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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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73話 春に吹く風

バドリーラによる東部艦隊への被害はバドアトン運用艦隊と各モガリア系ラボ以外は限定的なもので、むしろその流れで空いた東部の防衛線が一部破れて西部艦隊に陣内に食い込まれたことの方が痛手だった。


東部もトリグラフォをベースにしたB型機数十機と、ボルテチベースの非感応器搭載の対艦汎用機隊の投入でそれなりの戦果を上げ、東西は双方痛み分けで撤退することとなった。


地上の連鎖紛争に端を発した一連の東西全域抗争はこれを最後に宇宙でもまた急速に収束した。


戦役名は各勢力が汚名や先鋭化を嫌って二転三転としたが、月圏内の大規模東西艦隊戦から7年後の国際会議で『モガリア戦役』と決まった。


その1年前にエルマーシュ姫がモガリア国の再興を正式に固辞し、また即時禁止兵器化した分解粒子技術とテレパスの長距離拡大技術が非モガリア系汎用感応器でも実現したことで、彼女達が東西政府から強い関心を持たれることがなくなったことが、遠因でもあった。


なお、全てのモガリア系培養兵の生産が全てのレベルで停止したのはそれからさらに三十数年後であった。


東部において、モガリア系培養兵、及びメリー・フォー系と呼ばれる血統は後の世まで数多い。


それが非合法な経緯による物か、あるいは活動報酬による物か、定かではない。


_____



呼吸できる空気は整えられていたけど、肌寒くて、苔と鉱物独特の匂いがするんだぞ。


「おやすみ、バドリーラ」


「カミラビによろしくです」


「姉様、初めのラルヨーシュ。さよなら」


ビルボベースの一番深い廃坑道の最深部に、屈んだ姿勢のリーラIIに自分で擬態したバドリーラに、ザリデとアンゼリカと両腕は義手になったけどすっかり回復したエルマーシュ姫は思念を送って、半粒子化して、『鉄鋼機のような結晶の塊』に変えた!


マジカルなんだぞ···


坑道には3人とオイラ以外に、ブルーナ、ガーラン艦長、ルーラ副艦長、オンディーナ、ゼリとキャンデ、ミコ、ビン、幼児退行してるザリデ達が連れてきたXIIIとその面倒を見てるサティ、みんな3位て付けるノース、タンクトップになりがちなベニ、ドン引きしてるビルボベースの市長とそのお付き数名、こっちもドン引きしてるビルボベース艦隊の司令官だった人とそのお付き数名、あとはガードドローンが少々来てた。


「さて、片付いたな。ではリュウグウクランの解散を宣言しよう! 目立ち過ぎたのと、船を公社や西部に返さないとなっ。はは」


ヤケクソ気味の艦長だぞ。


「俺、エアギルドの仕事まだあんまりできてないよ?」


「私とXIIIはまず戸籍上透明人間です。まぁXIIIは赤ちゃんになっちゃったけど···」


「赤ちゃんじゃないもんね?」


「ばぁっ、キャッキャッ」


10代前半の姿で困り顔のサティにあやされてるXIII!


「皆さん」


「静粛に。姫のお言葉でごじゃります」


進み出るエルマーシュ姫。スッと側に控えるブルーナ。最近は侍従から専属秘書官にチェンジしてる。元々そっち系だったから、戻った、て感じだぞ。眼鏡もとんがったヤツに変えてる。


「私の戦いに巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」


頭を下げる姫。慌てるブルーナ。


「姫、お顔をお上げ下さいっ。むしろ名誉なことでごじゃりますから!」


「ブルーナさんはちょっと黙っていて下さい」


キッと顔を上げられ「はひぃ」と引っ込むブルーナ。ブルーナの扱いがわかってきてるぞ。


「犠牲も出しました。···ザリデとアンゼリカも、辛い選択をさせましたね」


「いや、始めたことは終わらせないと」


「モガリア機は思ったよりマズかったです。だからこそのカミラビで、あとはまぁオドカグヤみたいなのも現れたんでしょうけど。この世は人間だけで手一杯ですよ? 神様には退場してもらうしかないですね」


「あなた達に出逢えてよかった。私ではきっと、バドリーラを穏やかに眠らせてあげることはできなかった···」


姫が一筋涙を零して、結晶のバドリーラを振り返ったから、全員改めて見上げる。


「眠らせる前、一応整備してやったことも忘れるんじゃないぞ?」


ぼんやりずっと輝いてるバドリーラに、オイラはこっそり囁いてやった。


_____



それから私達はいくつかのグループに分かれることになりました。


姫とブルーナはビンを護衛に一番情勢が安定している月に帰ってゆき、いつの間にかベニと付き合ってノース3位は公社を止めてビルボベースでベニと秘匿された結晶のバドリーラの番をすることに。


ミコは微妙な立場のXIIIとお守り役になっちゃったサティと、当面仕事のありそうな木星圏に行くことになったんですが、意外なことに船の艦長は「西部であれこれ報告するのが面倒になった」と西部軍の本籍を抜いたルーラで、さらに「マリネリス工房でバドリーラ擬きを造らされるのは億劫」「次やらかしたらマントルじゃ済まないでしょうしね」とゼリ&キャンのオババ達も付いてくことになってた。


ただ別れ際、


「またね、少年!」


「うッス」


とザリデをハグして額にキスしてゆくミコだったよ。


こっちにウィンクしてくるし···XIII、頼みましたからね?


で、私とザリデはというと、


「「おー、ボクらの〜、水平線のー、掲げろぉ、勇気の、は〜たぁ〜〜」」


鉄鋼機がギリ1機乗せられる程度の小型オンボロ民間降下船のドックに寝かされた、一応ジェムに高高度戦仕様に調整したマナ・リーラIIのコクピットで、ジガIIに覚えさせられた大昔のアニソンを熱唱していた。


船は現在、大気圏再突入角度調整中。


「お前達、最近はいくらか落ち着いたがまた降下物資狙いの賊は出る。しっかり備えてくれよ?」


ガーラン艦長ならぬガーラン機長殿が通信入れてくる。


「オイラが神調整しといたから問題ないぞ?」


ルーラとは喧嘩しそう、とこっちに付いてきたジェム姐。


「さっさとキッチンのある船に移っておくれよ」


チュンさんも「木星なんてヤダ」と、こっち来た。


「そこはヒロシ局長との交渉次第ですね」


ルーラが付いてこなくてずっと機嫌いいオンディーナ。


この6人がクルーの全てです。コンパクトになりましたね〜。


「よしっ、再突入開始!」


交渉云々から話を逸らし、この人、今無職じゃないかな? と言う感触のガーラン機長は降下船を地上へと傾けました。


「「どんな〜、嵐もぉ、ドンと来ぉいっ!!」」


2人で歌いながら、私達の船は灼熱の大気圏に入り地上へと落ちてゆきました。


_____



バーッと! 春の雨季の雨が乾燥帯仕様のマナ・リーラの装甲に当たってる。


「ザリデ! アンゼリカ! 回り込むぞぉ! ハッハッハッ」


地上で合流できた、タロスIIIバーニアンに乗ってるハルバジャンからの通信。ガス撒いてないから通る。


「了解」


「なんで上機嫌なんです??」


「ハルバジャンは大体そうっ」


2機で、濡れた砂から噴出して現れた大型砂蟲スナカイリュウモドキに回り込む。


水分を吸って停滞しているが、運悪く出会したカーキャラバン隊を壊滅させて人の味を覚えてしまった個体だ。


雨で熱弾は使い難いから、普段あまり使わないアサルトバズーカを装備してる。


側面の、外骨格の隙間を挟撃で撃ち始める。


「クゥアアーーーンンッッ!!!」


吠えるスナカイリュウモドキ。


「長く苦しめたくないっ」


「ですね!」


首を捻って高圧の砂を噴射してくるスナカイリュウモドキ!!


フットバーニアを効かせて回避っ。身を捻って、もう一撃実体弾を側面の傷口に撃ち込む。


砂に潜ろうとするスナカイリュウモドキ! だが、


「もらった!!」


雨を考慮して射出は1基のみ。熱刃ボットを放ち、開いた傷口から体内に熱刃を打ち込み、脳の機能を持つ器官を貫いて焼いた。


濡れた砂を派手に巻き上げてスナカイリュウモドキは絶命した。


「いい手際だ! 2人ともっ」


「うッス」


「当然です」


「ご苦労さん。これで食われたカーキャラバンの連中も浮かばれるだろ。まぁスナカイリュウモドキは食材としても売りられるだろうが···」


「「「···」」」


上空に現れた改造された小型輸送艦グリルポークIVのガーラン艦長が余計なこというから気まずくなったが、新生リュウグウクランは普通に金欠中! しっかり働かないとさ。


でもって、


「エアギルドに連絡も済みましたし、近くに雨で湖のできた拡大した野営地があるようです。少し水を補給しましょう」


と秘書官から見習い副艦長に出世したオンディーナの提案で、俺達は段々雨が晴れてゆく、日差しで煌めく砂漠を船で渡り、着陸した。


「電磁波塔整備するぞぉー! 蟲入ってるかもしれないから作業機から降りるなよー?!」


最近短気は落ち着いてる作業機のジェム姐がハッチを開けて新米ドッククルー達に呼び掛ける。


ここは無人野営地で、ドローンの安全確認が済んでないから、俺とアンゼリカはハッチを開けた作業機のミケタマで雨季だけらしい湖の側に来ていた。


砂漠の木は雨季に水分を蓄えるから年中生えてるが、雨季は草花も湖を縁取っていた。


「砂漠はやっぱり落ち着きますか?」


ピンク髪をショートに切った紫スーツのアンゼリカ。今はB級に安定化再調整をして体調がかなりいいらしい。背も少し伸びたみたいだ。俺も。


「そうだなぁ」


眩しいくらいの湖を見てから、目を閉じる。


(ザリデ、もっと世界を見せて)


あの子の気配を感じた。


「今は、風が気持ちいいよ」


湖面を涼しく吹いていた。

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