しください」


 セドル伯爵以外の二人の要人たちは、その理由を聞きたがったが、ある人物の命を守るためだと言われて、仕方なく引き下がった。


「そして、イリスさん……」


「は、はい、何でしょう?」


 リオンは、微笑みながら続けた。

「あなたには、戦闘の試験はしませんでしたが、これから言う《課題》を三日以内にクリアしていただきます」


 イリスは、初めて真剣な表情を見せて頷いた。

「分かりました」


 リオンは微笑んだまま、こう告げた。

「その《課題》とは、《無詠唱魔法》の習得です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ