17 無属性とかいう万能チート魔法 2
とりあえず、その場は「分からない」と答えて帰路に就いた。しかし、私の頭の中は、帰りつくまで自分がたどり着いた結論に対する、理論的裏付けを考えることでいっぱいになっていた。
(あの土は、どこから来たのか。考えられることは、先ず、私が魔法で創り出したってことよね。確かにお父さんから買ってもらった《初級魔法》の本には、この世界には〈魔素〉というものがいたるところにあり、あらゆる物に含まれていると書いてあった。この〈魔素〉を使って、自分のイメージしたものを具現化する技術を〈魔法〉というのよね。
だから、あの土を私が魔法で創り出したというのは、理屈は合っている。でも、それが明らかにおかしいという点が二つあるのよ。
まず、〝最初に穴を作ったときに消えた土〟はどこへ消えたのか。今まで自分でもおかしいと気づかなかったことが不思議よね。土魔法って、そんなものだと思い込んでいた。
二つ目は、穴を元に戻したとき、〝穴にぴったりの体積の土〟なんて瞬時に創り出すのは無理だってこと。そんな計算なんてしなかったんだもん)
この二つのことから導き出せる答え、それは、〝土はいったん別の空間に保管されていた〟っていうこと。
そんなバカな…って思うわよね。私もそう思う。だって、それって私が無意識にマジックバッグを空間に創り出したってことなんだもん。
♢♢♢
館に帰り着くと、お父さんとプラムは、戦利品の処理にとりかかった。お父さんは、毛皮を井戸水で丁寧に洗った後、木の枝を組んで、それに毛皮を張りつけ、納屋の中に吊り下げていった。プラムは、肉を台所へ持っていき叔父さん一家におすそ分けした。まあ、例の年配のメイドさんは、不愛想に一言お礼を言っただけだったけどね。
私は、プラムとの共同部屋に入って、さっそくメモ用紙と鉛筆(この世界では炭と土を混ぜて芯を作るから、とても硬くてもろい)を手に、〝消えた土の謎〟について考察を始めた。
(もし、本当に別の空間に土が保管されていたとしたら、私が土魔法で穴を掘ったとき、同時に空間ができたってこと? そうなるよね。じゃあ、私は無意識に空間魔法も発動していたってこと? そもそも、空間魔法って何?)
私は、頭がこんがらがってきて、唸り声を上げながら部屋の中を歩き回った。
(ま、まさか、知らないうちに空間魔法を取得していた?)
ハッとして立ち止まり、慌てて自分のステータス画面を開いた。
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《名前》 リーリエ・ポーデット
《種族》 人族
《性別》 ♀
《年齢》 5歳
《職業》 ???
《状態》 健康
【ステータス】
《レベル》 8
《生命力》 102
《 力 》 13
《魔 力》 233
《物理防御力》 46
《魔法防御力》 75
《知 力》 155
《俊敏性》 12
《器用さ》 68
《 運 》 ──
《スキル》 火属性魔法Rnk3 土属性魔法Rnk4
聖属性魔法Rnk2 無属性魔法Rnk4
《加 護》 運命の女神ラクシスの愛し子
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おお、久しぶりに見たら、各ステータスが順調に上がっているね。おっと、加護のところが《運命の女神ラクシスの愛し子》に変わっている。ああ、ラクシス様ぁ、ありがとうございます。
いやいや、そうじゃなくて……空間魔法は…やっぱり取得して…ないよね。ううむ……何かヒントになるものは……っ! あった! うん、これしかない。《無属性魔法》が、ランク4になっている。無属性魔法なんて、私、意識して使ったことはない。それなのにランクが上がっているということは、無意識のうちに使っているということよね。
でも、無属性魔法って、そもそも何なの?
私は途方に暮れながら、何気なく無属性魔法の表示をクリックしてみた。
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※無属性魔法
〇 純粋な魔力そのものを操作することによって、各属性魔法を補助し、
魔法の精度を高める働きを持つ。
〇〈魔力感知〉、〈結界〉、〈空間〉などの魔法の開発、操作に使用できる。
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はああっ? な、なんですってえ! チートじゃん、これこそが、魔法の神秘を解き明かすカギじゃないですか。うわあ、そういうことだったのか……。
私は、まさに目の前がパアっと開けてゆくような感覚を覚えていた。魔法の持つ不思議のカギは、〈魔素〉と〈無属性魔法〉にあったのだ。
〈魔素〉の正体は分からないが、すでにこの世界に存在しているので、考えるだけ無駄だ。でも、〈無属性魔法〉は、これから魔法を進化させていく上で重要な要素になる。
私は、メモ帳に無属性魔法の説明をそのまま書き写した。そして、にんまり笑みを浮かべた。もし、誰かが見ていたとしたら、さぞかし不気味で、「何か悪だくみをする五歳児」に見えていただろう。
♢♢♢
その夜、私は、プラムが仕事を終えて部屋に帰ってきたとき、我慢できなくて、昼間知ったことを話した。
プラムは、夢中になって話す私を優しく見守っていたが、無属性魔法の説明を聞いて、ハッとしたように身を乗り出した。
「お嬢様、私のステータスを見ていただけませんか? 〈索敵〉というのは、もしかすると〈魔力感知〉と同じなのかもしれません。もし、そうなら、私も《無属性魔法》を身につけられたということではないかと……」
「おお、確かに。よし、じゃあ、見てみるね」
私は、膝を叩いて頷き、プラムのステータスを鑑定してみた。
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《名前》 プラム
《種族》 人族
《性別》 ♀
《年齢》 19歳
《職業》 奴隷(ポーデット家メイド)
《状態》 健康
【ステータス】
《レベル》 18
《生命力》 189
《 力 》 85
《魔 力》 90
《物理防御力》 72
《魔法防御力》 68
《知 力》 106
《俊敏性》 78
《器用さ》 88
《 運 》 75
《スキル》 水属性魔法Rnk3 闇属性魔法Rnk2
無属性魔法Rnk2
短剣術Rnk3 隠密Rnk3 魔力感知Rnk2
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私は、にやにやしながら、主なステータスをメモした。プラムは、うずうずしながら私がメモし終わるのを待っていた。
「ふふん……見たい?」
「お、お嬢様、意地悪しないで早く教えてください」
「はい、どうぞ」
私は、メモ帳を破いて、プラムに差し出した。プラムは、それを受け取ると、食い入るように紙面を見つめ、そして、すぐに小さな歓声を上げた。
「や、やりました、お嬢様、無属性魔法を取得できました」
「おめでとう、プラム! これで、プラムも《空間魔法》が使えるようになるかもよ」
「はい、頑張ってみます。お嬢様、これからもいろいろ教えてください」
その夜、私たちは興奮しておしゃべりしながら、なかなか寝付けなかったのだった。




