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59 地竜討伐計画 1

 明日はリオンがプロリア公国へ帰るという日の前夜、つまり、私たちとロナンのお別れの夜、丘の家では豪華な晩餐会が開かれた。といっても、出席者は私たち家族とリオンだけだ。ただ、二人の前途を祝して、せめて心づくしのおいしい食事で盛大に送り出そうという趣旨である。


 お別れといっても、二人はすぐに魔王討伐に向かうわけではない。今のところ、デッドエンドには目立った動きはないらしい。まあ、魔王軍も準備というものが必要なのだろう。だから、向こうに動きがあるまでは、こちらも万全な準備と訓練をするわけである。



 食事が終わり、皆でリビングに移動してお茶を飲みながら名残を惜しむ時間、私は二人に今後の計画を指示していた。


「私は明日、ギルマスに会って、地竜の情報を集めてくる。居場所を特定できるまで粘り強く調べるつもりよ。二人は、私が連絡するまで鍛錬の励むこと、いいわね?」


「うん、分かった」

「はい、分かりました」


「リーリエちゃん、あなた、また危ないことを考えてない?」

 ロナンのことで心が弱っているお母さんが、泣きそうな顔で尋ねた。


「お母さん、心配しないで。私もロナンも、自分の身を守れるだけの強さも危険を避ける判断力も身につけられた。お父さんとお母さんが、見守ってくれたおかげよ。絶対悲しませることはしないわ」


 やはり、リオンとロナンと別の部屋で話をすべきだったかもしれない。身重のお母さんに精神的なストレスを負わせるのは避けなければならないからだ。でも、両親に黙って、地竜退治に行ったりしたくない。ここは、少し話を盛ってでも、安心させるしかなかった。



♢♢♢


 次の日の朝は、まるで私たち家族の心を映すかのように、どんよりと曇って今にも雨が降り出しそうな空だった。

 もう十分別れを惜しみ、涙も流し尽くしたと思っていたのに、また泣いてしまった。


 ねえ、神様、どうして魔王は人間が倒さなくちゃいけないの? 神様がちょちょってやっつけちゃえばいいじゃない? 

 ああ、でも、前世で本かSNSで、「神の世界は人間の世界と次元が違う」って読んだことがある。唯一〝魂〟だけが次元を超えて神様とつながれるんだって……。つまり、そうなると、そもそも魂って高次元から下りてきた存在なんだね。


 って、いやいや、そんな話じゃなかった。魔王は、どうしても人間が倒さなくちゃいけないのよね。リオン、ロナン、信じているからね。

 遠ざかっていく馬車から、いつまでも手を振り続けるリオンとロナンを見送りながら、私は涙に濡れた顔を上げて雲の上にあるであろう神界の女神さまたちに祈った。

(ラクシス様、アポロトス様、どうかロナンとリオンをお守りください)



♢♢♢


 昼食後、私はチーズを運ぶお父さんの馬車に乗せてもらって、イルクスの街へ向かった。


「じゃあ、後でギルドに迎えに行くよ」


「うん、ありがとう」

ギルドの前に降ろしてもらってお父さんに別れを告げると、ギルドに向かった。


「よお、リーリエ、久しぶりだな。仕事か?」

「ううん、ちょっと用事でね」

 顔見知りの冒険者たちと挨拶を交わしながら、入り口のドアを開く。


 ギルドの入り口付近にも、冒険者がかなりたむろしていたが中はもっと賑やかだった。最近は、この辺りも魔物が多く出没しているという噂と関係あるのだろうか。


「お、リーリエだ。今日は、一人かな?」

「おい、だ、誰だ、あの美人は?」

「お前初めてだったな。彼女はリーリエ、あの若さでBランクなんだぜ」

 知った顔も多かったが、初めて見かけるような顔の冒険者たちも多くいた。


「こんにちは、アレッサさん」


「あら、久しぶりね、リーリエちゃん。今日はプラムさんは?」

 顔なじみの受付嬢は、たくさんの冒険者を相手にして、いささかお疲れな様子だった。


「今日は私一人なの。あの、ギルマスとか、会えるかな?」


 私の表情を見て、アレッサさんはすぐに頷いて言った。

「分かった、ちょっと聞いてくるわね」


 カウンターから出て、二階へ駆け上がっていく彼女を見送ると、私はラウンジの方へ向かった。

 すると、周囲の冒険者たちが何人か、私の方へ近づいて来ようとしたが、それを押しのけながら、茶色の長髪を揺らしながら、髭面のたくましい大男が私の前に立ったのだ。

「へへ……おい、嬢ちゃん、あんたBランクなんだってな? そんな細っちい体で、なんで俺と同じランクなんだ?」


 うわあ、今までこの手の奴に絡まれなくて幸運だと思ってたのに、何でよりによって一人の時に来るのよ…いや、一人だから来たのか……ああ、めんどくさい。


「さあ、そんなこと私に聞かれても分からないわ。ギルマスにでも聞けば?」


「ほお、威勢だけは良いようだな。よし、じゃあこうしようぜ。今から、俺と訓練場で勝負しな。お前さんが勝ったら、俺のケツを叩くことを許してやる。だが、俺が勝ったら、お前さんは俺の女になるんだ。へへへ……いい話だろう?」

 

 男の下卑た言葉に、周囲の馬鹿どもから歓声が上がった。


「私、まだ十四だよ、おじさん。子どもにイタズラするような腐った人間なの? それに、そんな汚いお尻、誰がさわるもんですか」


 私の言葉に、周囲はいっそう盛り上がって笑い声に包まれた。


「うはは……ますます気に入ったぜ。虫も殺せねえような顔しやがって、強気なところがたまらねえ……よし、さあ来いよ」

 男はそう言って、私の腕を掴もうとした。


「それ以上近づいたら、灰にするわよ」

 私は、男の頭の上に直径一メートルほどの火球を出現させて、そう言った。


「うわっ、あちちっ!」

 男の頭頂の髪がちりちりと焦げて、辺りに臭いにおいをふりまいた。周囲が慌ててその火の玉から逃れようと、ロビーの方へ移動したとき、階段の方から野太い声が響いた。


「おいっ、何を騒いで……っ! リ、リーリエ、おい、落ち着け」

 ギルマス、バート・ラングスがドタドタと階段を駆け下りてきた。


 私はモブ男を睨みながら、火球を消した。


「何があった…あ、いや、そういうことか……おい、グレン、お前の素行の悪さは王都の本部から連絡が来ている。今度、何か起こしやがったら、ギルドから追放だからな、覚悟しておけ」


「わ、わかったよ…けっ、くそが……」

 男は頭を抑えながら、すごすごとロビーから出ていった。


「てめえら、こんだけの数いながら、リーリエを守ろうって奴はいなかったのか、情けない奴らだな」

 ギルマスの言葉に、他の冒険者たちはバツが悪そうに下を向いて何も答えなかった。


 まあ、あの野蛮人、Bランクらしいし、あえて喧嘩したくはないよね。


「もういいわよ。私の身より、あいつが黒焦げになる前に来てくれてよかったわ」


「ああ、まあ、そうだな。すまん、ちょっと書類が片付かなくてな。何か話があるんだって?

二階に行くか?」


「うん、ちょっと聞かれたくない話だから」


「よし、じゃあ行こう。アレッサ、お茶を頼む」


 私はギルマスとともに、二階へ向かった。


 ギルドには、世界中から魔物についてのいろいろな情報が集まるはずだ。その中には、きっと地竜についての情報もあるに違いない。できれば、そう遠くない場所にいてほしいものだ。


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