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25 お父さん頑張る

 《マジックバッグ》は確実に売れる、これは間違いない。お父さんが知らなかったということは、この国、いや、この世界にはまだ存在しないアーティファクトかもしれない。ということは、これが知られれば大騒ぎになることは確実だ。


 ただし、今のところ、私やプラムが作るマジックバッグを使いこなすには、かなりの技術と条件が必要だ。


 まず、条件の方から言うと、マジックバッグを使う方にも〈無属性魔法〉の取得が絶対に必要な条件だということだ。

〈無属性〉というと、何の属性も持たない〝ただの魔力〟のことだと誤解されやすいが、それは間違いだ。〈無属性〉もちゃんとした属性なのだ。これを習得しないと、バッグに付与された〈空間〉にアクセスできない。例えるなら鍵付きのスーツケースを鍵を持っていないのに開けようとするようなものだ。


 次に、技術の方だが、これは〈空間〉のことをちゃんと理解していないと、ヘマをしてしまうということだ。

 初心者は、マジックバッグに手を入れれば、何でも引き出せると勘違いしてしまうが、そうすると、バッグより大きなものが引っ掛かったり、バッグそのものが張り裂けたりしてしまうことになる。日本の某アニメの『ド〇ヱ〇ン』の四次元ポケットのように、取り出す時に流動体のような都合のいい形にはならないのだ。


 この世界と隣接した別の〈空間〉(=今後これを亜空間と呼ぶことにする)に収納されたものは、使用者の魔力線をたどってこちらの世界に出てくる。だから、たとえバッグの中に亜空間を付与した場合でも、バッグより大きなものは、バッグの外側に呼び出してやらないといけないのだ。

 もっと簡単に言うと、バッグの中に亜空間を作る必要なんてないということ。現に、私やプラムは、おそろいの銀の腕輪を作って、それに亜空間を紐付け(付与)している。だから、手から少し魔力を流して、取り出したいものをイメージすれば、手の近くにそれが出てくるのだ。足から魔力を流せば、足元に出てくるというわけだ。

 これは、亜空間に収納する場合も同じだ。大きなものを無理やりバッグに押し込む必要はない。バッグの内部に亜空間と紐付けられた何か(魔石が一番良い)を固定してやれば、それを触りながら魔力を流し、収納をイメージをする(難しいなら、声で命令してもよい)だけで、物は魔力線をたどり亜空間へと入ってゆく。


ただ、売る場合は、分かりやすいように、バッグやポーチの中に、亜空間を紐付けされた魔石などを取り付けてやればいいだろう。



 作る空間の大きさにもよるが、例えば、三立方メートルの亜空間を作って、何かに付与するなら、今の私だと一日三個が限界だ。それ以上は魔力切れを起こしてしまう。プラムは二個が限界だ。空間が大きくなれば、使う魔力の量は指数関数的に増えていく。ただし、いったん作ってしまえば、それを維持するのに魔力は全く必要ない。そこはとても良い点だ。



♢♢♢


「考えてみたんだが、やはり、これを普通の商人に買い取ってもらうのはやめた方がいいな」

 お父さんは、私がマジックバッグに改良したオーク革のショルダーバッグを手に、そう言った。


「そうだよねぇ……よほど大きな商人じゃないと、手に余る品だからね」


「ああ……それに、いくらこっちが口止めしても、貴族や悪い組織に脅されたら、こっちの情報をしゃべってしまうだろう。そうなったら、お前たちの命が危ない」


 私とプラムは、その言葉に真剣な表情で頷いた。


「……だが、こいつを売れば、とんでもない大金が手に入るのは間違いない。そこでだ……

かなり危険な賭けだが、貴族と契約を結ぼうと思う」


 おお、それはまた大胆な計画だね。でも、確かに一理ある。貴族なら、こんなすごいお宝にはいくらでもお金をつぎ込むだろう。それに、独占契約ってことにすれば、こちらの情報が外部に漏れる恐れも比較的少ない。ただし、よほど相手を見極めないと、こちらの首を自分で絞めてしまうことになりかねない。


「うん、いい考えだと思うよ。でも、そんなお金持ちで信用できる貴族って、いるかな?」


「はい、私もお嬢様と同じ意見です。旦那様のお考えは、一番安全な販路だとは思いますが、貴族はやはり信用できません」


 私たちの言葉に、今度はお父さんが何度も頷いた。

「ああ、そこが一番のネックだ……そこでだが……これから、少し動いて、貴族についての情報を集めようと思う。先ずは、この領内の三人の貴族だ。一人は領主であるランデール辺境伯、もう一人はアラクムの代官ジレット子爵、そして、バナクスの街の代官シーベル男爵だ。三人ともダメなら、他の領地を当たってみようと思う」


「大丈夫、お父さん? 嗅ぎまわっていることを知られたら、命を狙われるよ」


 私の心配に、お父さんは安心させるように微笑んでこう言った。

「そこは任せておけ。これまでの父さんの経験が生かせる。商人の伝手とやり方を知っているからな」


「うん、分かった。でも、十分注意してね。これがダメでも、他に考えればいいし、まだアイデアはあるんだから」


「ああ、分かっているよ。無茶はしない。じゃあ、当分は、二人で危なくない程度に魔物狩りをやっていてくれ。父さんは、しばらく出かけるからな」



♢♢♢


 こうしてお父さんは、次の日の朝、馬に乗ってイルクスの街へ出かけていった。そこを起点に三、四日ほど領内を回るらしい。背中には、私がマジックバッグに改良したリュックを背負っている。中には三日分の食料とキャンプ用具一式が入っている。それでもまだ余裕で牛二頭入るぐらいのスペースがある。やはり、マジックバッグはとんでもないアイテムだ。


 まあ、ここはお父さんに頑張ってもらおう。この五年間で、お父さんは三十半ばになったけど、以前より数段強くなったから、そう心配する必要もないだろう。私とプラムと一緒に魔物狩りや獣狩りを続けてきた結果だ。ステータスを見れば、それは歴然だ。


*****


《名前》 レブロン・ポーデット

《種族》 人族

《性別》 ♂

《年齢》 35歳

《職業》 冒険者

《状態》 健康


【ステータス】


《レベル》 36

《生命力》 311

《 力 》 158

《魔 力》 60

《物理防御力》 126 

《魔法防御力》 120

《知 力》 146

《俊敏性》 78

《器用さ》 65

《 運 》 88

《スキル》 剣術Rnk5 体術Rnk3 

      無属性魔法Rnk2


******


 五年前と比べて、各ステータスが大きく伸びている。この数値は、だいたいCランク冒険者と同じくらいらしい(お父さんがギルドで聞いた話)。あとは、職業の欄が商人から冒険者になったことと、スキルに体術と無属性魔法が加わったことが目立った変化だ。


 お母さんはそれほど大きな変化はないが、やはりステータスは伸びているし、無属性魔法も習得している。ちなみに、おばあちゃんも無属性魔法を昨年習得した。



 さて、お父さんを見送った後、私たちはみんなで菜園を見に行った。


「……こいつは思ったよりひどいね……」

 私たちが呆然と、菜園の惨状を見ている中で、おばあちゃんが足元に転がっているトマトの実を拾い上げながらつぶやいた。



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