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14 自立のための方策 

「お母さん、ごめんなさい、家の中によけいな波風を立ててしまったわ」

 叔父さん一家が出ていった後、お母さんはおばあちゃんに頭を下げた。


 おばあちゃんは、少し悲し気に首を振った。

「ミランダがあんな風に言ったのも理由があってね……」

 そう言ってから、お茶を一口飲んだおばあちゃんは、小さなため息を吐いて続けた。

「うちの領地は、これといった特産物もないし、人口も少ないから税収が少なくてね。爵位を買った時の借金は、何とか返せたけれど、領地と生活を維持していくだけで精一杯の状況なのさ。生活が苦しくて村を出ていく領民たちも少なくないから、これ以上税を高くするわけにもいかず、どうにもならない状態でね……」


 そうかあ、領地経営も大変なんだね。何か、特産品でもあればねえ……特産品、何か探せばあるんじゃない? なければ、作ればいいのよ。うん、ちょっと前世の知識を生かして考えてみるか。あ、これって、ずるじゃないですよね、ラクシス様?



♢♢♢


 その日の夜、私とプラムは同じ部屋で、床の上にシーツを敷いて、毛布を二人でかぶって眠ることになった。ベッドは、お金をためてから買うことになったのだ。


「申し訳ありません、お嬢様にこんなつらい思いをさせてしまって……」

 プラムはしきりに謝ったが、私はむしろ楽しい気分だった。床に直接寝るのは、前世の時から慣れているからね。


「ううん、むしろ楽しいよ。こうして、プラムと一緒に眠れるなんて、毎日がキャンプみたいじゃない?」


 プラムは涙ぐんだ目で私をじっと見つめながら、ぽつりと言った。

「ときどき、お嬢様は本当に五歳だろうかと思うことがあります……」


 ギクッ、まずい、プラムは鋭いから注意しなくちゃ。いや、私だってさあ、年相応にふるまいたいのよ、本当は。でも……分かんないんだもん、というか忘れちゃったのよ、五歳児の私がどんな言動してたかなんて……。


「……でも、天才って、やっぱり他の人とは違うんだって、お嬢様のお側にいてようく分かりました」


 あは、はは……いや、それも間違ってるんだけどね。私は、中身が転生したおばさんってだけなのよ。


「ありがとうね、プラム……ところでさ、明日からみんなで生活費を稼がないといけないじゃない? 何が一番お金を稼げると思う?」


 私の問いに、プラムはあごに手をやってう~んと唸っていたが、やがて顔を上げてこう言った。

「そうですね……やはり、魔物の素材と魔石、それと薬草採取が手っ取り早い現金収入だと思います」


「やっぱり、そうよね。野菜作りや特産品作りも並行してやりながら、冒険者の仕事で日銭を稼ぐ、うん、やっぱり、これよ」


「でも、お嬢様は、まだ冒険者登録はできませんよ、八歳からですから。それに、奥様や旦那様がお許しになりませんよ」


「うん、分かってる。だからね、ちょっと作戦を考えたの。プラムにも協力してもらいたいの。ちょっと、耳貸して……」

 その夜、私たちは、いつもの寝る時間を過ぎても楽しい作戦会議を続けた。



♢♢♢


 次の朝、バローズ館での初めての朝だ。私が目を覚ました時、プラムはすでにいなかった。そして、私がゆっくりと着替えを済ませてから、しばらくしてドアがノックされプラムの声が聞こえてきた。

「リーリエお嬢様、朝食のお時間です」


「はあい」


 私の返事とともにドアが開かれ、水桶とタオルを持ってプラムが入ってきた。

「もう、旦那様と奥様はテーブルについておられます。急ぎましょう」

 そう言って、プラムは水桶を差し出した。水桶を置こうにも、テーブルも机もその部屋にはなかったのだ。


 私は、そっと水桶に両手を差し込んで水をすくい、顔を近づけた。井戸の水だろうか、いつもより冷たく感じられた。プラムがタオルで優しく顔や手を拭いてくれた。


「おはよう、お父さん、お母さん、おはよう、ロナン」


「おはよう」


「おはよう、リーリエちゃん。今日もとっても可愛いわ」


 私はお母さんの向かい側の席に着いた。テーブルには野営用に用意していた干し肉とトマトを煮込んだスープと、固焼きパンがあるだけの寂しい朝食だった。これも、たぶん最後の備品だろう。まだ、少しはお金の貯えもあるだろうが、早く収入の道を考えないといけない。


「ねえ、お父さん、食事が終わったら相談したいことがあるんだけど、いい?」

 私は、スープをすくって飲みながらお父さんに言った。


「ああ、いいとも。父さんもみんなに話があるからね」

 お父さんは、固焼きパンをスープに浸して食べながら頷いた。


 朝食後、私たちはお父さんたちが使っている部屋に移動した。小さなベッドがあるその部屋には、まだ開封していない荷物入りの箱が何個か置かれていた。

 お父さんは箱の一つに座り、お母さんはロナンにおっぱいを飲ませながらベッドに座っていた。私とプラムは、お父さんに向かい合うようにして箱に座った。


「じゃあ、まず、リーリエの話を聞こうか」


「うん、分かった。あのね、私たちって、すぐにお金を稼ぐ方法を考えないといけないでしょう? だから、私、考えたの。一つは長期的なもので、もう一つは短期的、というか、即日的なものなの。まず、長期的なものだけど、畑を作って野菜を植えるの。それと、特産品を作り出すことね。次に、すぐに現金収入になるもの。それは、魔物の素材と魔石、そして薬草ね。つまり、魔物退治と薬草採取をすること。どうかしら?」


 お父さんとお母さんはびっくりしたように顔を見合わせてから、苦笑して肩をすくめ合った。


「まったく、お前って子は……あはは……ああ、ごめんな、笑ってしまって……でも、夕べ母さんと二人で考えたことと、ほとんど同じだったからびっくりしたんだ。ただ、畑で野菜を作ることと特産品を作ることは考えつかなかったな。父さんたちは、山で、獣や鳥、魔物なんかを狩ったり、食べられる山菜や果実を採ろうって話していたんだよ」


「うん、その日を暮らすだけならそれでいいと思う。でも、私は早く私たちのお家がほしいの。そのためには、大きな収益が必要だわ。商売はお父さんの専門だから、どんなものが売れるか分かるでしょう? 私にもいくつかアイデアがあるから、作ってみようと思うの」


「レビー、私もリーリエの考えに賛成よ。やってみましょう」


「ああ、そうだな。私たちにはリーリエという神様の子がいる。きっと、うまくいくさ」

 お父さんは、そう言って私を抱きしめた。



「じゃあ、リーリエはロナンのお守りをしながら、特産品の構想を練ってね? プラムは、畑作りをお願いしていいかしら? 私とレビーで、狩りと採集をしてくるわ」


 お母さんがてきぱきと役割分担を言い渡したが、私はそれに異議を唱えた。

「ええっと、ちょっと待って、お母さん。私の考えを聞いてほしいの」


「え、ええ、いいわよ、言ってみて……」

 両親は、怪訝な顔をして私を見つめた。確かに常識的に考えれば、お母さんの考えが正しいだろう。しかし、より効率を高めるには……。


「あのね、お父さんと私とプラムで狩りや採集をした方が、多分収益は上がると思うの。あの、誤解しないでね、お母さんに力がないって言ってるんじゃないの。私は〈鑑定〉と魔法が使えるし、プラムは〈索敵〉ができるし、〈隠密〉のスキルも持っている。危険を避けるためにも、この三人の方がいいと思うの」



(レーニエは分かっていた。確かに、ここに来るまでの魔物や盗賊たちとの戦いを見れば、今や自分よりも娘の方がはるかに強い戦闘力を持っている、と。だが、娘はまだ五歳なのだ。母親として、そんな幼い娘にあえて危険なことをさせるというのは、心理的に耐えられなかった。)

「そ、それはだめよ。リーリエ、あなたまだ五歳なのよ、そんなあなたを危険な目に合わせるなんて、できるわけないじゃない」


(リーリエも母が反対することは分かっていた。だから、少し卑怯だとは思ったが、母が引かざるを得ない理由を考えていた)

「でもね、お母さん、ロナンにお乳をやるために、お昼に帰ってきて、午後にまた出かけるの? それに、もし、お母さんに何かあったらロナンのお乳はどうするの?」


「そ、それは……」


「それにね、もう一つ、私が足手まといにならない方法を考えたの……」

 私はお母さんを安心させるように、いたずらっぽく笑みを浮かべながら続けた。

「私ね、お父さんのリュックに入って行こうと思うの」


 これが、昨夜プラムと一緒に考えた、名付けて「ミノムシ作戦」だ。


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