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16 無属性とかいう万能チート魔法 1

 バルナ村は、ロマーナ村より標高が高く、水が十分に確保できないので、作物作りには適さず、牧畜と果樹栽培が産業の中心の村だった。


 村へ行く途中にも、小さな林が点在していたので、私たちは薬草を探しながら、林の中に入って行った。


「あ、そこにラパン草があるよ。そのちょっと先にルーラ草もある」

 私は〈鑑定〉を発動しながら林内を見回して、次々に薬草を見つけ出していた。いやあ、この〈鑑定〉のスキルは本当に便利だ。〝薬草〟と心の中で唱えて地面を見回すだけで、そこら辺に生えている薬草の上にパパパッっと名札が現れるのだ。しかも、その名札をクリックすると、効能や生育条件の解説まで見ることができた。


(これって、普通の〈鑑定〉スキルなのかな? もっと上等な気がするんだけど……)

 比較する相手がいないので、何とも言えないが、少なくとも前世のアニメやラノベで見た〈鑑定〉より高度なことができているように思える。


「この調子だと、私のリュックもすぐにいっぱいになりそうですね」

 プラムが、薬草を丁寧にナイフで根元の少し上を切り取りながら嬉しそうに言った。こうしておけば、また新しい芽が出てくるのだ。


「ああ、そうだねえ……ねえ、お父さん、マジックバッグってやっぱり高いの?」


「ん? マジックバッグ? 何だ、それは?」


 えっ? お父さんは当然知っているものだと思って聞いたんだけど……あの、〝異世界もので定番〟の、何でも入れられるバッグ、まさか、この世界にはないの?


「え、えっと、小さなバッグの中に、何でも入るような大きな空間があって……」


 ちょっと、お父さんもプラムも、私を可哀想な子みたいな目で見るのやめてよ。

ええっ、本当にないの? ショック……お金が溜まったら、絶対手に入れたいものNO1だったのに……。


「そんな夢のようなバッグ、聞いたことがないが、リーリエはどこで聞いたんだい?」


 これは、下手なことを言うよりごまかした方がよさそうだ。

「あ、あれ? 夢で見たのかなあ、こんな便利なものがあったらいいなあって思っていたから……あは、はは……」


 お父さんは苦笑しながら納得してくれたが、プラムはじっと私を疑うように見つめていた。いや、やめてプラム……いくら私でも、すぐにマジックバッグなんて作れないからね。


 そう言えば、前世で見たアニメやラノベででは、マジックバッグは既成のものとして扱われ、どうやって作るのかは解説されてなかったな……いや、一つだけヒントになりそうなアニメがあった。チートな少年が主人公のアニメで、確か、《空間魔法》を白髪の紳士から学ぶ中で、〈ストレージ〉とかいう魔法が、マジックバッグと同じ機能を持っていたっけ……。

《空間魔法》か……そんな属性は持ってないから、やっぱり、マジックバッグは夢で終わるのかなあ……。


 この時、私はまだ知らなかったのだ。実は、《空間魔法》につながる魔法属性を、自分が持っていることに。そして、プラムもその素質を持っていたことに。



♢♢♢


「さて、ここから危険度が増す区域だ。用心しながら進むぞ」


 バルナ村の横を通り過ぎて、私たちはいよいよ領都につながる街道の入り口に来ていた。道の両側には、森が広がっており、左の方には道と並行するように大きな川が流れていた。魔物や野生の動物が暮らすには良い場所だ。


「右手、三十ラリード先にオオカミの群れです」

 街道に入って五分も経たないうちに、プラムの〈索敵〉に早くも魔物が掛かった。


「ランドウルフか……リーリエ、何匹か足止めできるか?」


「うん、任せて。焼き払うのが一番簡単だけど、毛皮の素材が取れないからね。ここは……」

 私は、土属性魔法の準備をして、お父さんにゆっくり近づいてもらった。


 肉眼でも、木々の間からこちらをうかがっているオオカミたちの姿が見える所まで近づいた。

「プラム、道の方に誘い出せる?」


「やってみます」

 プラムはそう言うと、〈隠密〉を発動させて、音もなくスルスルと木々の間をオオカミたちの方へ近づいていった。


(おお、かっこいい。やっぱり忍者服着せてみたいよね)

 私がそんなことを考えている間に、プラムは、オオカミたちから十メートルほどまで近づいてから、私に向かってそっと手を上げた。


 私はゆっくり手招きした後、二十メートル先も道の真ん中に魔力を集中させた。そして、私が一気に手を振り下ろした瞬間、プラムが木の陰からランドウルフたちの前に飛び出し、そのままこちらに向かってダッシュで走り出した。

 ランドウルフたちは、一瞬驚いて固まったが、逃げる獲物を追いかける習性には勝てなかったようだ。リーダーらしき一匹を先頭に、三匹がその後を追い、二匹が林の中を走り出した。


「よし、今だっ!」

 プラムがその場所を通り過ぎた瞬間、私は魔法を発動させた。


 ギャウッ……ギャンン、キャウン……ランドウルフたちはリーダーを先頭に、いきなり開いた深い落とし穴に次々に落ちていった。


 ガウウッ……林の中を追いかけていた二匹が、仲間のピンチを見て、プラムに向かってきた。


「お父さん、行こう」

 私の声と同時に、お父さんは駆け出していく。


「やあっ、ふんっ!」

 プラムは飛び掛かってきた一匹を、体を反転させて躱すと、ショートソードを一閃させて、地面に着地したウルフの首を後ろから切りつけた。

 ギャンッ……ウルフは、悲鳴を上げて前にジャンプしたが、そのままヨロヨロと二、三歩歩いて、バタリと倒れた。もう一匹は、それを見ると牙をむきだして、唸り声を上げていたが、お父さんが走ってくるのを見ると、悔し気に尻尾を垂れて林の奥に走り去っていった。


「プラム、大丈夫?」


 私の問いに、プラムはにっこり微笑んで頷いた。

「はい、大丈夫です。お嬢様の作戦、お見事でした」


「さあて、こいつらはどうしたものかな」

 お父さんが、落とし穴の中で、唸りながら暴れているウルフたちを見下ろしながら、困ったような声を上げた。


「う~ん……水攻めにする?」


「なるほど、それはいいですね。ああ、でも、濡れると毛皮が重くなるかもです」


「そっかあ……っ! あ、そうだ、ねえプラム、闇属性で〈睡眠〉か〈麻痺〉っていう魔法は使えないかな?」


「睡眠、麻痺……イメージすればいいのでしょうか?」


「うん、このウルフたちがぐっすり眠っている様子を思い浮かべてみて……それから、そのイメージを魔力を使って脳の中に流し込む感じで……」


 プラムは深呼吸をすると、しばらく目をつぶった。そして、おもむろに目を開けると片手を穴の方へ伸ばして、小さくつぶやいた。

「闇の精霊たちよ、この者たちを安らかな眠りの世界に誘い給え……」


「すごい、一瞬で眠ってしまったぞ」

 ずっと穴の中を見守っていたお父さんが、驚嘆の声を上げた。


 プラムは、いまだに何か呪文を唱えないと魔法が発動しないと思っているらしいが、今見ていると、彼女が呪文を唱え終わる前に、もうウルフたちは眠り始めていた。

 つまり、プラムはすでに無詠唱魔法を無意識のうちに使えるようになっているのだ。


「リーリエ、ちょっと降りていてくれ」

 お父さんはそう言うと、リュックを地面に下ろし、穴の中に入っていった。そして、ぐっすり眠りこんでいるウルフたちを、一匹ずつ外に出した。


 プラムは、その間に自分が倒したウルフの後ろ足を麻のロープで縛って、近くの木の枝に吊り下げていた。


 そこからは、ちょっと見ている分にはきつい〝解体作業〟が続いた。木から吊るして血抜きをしながら首から下の毛皮をはぎ、心臓の近くにある魔石を抜き取る。


「肉も持って帰りたいが、全部は無理だな。二匹分だけにしよう」

「分かりました」

 お父さんとプラムは、そう話しながら手際よくウルフの肉を切り分け、葉っぱの付いた木の枝を集めて間に肉を挟み、その上から木に巻き付いていたツルを使ってぐるぐる巻きに縛った。多少血は滴るだろうが、これがこの世界の狩りのやり方だ。

 もちろん死体をそのまま持ち帰る場合もあるが、今回はお父さんとプラムでは一匹が精一杯なので、毛皮と魔石を主な収穫物にしたのである。


「馬車があればよかったね」


「そうだな……だが、馬車だと森の中や岩山は行けないからね」


 そうなんだよね。道がないと馬車は使えない。ああ、やっぱりマジックバッグが欲しいな。


「じゃあ、今日は帰ろうか。リーリエ、この穴は埋められるかい?」


 お父さんの言葉に、私は何気なく頷いた。

「分かった……ほいっ」

 私が土魔法を発動すると、ウルフたちの死体や臓器が入っていた直径四メートル、深さ二メートルの大きな穴は、一瞬のうちに埋まり、元通りの道になった。


 さて、じゃあ家に帰りますか、とお父さんの方を向いた時、お父さんが何か難しい顔で、元の戻った道を見つめていた。


「お、お父さん?」


「リーリエ……い、今、どこから土を出したんだ?」


 えっ? 土…どこから?……どこからだっけ……分からない。


「私の目には、何もない空中から、土が突然出てきたように見えました」


 プラムの言葉を頭の中で反芻しながら、私はとんでもない結論にたどり着いていた。


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