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19 領都イルクスへ

「おや、おはよう、リーリエ。今日はいつにもましてご機嫌みたいだね、何かいいことでもあったのかい?」

 おばあちゃん(名前はソニアっていうんだって)が、井戸の水を桶に入れながら、顔を洗いに来た私にそう言った。


「おはよう、おばあちゃん。えへへ……うん、夕べとってもいい夢を見たの……あのね、女神様が二人も出てきたんだよ」

 私は、おばあちゃんが汲んでくれた桶の水で顔を洗いながら答えた。


「へえ、そりゃすごいね。きっといいことがあるよ」


 うん、もう良いことはあったよ。女神さまの夢があまりにもリアルだったから、もしかしてと思って、自分のステータス画面を見たのよ。そしたら、なんと、私の謎だった〈運命〉の傍線が消えて、100っていう数値に変わっていたの、すごくない? 100だよ100。なんか、「あなたの運命は百点満点です」って言われたみたいで、すごく嬉しかった。

 それに、もう一つ、〈加護〉のところに、ラクシス様以外に、《女神アトロポス》様の加護が増えていた。どういうこと? 確かに、夕べ、夢の中には、よく似たお顔の二人の女神様が現れたけれど、加護をもらう理由が分からない……。まあ、良いことだから、喜ばないといけないんだけどね。



♢♢♢


「お母さん、畑はどんな具合?」


「ええ、おかげで、少し耕して種を蒔くだけだったから、とても楽だったわ。とりあえずトマトとカボチャの種を蒔いておいたわ」


「うん、分かった。領都に行ったら、他の種も買おうね」


「毛皮と魔石もだいぶ溜まったみたいだから、ベッドも買えたらいいわね」


 そうだね。でも、私は今のままでも全然かまわないよ。プラムと一緒に眠るのは、楽しいからね。ああ、でも、冬になったらちょっと辛いかも。うん、プラムも一緒に眠れるように、できれば大きなベッドを買いたいな。


 さて、今日はいよいよ馬車で領都イルクスに行く予定だ。この数日間で、かなりの数の魔物や獣を狩り、薬草も採取した。毛皮、素材(牙、爪など)、薬草(乾燥させたもの)、魔石などを売って、必要な生活用品や食料品、野菜の種などを購入するのだ。


 久しぶりの一家全員での遠出だ。お母さんも薄くお化粧して嬉しそうだ。



「じゃあ、お母様、行ってきます。都合によっては、今夜は向こうに泊まりになるかもしれません」


「ああ、ゆっくりしておいで。気をつけてね」

 おばあちゃん一人に見送られて、私たちの馬車はゆっくり動き出した。


「おばあちゃん、お土産買ってくるね」

 私は荷台から顔を出して手を振った。そのとき、リビングの窓からミランダ叔母さんの不機嫌そうな顔がちらりと見えたが、無視した。特に文句を言われる筋合いはない。ちゃんと今月分の家賃は払ってあるのだ。


「ねえ、お父さん、領都に行ったら、プラムも冒険者に登録した方がいいよね?」

 荷台から御者席にいるお父さんに尋ねた。プラムはお父さんの隣に座って、辺りの警戒をしていたが、私の言葉にお父さんの方に目を向けた。


「ああ、そうだな。ギルドの登録証は身分証の代わりになるし、魔物の素材や薬草も適正な価格で買い取ってもらえるからな」


「あ~あ、私も早く登録したいなあ」


 私のつぶやきに、お父さんもプラムも思わず笑い出した。

「あはは……確かにな。今でも実力的にはそこら辺のCランク冒険者より強いのにな」


「ふふふ……本当に。あと、三年の我慢ですよ、お嬢様。でも、三年後、お嬢様はどれだけ強くなっているのでしょうか……とても楽しみなような、怖いような……」


「やめて、プラム。リーリエちゃんは、これ以上強くならなくていいの。私がちゃんと立派なレディに育てて、社交界の花になってもらうんだから、ね、私の天使ちゃん」

 お母さんはそう言って、私を抱き寄せた。


 う、うん、それもちょっとねえ……「オーホッホ」なんて笑う自分の姿を想像すると、背中がゾワッてなってしまう。申し訳ないけど、私の中身は、庶民の塊なのだよ、お母さん。



♢♢♢


 馬車は、バルナ村を過ぎ、領都へ通じる街道に入った。私とお父さんとプラムでこの数日間、道沿いの魔物を掃除した場所だ。かなり安全にはなったと思うが、魔物はどこからか湧いて出てくる。油断はできない。

 みんな緊張しながら無言で馬車に乗っていたが、二十五分ほど進むと、前方が明るくなってきた。森を抜けたのだ。


 おお、いい天気だねぇ。んん、これこそ想像通りの異世界の風景だ。抜けるような青い空、見渡す限りの広々とした草原、点在する広葉樹の林、遠く微かに領都の城壁が見える。


「お父さん、どこかで少し休憩しない?」


「ああ、そうだな。あそこの川のほとりがいいかな。馬にも水を飲ませてやろう」

 お父さんはそう言うと、馬の向きを変えて、道から右手の草原に下っていった。


「お嬢様、お水をどうぞ」


「ありがとう。んん、いい気持ち……」

 私はプラムがくれた木のカップを受け取って草の上に座った。冷たい水を飲みながら、何気なく、馬を川に引っ張っていくお父さんの姿を見ていたが、ふと川岸の近くの草むらに何かが動くのを見て、横でロナンにおっぱいを飲ませているお母さんに言った。

「ねえ、お母さん、あそこ、ほらお父さんの右側五メートルくらいのところ、何か動いているよね?」


「え? ああ、あれはたぶんスライムね。大丈夫よ、普通のスライムだったら、ただ餌を探して動き回っているだけだから」


 おお、スライムとな。異世界の定番魔物だけど、この世界に来てからは初めて見る。どれどれ……。

 私は、立ち上がって土手を駆け下りていった。プラムが心配してついてきた。

「お嬢様、スライムといえど魔物、不用意に触ったりなさいませんよう」


「うん、分かった。へえ、これがスライムかぁ……やっぱり、目なんかないよね。どうやって餌を探してるんだろう?」


 私のつぶやきに、最近、私に感化されて魔法学にのめり込み始めたプラムが、ハッとした顔で私を見つめた。

「お嬢様、もしかすると、スライムは〈魔力感知〉を使っているのでは?」


 私はにやりと微笑んで、親指をくいっと立てた。

「うん、たぶん正解だよ、プラム。つまり、〈魔力感知〉って、相手の魔力を感知するだけじゃなく、自分の魔力を使って、相手の動きを感知することも指しているんだよ。だから、プラムが使っている〈索敵〉は、相手の魔力と動きを同時に感知している、すごいスキルってことだね」


 私の説明に、プラムは大げさに喜びは表さなかったが、嬉しそうに頷いて、少しだけ可愛い鼻の穴を膨らませたのだった。



♢♢♢


 再び馬車に揺られること約二十分、私たちはランデール辺境伯の領都イルクスに着いた。おなじみの城門前の行列に並んで待つ間、私は、もうすぐ二歳になる弟のロナンをあやして楽しんでいた。

 金髪に私と同じ灰青色の瞳の弟は、とにかく可愛い。もう、片言の単語はしゃべることができる。「まあま」、「ぱあぱ」、「んまんま」の次に、彼が発したのは、なんと「ねえね」、ああ、なんていい子なの……え? 無理矢理覚えさせたんじゃないかって? い、いいえ、そんなことはしてません、よ……。


 ちなみに、これがロナンのステータス。さすが、我が弟よね、知力も高いし、私が持っていない風属性と水属性の魔法を持っている。よしよし、お姉ちゃんがしっかり鍛えてあげるからね。


******


《名前》 ロナン・ポーデット

《種族》 人族

《性別》 ♂

《年齢》 1歳

《職業》 ???

《状態》 健康


【ステータス】


《レベル》 3

《生命力》 32

《 力 》 5

《魔 力》 55

《物理防御力》 16 

《魔法防御力》 30

《知 力》 87

《俊敏性》 2

《器用さ》 12

《 運 》 56

《スキル》 風属性魔法Rnk1 水属性魔法Rnk1


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