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37 リーリエ式魔法建築と辺境伯との対面

 いよいよ、マイホームづくりが始まった。

 私が毎日ここへ通ってくるのは大変だということで、ランザ村のラムス村長に頼んで、村の空き家をしばらく借りることにした。私とプラムの二人暮らしだ。お母さんとロナンが、自分たちも一緒に住むと言い張ったが、定期的に食料や日用品を差し入れに訪れる、ということで、お父さんが何とか納得させてくれた。


「じゃあ、始めよっか」

 

 私とプラムは、毎朝天気を見て、晴れが続きそうならお弁当を作って出かけていく。片道一キロ余りの道のりなので、毎日がピクニック気分だ。

 逆に、雨が降っていたり、天気が悪くなりそうなときは思い切って休む。家の中でもやることはたくさんあるのだ。例えば、マジックバッグ用のカバンやポーチ、リュックを作ったり、薬草を煮だしてポーションを作ったりなどだ。


 この日は良い天気だったので、二人で楽しくおしゃべりしながら丘のふもとまでやってきた。

 通常の入り口は、丘の南側に作った。反対の北側には納屋と馬小屋を併設して作る予定だ。通常の入り口は、高さ二メートル、幅一メートル二十センチにした。本当は、もう少し狭くしたかったのだが、お母さんから「家具やベッドが入らないわ」と言われて、なるほどと思い直し、この大きさに落ち着いたのだ。


 現在、入り口から五メートルほど入り口と同じ広さで掘り進んでいる。この丘は、やはり大昔マグマの貫入で押し上げられた地形らしく(鑑定で調べた結果)、内部は花崗岩や変成岩で形成されていた。つまり、岩山だった。

 私は、その先の通路を二股に分けて掘り進んだ。ここに第一の罠を仕掛けるためだ。侵入者は、どちらの道を進むか迷うだろう。

 あなたなら、どちらを選ぶだろうか。一方はゆっくり下に下っていく通路、もう一方は平たんな通路だ。実は、どちらも罠なのである。ふふふ…私ってかなり、いや、相当意地悪だと思う。だって、どちらかは正解だって、ふつうは思うからね。


 下に行く通路は、最終的に小さな行きどまりの部屋にする。慌てて引き返そうとして、最後の階段をもう一回踏むと、巨石が上から落ちて通路を塞ぐようにしようかと考えている。もう一方は、単純に落とし穴にするつもりだ。これもアニメで見た仕掛けと同様に、地面のスイッチ石板を踏むと、留め具が外れて床が抜けるという仕掛けにするつもりだ。


 では、正解の通路は、ということだが、実は入り口から入ってすぐの右側にある。ここの壁にドアと同じ大きさで厚さが五十センチの石をはめ込んでおく。壁との境目が気づかれないようにぴったりとはめ込まなければならない。

 では、どうやってその石を開くのか。この仕組みこそが、私の家族だけにしか解けないギミックなのだ。そう、〝空間魔法〟である。つまり、ドア石を開けるときは、マジックバッグと同じ要領で、「収納」と「再出」をすれば良いのだ。きっちりと再出するために、魔石を使ってきちんとした枠を固定するように工夫する。


「お嬢様、そろそろ休憩なさってください」

 日が高くなって、私の魔力もそろそろ尽きかけてきたころ、プラムがお茶とお弁当を持って、声をかけてくれた。


「ふう……今日は、あと、裏の納屋を少し作って終わりにしようかな」


「はい。あまり無理して急ぐ必要はありませんから。のんびりやっていきましょう」


 私たちは頷き合って微笑むと、お茶を飲みながら、プラムの手作りサンドイッチを頬張った。トマトとハーブたっぷりで手作りのオーク肉のハムがはさんである。この景色の中で食べるとなおさらおいしく感じられた。



♢♢♢


 その翌日、イルクスからお父さんがやって来た。


「リーリエ、プラム、すぐに出かける準備をしてくれ。ランデール辺境伯様が、イルクスのお屋敷に来てほしいということだ」


 おお、いよいよ大物とのご対面だね。でも、急だね、何かあったのだろうか?


 ともあれ、私とプラムは急いで身支度を整え(といっても、洗濯したての質素な古着を着ただけなんだけどね)、馬車に乗り込んだ。


「予定では、十三日じゃなかった? えらく急な呼び出しだね?」


 私の問いに、お父さんは頷いてこう言った。

「ああ、どうやら辺境伯様が急に王都へ行くことになったらしい。どんな用事かは知らないが、予定が変わったようだ」

 王様の命令は絶対だからね、仕方がない。


 馬車は一時間余りで、イルクスの街に着いた。もう、ここの門番さんとは顔なじみだ。顔パスで、そのまま、街の通りを抜けて、辺境伯様のお屋敷に直行する。


 高台にあるお屋敷までの道の手前に、敷地の周囲を囲む高さ二メートルくらいの石塀と立派な鉄の門があった。


「辺境伯様に来るように言われたポーデットです」

 お父さんが、近づいて来た門番の兵士にそう言った。


「ああ、聞いている。荷台を改めるぞ」

 兵士はそう言って、私とプラムが乗っている荷台を覗き込んだ。


「武器を持っていたら預かる規則だ。持っていないか?」


 そう言われて、プラムは腰に提げていた短剣をベルトごと兵士に渡した。まあ、渡したと言っても、見える所にある武器だけなんだけどね。プラムも私も、亜空間に武器はいくつか収納している。お父さんも剣をポーチに収納しているはずだ。


 門が開かれ、馬車は緩やかな坂を屋敷のロータリーまで登っていった。馬車を馬番の使用人さんに預け、執事さんの案内で、豪華な邸宅の中に入って行く。


「どうぞ、中へ、主がお待ちになっておられます」

 執事さんがドアを開け、私たちを部屋の中に入れてくれた。


「旦那様、ポーデット様とご令嬢がお見えです」


「おお、来たか。急に呼び出してすまなかった」

 伯爵は、金髪で背が高く、いかにも武勇に優れているようながっしりとした体の壮齢の男性だった。


「お目にかかれて光栄です。私はレブロン・ポーデット、こっちは娘のリーリエです。後ろに控えているのは、娘のメイド、プラムです」


「うむ、待っておったぞ。話はエルバートから聞いている。リーリエ嬢は、あいつをひれ伏させるほどの魔法の才とか、あはは……聞くたびに興味深く、爽快な気持ちにさせてもらっているぞ……」

 辺境伯はそう言って、私のそばまでつかつかと近づいてきた。

「リーリエ、さあ、こっちへ来て座れ。レブロン殿も座ってくれ。誰かある、お茶の用意を」


「はい、ただ今」

 ドアの外に控えていたメイドが、返事をして去っていった。


 私は、まだ挨拶もろくにしないうちに、辺境伯に手を引かれ、豪華なソファに座らされた。


「うむ…魔法の才に加え、素晴らしい美貌にも恵まれておるな。よほど神に愛されて生まれてきたのであろう」

 辺境伯はニコニコしながら、まじまじと私を正面から見据えてそう言った。


 う、うん、まあ、二人の女神さまの加護はいただいているけどね。そんなに穴が開くほど見つめられたら、どうしていいか分からないから、やめて。


「あ、あの、辺境伯様、今日はどのようなご用件で……?」

 お父さんが、気が気ではない様子で尋ねた。


「うむ、実はな、国王陛下から、わが〈魔導士兵団〉の概要を報告せよとのご命令があって、明日王都へ向かうのだ。それで、エルバート(シーベル男爵)が作成した計画書を見ていたのだがな、その中に『兵士全員に無属性魔法を習得させる。その教授をリーリエ・ポーデット師に一任する』とあったのだ……」

 辺境伯は、そう言って私を見つめながら、続けた。

「……エルバートが、君を師と仰いで魔法の研鑽に励んでいることは知っている。それは良いのだが、この『無属性魔法』を兵士全員に習得させる意味とは、何なのだ? それを聞きたくてな」


 なるほど、国王に説明するためには、辺境伯自身が理解していないといけないというわけか。

 私はようやく落ち着きを取り戻して、微笑みながら頷いた。


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