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悪役令嬢の結末

私は理解した。

この世界は、乙女ゲーム『聖女と王冠のソナタ』と同じ舞台である事を。

そして。

姉さまであるリリス・エルメロワが、どんな運命を背負わされていたかも。


リリスには、生まれつき“刻印”があった。


それは龍の鱗を模した複雑な紋章。

背中に浮かぶそれは、この国に一体しか存在しない「守護龍」の供物として選ばれた証。


この国では、五百年に一度、龍に「人」を捧げる儀式がある。

災厄を防ぎ、王朝の安寧を保つために、ひとりの少女が、龍の腹へと消える。


選ばれた家には、栄光が与えられる。

爵位の昇進。王家との縁組。莫大な資産。


そしてリリスは、選ばれたのだ。


彼女が生まれた瞬間、家は歓喜した。

父は「我が家に栄光が来た」と言い、母は「これで未来が保証された」と微笑んだ。


彼女には優秀な兄がいた。

跡取りは既にいるのだから、彼女を失っても痛くはない。

だからこそ、誰も迷うことなく、彼女を「差し出す」と決めた。


それが故に、リリスは愛されなかった。

誰が、死ぬと定められた娘を愛するだろう。

誰が、数年後にいなくなる少女に、心を注ぐだろう。


彼女は放任された。

望むものは与えられた。

我儘も許された。

けれど、それは「愛」ではなかった。


王子との婚約が決まったのも、政治的理由にしか過ぎない。

「自らの妻を龍へ捧げた王子」という献身を演出するための、舞台装置。


その全てを呪い、リリスは狂った。


少しずつ。

静かに。

誰にも気づかれぬように。


ゲームの中で、彼女は学園に入ってから数々の非道を為した。

異端魔術の習得。生徒会の私物化。

ヒロインたちを陥れ、王子を縛り、敵対者を闇に葬る。


そして、最終的に。

ヒロインたちに討たれるのだ。


その魂を、龍が喰らい、儀式は完遂される。

王家は盤石となり、国は平和を得る。


それが、ゲームの「正史」である。

誰もが幸せになるために、リリスだけが消費される物語。


そして私は。

その運命を知ったうえで、彼女の「共犯者」となる選択をした。

彼女をあの不幸から、救い出さねばならない。

 

姉さまに救われた翌日、私は塔を出た。

彼女の命で、本家の屋敷に迎え入れられる事になったのだ。


広く、豪奢な部屋が与えられた。

食事も、服も、薬も、すべてが整っていた。


けれど、家族の目は冷たかった。


父も母も、兄も。

私を見て、露骨に顔をしかめた。


「リリスの気まぐれか」


「あまり顔を見せるな」


それに対して、リリスはこう反応した。


「何か文句でも?」


三人は、途端に目を反らした。

誰にも逆らえない。

たとえ親であろうとも。

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