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29 お引越し

 村長さんたちに、結界のことは理解してもらったけれど、この技術は後々まで継承されなければ、私が死んだ後は忘れられた技術になってしまう。

 そこで、私は村長さんたちに、技術を受け継いでいくために、二つの村から子どもたちを選んで、魔法の勉強をさせたいと申し出た。


「それは、実にありがたい。リーリエ殿、感謝する」

 バルナ村の村長、カスリーナさんは本当に気持ちのいい女性だったし、ロマーナ村の村長、ベルグさんもとても賢明な老人だった。


「うむ、それは確かに必要なことですな。分かりました、さっそく村に帰って、技術を受け継ぐにふさわしい子を選んで参りましょう」


 こうして、二人の村長さんは帰っていった。



♢♢♢


「なあ、リーリエ、母さんとも相談したんだが、これから男爵や辺境伯と会う機会も多くなるだろう? だから、思い切ってイルクスの街に引っ越そうかと思っているんだが、リーリエの意見も聞きたい。どうだい?」

 部屋に戻ると、お父さんとお母さんが待っていた。


「わあ、僕、イルクスの街にいきたいなあ。ね、姉さまもそうでしょう?」

 ロナンが無邪気に歓声を上げた。


「うん、私も基本的には賛成だよ。ただ、もうしばらくは、無理かな。結界魔法を子どもたちに教えなくちゃいけないから。それと、イルクスの街の中より、少し郊外の方が身を隠すにはいいと思うの。プラムはどう思う?」


 私の問いに、プラムは少し下を向いて考えてから、こう言った。

「お嬢様が、どんな敵を想定されているかにもよりますが……」


 私は頷いて答えた。

「そうだね……まず、大貴族が組織している諜報部隊、いわゆる影の組織だね。それと、一般の貴族や商人が金で雇ったプロの闇組織、あとは、盗賊かな」


「そ、そんな……男爵様が情報は外に出さないって約束されたんでしょう?」

 お母さんが悲痛な声を上げた。


「うん、でも、世の中はそんなに甘いものじゃないと思うの。情報はいつか漏れるって思って用心した方がいいわ」


 プラムも頷いて言った。

「はい、私もお嬢様の意見に賛成です。そうなると、確かに街の中では防衛が難しいですね。街には人の目という防御機能もありますが、昼間に限られます。夜はとても危険です。でも、それは街の外でも同じだと思うのですが、お嬢様はどんな策をお考えなのでしょうか?」


 さすがはプラム、防御のポイントをしっかり押さえている。

「うん。あのね、彼らが家に忍び込もうとするとき、まず何をするかというと、家の構造を調べると思うのよ。だから、家の構造が分からなければいいと思うの」


 私の答えに、家族もプラムも唖然として、声もなく私を見つめている。


「ええっとね、これは、皆が賛成か反対か決めてくれればいいんだけど……私、ダンジョンみたいに、山か丘の下を掘って家を作ればいいと思っているの。私は土魔法が使えるから、掘るのはそんなに時間はかからないと思う。そうすれば、いくらでもカモフラージュできるし、罠も仕掛けられる。本当の出入口は、私たちだけが分かる場所に作ればいいのよ」


「な、なるほど、確かに安全対策としては完璧だな……どうだい、レーニエ?」


「え、ええ、その、何と言うか、とっても奇抜ね……」


 うん、お母さん、私もぶっ飛んだ考えだと思うよ。でもね、前世でアニメやラノベから得た知識は伊達じゃないよ。この世界で一番安全な住処(すみか)は、魔物がいないダンジョンの中なんだよ。それに、実用面でも優秀でね、夏は涼しく、冬は暖かいし、嵐が来ても問題ない。排水と通気性さえ考えて作れば、これほど住みやすい住居はないと思う。

「よし、じゃあ、イルクスに近い場所で、そんな場所を探してみるよ。街の外は、村の中や道のそばでなければ、基本的にどこでも自由に家は建てられる。ただし、領政局に届けを出して許可されればだがな」


 そう言った後、お父さんはなぜか私をじっと見つめている。


「? どうかしたの、お父さん?」


 私が問うと、お父さんは少し言いにくそうな顔をしてから、こう言った。

「いや……なあ、リーリエ、お前、どうして行ったこともないダンジョンのこと、そんなに詳しいんだ? そんな本を買ってやった覚えはないんだが……」


 うわ、まずい。お父さんは、そろそろ私が〝自分の娘であって、自分の娘ではない存在〟ってことに気づき始めている。ごめんね、お父さん、私、中身は異世界から転生したおばさんなんだよ。でも、お父さんとお母さんは、もう、本当のお父さんとお母さんだって思っているからね。


「あ、あのね、イルクスの街に行ったとき、本屋さんでちらりと立ち読みした本に書いてあったの」

 まあ、ウソではない。ただし、立ち読みしたのは『薬草学』の本だったけどね。


 お父さんは、まだ疑わしげな顔でちらりとプラムの方を見た。


「そういえば、街に行くたびに、お嬢様は本屋に寄って立ち読みしては、店主のおじさんに叱られておられました」


 あう……だって、だってえ、この世界の本は馬鹿高くて、立ち読みするしかないんだもん。


「そうか……まったく、うちの娘はどこまで賢くなるのやら…あはは……」


 ありがとう、お父さん……こんなに果てしなく胡散臭い娘を、でも、どこまでも信じてくれるんだよね。大好きだよ、お父さん。



♢♢♢

 こうして、私たちは一か月以内をめどに、引越しをすることになった。それまでに、私は二つの村の子どもたちに無属性魔法を習得させ、結界の作り方を伝えなければならない。


 それから二日後、二つの村の村長さんたちが再び訪ねてきた。彼らの後ろに、二人の少女たちもついてきた。一人は十四、五歳でもう一人はそれより少し幼いくらいか。


 おばあちゃんとあいさつを交わした後、村長さんたちはそれぞれの少女たちを連れて私のもとへやってきた。

「リーリエ殿、これからしばらくこの子たちをよろしくお願いします。紹介しましょう。この子は、私の弟の娘でリアといいます」


「よろしくお願いします」

 ロマーナ村の村長さんが連れてきたのは、姪っ子のとても明るく元気な少女だった。


「リーリエ殿、なにとぞよろしくご指導のほど、お願いいたします。この子はマーナ、十一歳になります。ちょっと変わった子ですが、〈薬師〉のジョブをいただいて、魔法が使えます」

 バルナ村のカスリーナ村長が連れてきたのは、リアとは逆に、少し暗い感じでおずおずした少女だった。

「よ、よろしく、お願いします……」

 マーナはうつむきながら、先細りの声で挨拶をした。


(へえ、村長さんたち、なかなか面白い子たちを連れてきたね)

 私はあいさつをしながら、鑑定を使って二人の少女のステータスを見ていた。


 リアは魔力が78で、知力が65、風魔法が使える。マーナは魔力が86,知力が72,水魔法と風魔法の二つの属性持ちだ。一般の少女たちに比べて、明らかに魔法適性が高い。冒険者になったら、かなり上位にランクされるだろう。

 ただ、教会からもらっているジョブが、リアは〈農業〉、マーナは〈薬師〉なんだよね。ほんと、〈神命職受の儀〉って、個性を無視した、ご都合主義の儀式だよね。


 ともあれ、これからの魔法教授の計画を頭の中で確認しながら、私はワクワクして二人の少女たちを見つめていた。


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