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32 キングベア討伐

「ええっ、キ、キングベアの討伐って……」

 昼食時、お母さんは、叔父さんから先ほどの話を聞くと、悲痛な声を上げた後、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。


「ああ、お母さん、大丈夫だから、ね、泣かないで……」


「うう、どうして、いつも、いつも、あなたばかり、そんなに苦労しなくちゃいけないの? う、うう……どうして……」


「お母さん……」

 私もお母さんの溢れる愛情を感じて、思わず泣きながらお母さんの胸にしがみついた。


「……姉さん、すまない……分かったよ、リーリエは連れて行かない」

 アレン叔父さんがそう言って、席を立とうとしたとき、後ろの壁に控えて立っていたプラムが、静かに私たちのもとへ歩み寄った。

「奥様、私がついていきますので、どうかご安心を。それに、リーリエお嬢様は、奥様が思っておられる以上にお強いです。キングベアの一匹や二匹、敵ではありません」


「そうだよ、お母様。姉さまはすっごく強いよ。何も心配はいらないよ」


 プラムとロナンの両方からそう言われて、お母さんはようやく涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。


「ほら、これで顔を拭いて」

 私はポケットからハンドタオルを出して、お母さんに渡した。


「リーリエちゃん…うう…ほんとに、大丈夫? 絶対ケガしないでね?」


「うん、約束する。危ない時はとっとと逃げて帰ってくるよ」

 お母さんはようやく安心したように微笑んで、私をしっかりと抱きしめた。



♢♢♢


 そんなわけで、私は今、プラムと一緒に村の広場に来ていた。


「……では、今、説明した通り、三人一組で広がって、一斉に森の中を進んでいくぞ。何かあったら、すぐに笛を吹け。では出発っ!」

 フェスタさんの声で、十六人の捜索隊が一斉に動き出した。


 私はアレン叔父さんプラム、そしてフェスタさんと一緒のグループだ。プラムが先頭に立って、探索をしながら進んでいく。


「ねえ、叔父さん、やっぱり熊は毛皮とかあまり傷つけない方がいいんだよね?」

 私はアレン叔父さんの隣を歩きながら、訪ねた。


「あ、ああ、そうだな。だが、相手はキングベアだ、そんなことも言ってられないだろう」


「お嬢、キングベアは、この辺りにはめったに出ないBランクの魔物なんですよ。うちの警備隊にはCランクの冒険者が二人しかいないのでね、大変なんでさあ」


「なるほど……」

 ふうん、そっか……見てみないと何とも言えないけど、20メラリードくらいの厚さでいいかな?

「プラム、厚さ20で囲ってみる。睡眠か麻痺をお願いね」


 私の声に五メートルほど先を歩いていたプラムが、振り返って頷いた。

「承知しました」


 アレン叔父さんもフェスタさんも、私たちのやり取りを聞いても訳が分からず、首をひねるのだった、


 それから十五分ほどが過ぎた時、森の中に鋭い笛の音が響き渡った。私たちがいる所からはだいぶ離れている。


「向こうの方角です」

 プラムが指さす方向に、私たちはいっせいに走り出した。


 私もこの五年間、プラムに〈身体強化〉や〈短剣術〉の指導を受けたので、森の中を走ることは苦でもない。


 やがて、いろいろな叫び声が近くに聞こえるようになってきた。笛を聞きつけたグループと、キングベアから逃げてくるグループがぶつかって、混乱を引き起こしていたのだ。


「感知しましたっ! この方向、距離八十ラリード、こちらに向かっています」

 プラムの〈探索〉がキングベアを捉えた。


「騒ぐなあっ! 全員、戦闘用意して待機、次の指示を待て」

 フェスタさんの声に、ようやく騒ぎは静まり、隊員たちはそれぞれの役目ごとに集まって、かがみこんだ。


 グフッ…グフッ……グアアアッ!


 荒い息遣いと唸り声が森の奥から次第に近づいてくる。そして、ついに、そいつの姿が、木々の間から肉眼で見えるようになった。


(おお、熊って言っても、黒くないんだ。赤い毛の熊なんて、さすがは異世界)

 それは体長三メートル近く、燃えるような赤い体毛に覆われた巨大な熊だった。


 私は素早く、対象を捕獲するための結界の準備を進めた。

(このまま真っすぐに進んでくれれば、二十秒後に距離およそ三十メートルね。よし、じゃあ、あの辺りに高さ三メートル、幅二メートル、厚さ二十五センチの結界の檻を……)


「総員、迎撃準備っ! 合図を待って、一斉攻撃っ!」


 私の思考をかき消すような、アレン叔父さんの声が響き渡った。


「あ、待って、叔父さんっ」

 私は慌てて、叫んだ。


「何だ、どうした? 早く攻撃しないと、近づかれたら全滅だぞ」

 叔父さんも他の隊員の人たちも、怪訝な顔で私を見た。


「うん、分かってる。一回だけ、私に機会をちょうだい。あと、二十秒待って?」


 叔父さんは迷ったが、私の確信に満ちた目を見て、頷いた。

「分かった。二十秒だな。全員、そのまま待機っ! リーリエの攻撃を待つ」


 いや、攻撃じゃないけどね。でも、ありがとう、叔父さん。


「プラム、いくよ」


「はいっ、いつでも」


 私は集中してキングベアの動きを見つめた。あと十秒……あと五秒……よしっ、今だっ!

「結界、発動っ!!」


 グオッ!?……ガンッ…ガアアッ!


 強い魔力を感じたキングベアの驚きの声の直後に、結界にぶつかった音、そしてそれに驚いた叫び声が続いた。

 その時には、すでにプラムが飛び出して行き、警備隊全員があっと息を飲む間に、凶悪な魔物の前に立ちはだかっていた。


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