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20 イルクスの街を探索する 1

 街に入った私たちは、とりあえず馬車を冒険者ギルドの近くまで移動させて、建物の脇にある通路から地下の買い取りカウンターに毛皮と素材を運び込んだ。

 数人が並んでいたが、四、五分ほどで私たちの番になった。


「買い取りかい? このカウンターの上に置いてくれ」

 血や汗に汚れたつなぎを着た逞しい体のおじさんが、ぶっきらぼうにそう言った。


 私たちは、持ってきたウルフやクマの毛皮、オークの皮、牙や爪などをカウンターの上に置いた。


「ほお、こいつは上質だな。丁寧に肉や脂身を取り除いて乾かしてある。それと牙に爪、こっちも傷がほとんどないな。よし、毛皮はまとめて一万八千グルだ。牙と爪は、牙が四本で千二百、爪は十八本で九百、合わせて二千百グルだな。いいか?」


 職員のおじさんに問われて、お父さんは一瞬ぼーっとして返事をするのを忘れていた。

「ん、不満か? だが、かなり高めに見積もったつもりだぞ」


「あ、ああ、いや、それで大丈夫だ。ありがとう」

 お父さんは我に返って、お礼を言いながら、カウンターに置かれた大金貨二枚と銀貨一枚、合計二万百グルを受け取って、カウンターから離れた。


「どうかしたの、お父さん?」

 私の問いに、お父さんはまだぼーっとした様子で小さく首を振った。


「い、いや……驚いたよ……こんなに大金が手に入るとは……若くて活きのいい奴らが皆冒険者を目指すのも分かるな、数日働けばこれだけの金が手に入るんだからな」


「うん、まあ、そうだね。ただ、常に命の危険と隣り合わせだけれどね」


「ああ、確かにその通りだ。そう考えれば、正当な報酬だろうな」


 私たちは、そんなことを話しながら馬車に戻った。


「レビー、どうだった?」

 馬車で待っていたプラムとお母さんは、狩りの成果が気になるようで、目を輝かせながらお父さんに注目した。

 お父さんは御者席に乗り込むと、おもむろにポケットから報酬を取り出すと、外から見えないように荷台の中に手を伸ばして手のひらを開いた。


「わっ、す、すごい、大金貨二枚? そんなに高く売れたの?」

 お母さんもプラムも慌てて自分の口を手で押さえたほど、その金額に驚いたのだった。


 私たちは、いったん馬車を預けるために、商人専用の宿屋に向かった。お父さんが商売で何度か来たことがあったので、宿屋はすぐに見つかった。

 一泊分の前金を払ってから、私たちは再び冒険者ギルドへ向かった。今度は、薬草の売却とプラムの冒険者登録のためである。


 お父さんもお母さんも、冒険者の印であるバッジを胸につけていた。そうしないと、たちの悪い冒険者に絡まれる恐れがあるからだ。


(よく、アニメとかで見るわよね、筋肉バカで頭をモヒカンにした奴が、新人をからかう場面て……実際にあんな奴ら、いるのかな? ん、これってフラグ?)


 ……って、そんなラノベ展開なんて、そうそうあるものじゃない。とはいえ、ドアを開けて見たギルドの内部は、よく見るアニメの中の場所とほぼ同じでびっくりしたけどね。

 昼前だからか、広いホールにはほとんど冒険者の姿はなく、とても静かだった。それに、そこにいる冒険者たちも、きちんとした身なりで、静かに会話している人たちばかりだった。


 私たちは、一番手前のカウンターに行って、受付のお姉さんに挨拶した。


「ようこそ、イルクスの冒険者ギルドへ。担当のアレッサです。初めての方ですよね?登録証をお見せいただけますか?」


「ああ、アラクムからこちらに移住してきたんだ。はい、登録証」


「……はい、確認できました。Eランク冒険者ポーデット様ですね、歓迎いたしますわ。それで、本日はどのようなご用件ですか?」


 おお、まるでアニメを見ているようだね。てきぱきしたお姉さんの応対、素敵だ。


「薬草の買い取りと、この子の冒険者登録をお願いする」


「承知しました。では、薬草はこちらのボックスに入れてください。すぐに査定をいたします……はい、これで全部ですね? 少々時間がかかりますので、その間に、この用紙に必要事項の記入をお願いします。査定が終わりましたら名前をお呼びしますので、その用紙を持ってここに来てください。必要な手続きをいたします。なお、手続きには銀貨三枚が必要です。何かご質問はありますか?」


「いや、大丈夫だ。じゃあ、また後で」

 私たちは用紙をもらって、ホールに隣接した飲食ロビーへ移動した。


「受付のお姉さん、てきぱきしていてかっこいいね」

 

 私の問いに、お母さんは頷いてこう言った。

「ええ、競争率の高い仕事なのよ。だから頭脳優秀で、しかも荒くれ男相手でもひるまない度胸と実力も必要なのよね。だから、冒険者上がりの女性が多いと思うわ」


「へえ、そうなんだ。お母さんならできそうだけどね」


 お母さんはくすっと笑いながら、隣のテーブルでプラムに用紙の記入をさせているお父さんをちらりと見てから、小さな声で言った。

「ふふ…実はね、お父さんと出会う前に、ちょっとやったことがあるのよ。でも、ある冒険者の男にしつこく付きまとわれてね……それが嫌で、すぐにやめちゃったの」


 ああ、どこの世界にもストーカーっているんだ。まあ、お母さん美人だから、そりゃあ言い寄る男もいるわよね。


「ポーデット様、査定が終わりましたのでおいでください」

 受付のアレッサさんが、よく通る声で私たちを呼んだ。



♢♢♢


「まず、薬草の査定結果ですが、ポム草が十二本、ラパン草が八本、ルーラ草が十二本でした。とても丁寧に採取されていて良かったのですが、ルーラ草は、乾燥してしまうと薬効成分が蒸発してしまって価値が下がるのです。次回からは、なるべく新鮮なものをお持ちください。それで、ポム草は一本二十グルで二百四十グル、ラパン草は一本二十五グルで二百グル、ルーラ草は残念ながら査定はゼロで、合計四百四十グルとなります。よろしいでしょうか?」


「ああ、それでいいです。じゃあ、これを」


「はい、まず、買取料の四百四十グルです。お確かめください。じゃあ、登録手続きに入りますね。ええっと、プラム様ですね。職業奴隷で、レブロン・ポーデット様の所有でよろしいですか?」


「はい」


「承知しました。希望職種はシーフ、得意武器は短剣、得意技能は索敵ですね。はい、記録できました。こちらが登録証となります。なお、ここに記入された情報は、他のパーティへも公開されますが、よろしいですか?」


「はい、かまいません」


「ありがとうございます。登録料は三百グルとなります。……はい、確かに。では、これで登録手続きは完了しました。これが登録証です。紛失したら再発行いたしますが、再発行には二千グルがかかりますので、くれぐれも紛失されませんようご注意ください。では、またのご利用をお待ちしております」


 ふ~ん、そうか、登録情報は公開されるんだ。パーティを組みたいときに〇〇職の人、ぜひうちのパーティへ、とか募集をするんだろうね。

 まあ、プラムが他のパーティに入ることなんて、何かの作戦のため以外には考えられないけど、〈索敵〉ができて〈隠密〉、〈闇魔法〉持ちなんて、どこのパーティからも引く手あまただろうな。


 さて、これで街での主な用事は済んだ。あとは、お楽しみの買い物だ、やったあ!



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