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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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70話 刻の王宮

ゲリラ艦隊戦からほんの10日くらいで主な地上の紛争地では停戦協議が相次いで行われだし、それに釣られて宇宙での東西の争いも徐々に縮小した。


各地で燻っていた火種の洗い出しが一段落ついたのと、地上の人口減少に自治国家群の権限強化の動き、宇宙では木星系を中心とした過激派の活性化とほぼ無風で結果的に勢力拡大した火星系勢力の存在感が問題になったらしい。


それでも東西の急進派は振り上げた拳の振り下ろし先がなくなって、月圏内の宙域で一触即発の睨み合いになっていた。


「料理長はチュンさんだっけ? やっぱこっちのパイロット食の方が美味しいわ。ドワーフの御飯は大雑把だから」


「公社のレーションも実用一点張りだよ?」


バルタンIII改の上級パイロット待機室で、ベニとノース3位が呑気そうにバーガーを齧ってる。ベニは相変わらず上はタンクトップだが見慣れてしまって(暑がりなんだな)て感じ。


「ザリデ、アンゼリカ。これで最後だ。あたしは艦護衛に回るが、あんた達は倒しきれないようならさっさと逃げていい。最悪バドアトンに対しては核使用の申し合わせが上で済んでるらしいから」


今回はリュウグウクラン艦隊はちょっと無理して前衛まで出張ることになってる。ビンの艦護衛専念は頼もしい。


「今のパイロットは知らない子ですが、私達でケリをつけてやりますわ。あの兵装に核が上手くハマるか怪しいですしね···」


「ミコもよろしく!」


「むぁん」


バーガーを齧りながら気のない返事のミコだった。


開戦は双方が月の調停団を突き返し、巻き込まれる公社とドワーフと海賊と傭兵会社の人達がうんざりしたまま唐突に起こった。


公式記録上は100%『相手が先に撃った』と記されるヤツ!!


「バドリーラ隊っ、それらしい小艦隊を特定できた。艦列から突出できるギリギリまで運ぶ! 月から姫も見ているだろう。やるだけやってこいっ!」


「気を付けて」


「ただのアフターケアなので程々に」


ガーラン艦長と珍しくオンディーナさんとルーラ副艦長もドックに通信を入れてきた。


「「了解」」


通信を切り、ポリカネードを一口。アンゼリカは炭酸抜きのラコーカだな。


「姫か···」


「姫とバドリーラの性能的にたぶん干渉範囲です。横入りさせずに勝ちますよ?」


「おう」


気合い入れ直しつつ、リュウグウクランとビルボベース選抜の艦隊は東部の前線部隊の一部を強引にこじ開けてくれた。


「ザリデ、バドリーラ・ディスガイズ。出ます!」


「アンゼリカVI、同じくです!」


「ミコ、ユニクスII改。行っちゃうぞ!」


バドリーラとミコ機は宇宙戦用ライドグライダーで出撃した。


バドリーラはグライダーを使うこと前提で緩衝ビッグクローを改めて装備していた。


ミコ機もパックの代わりに感応器搭載の無線ドローンを山盛り装備してる。


(最短でもあと数段はこじ開ける必要がありますよ?)


(どんと来い!)


途中の東部系機体群は、奇襲とグライダーの速さとグライダー自体に積んだパック装備で対処っ。


俺達は脱出缶を使わせたけど、ミコは偶然か自立の踏ん張りで生き残るヤツ以外に容赦無し!


ドドドドドッッッ!!! 乱戦の中、一気に抜けてくっ。


やがて···前方で、味方からも遠巻きにされてる黒い粒子を操る機影。


「いますね」


(ミコとも繋いでくれ)


(まぁいいですけど、ミコ)


(あいよ)


(向こうも単騎だ、俺達だけでやらせてほしい。バドリーラもそうしたい感じ)


(···わかった。退路はきっちり確保しとくからね!)


ミコ機はライドグライダーを減速させ、こちらが速過ぎてあっという間に遠ざかる。光信号で『2人、心音』と伝えて集まってきた敵機に応戦を始めていた。


「「···」」


グライダーのパックは使い切ったからバドリーラ本体の対空パック乱射で、周囲の他の敵機を纏めて威嚇しグライダーを乗り捨て、俺達は逆巻く闇の中のバドアトンと対峙した。


俺達は互いに心臓の音を感じた。


勇気しかない。


「···くっ、はははははっっ!!! そっちもこちらを探してたらしいな。バドアトンと零号が焦らしていたのか? 知識はある。恋人同士みたいじゃないかっ?!!」


機体が同調し、言葉がそのまま伝わってくる。バドアトンの闇の粒子は邪魔を妨げるように周囲を覆ってゆく。


「お前はラルヨーシュXIII? Ⅻは私より上手くやったようですよ」


「アイツには頭突きを喰らった! 痛かった、クソっ。だがもういい···零号を取り込めばっ、バドアトンは完成する!! 初代以外のモガリアの御子達の生体因子っっ、寄越せよぉ!!!」


闇の渦が迫る!


((バドリーラ!!))


バドリーラも輝く粒子で機体を護り、突進する!


「完成ってちょっと興味ある! 俺のバドリーラのイメージと差がありそうだけど!!」


「なにがイメージだ! 零号等はただの素材に過ぎないっ。このバドアトンでっ! モガリア機の理想は完成する!! 見せてやるよっ、神のごとき災禍の顕現を!!!」


「使い棄てにされたただのヤツ当たりでしょうに、大袈裟ぁーーー!!!」


「うるさい! 誰にでも尻尾を振る犬っころめっ」


「アンゼリカはお前が言うより気難しいからな!」


「うーっ、わんわん!!」


話になんないねっ。


「「「うぁあああーーーーっっっっ!!!!!」」」


臨界軌道で粒子をぶつけ合い、互いの感応器は過剰に同調し合った···


俺達は虚空に浮かぶ王宮? の遺跡にいた。

俺もアンゼリカも、具合悪そうだけどかなり幼いラルヨーシュXIIIも古風な王族の服を着せられてる。


互い睨み合いなったけど、今はどうしようもない。


「座ろっか?」


勧めて、近くの朽ち掛けたテーブル席に埃を払って3人で座った。


「モガリアの王宮か。回りくどいことをする」


「今からでもD級くらいまで安定デチューンすれば生きられるんじゃないですか?」


「ハッ、黙ってろ裏切りピンク!」


「っっっっ、え? この空間で物理的に倒していいですか?」


「やめときなって」


気まずいな。同調現象の一歩先って感じだけど、テレパスアタック対策とか素通りじゃん。というか、こういう感じなら飲み物の1つでもほしいとこだよ。


「ポリカネードとか?」


王族の服を着たネイティーがいきなり現れ、ポリカネードのカップを全員分置いた。


3人とも仰け反るっっ。


「「ネイティー?!」」


「久し振り、友達」


「ブフテルもある」


ヒルデIIIまで菓子パンを持って現れたっ。


「ハンバーガーもあるぞ?」


バーガーをトレイに乗せた少年も現れた。


「え? 誰??」


「お前に面識はないがっ、アリムⅤ、ボルテチのパイロットだよ!」


「俺もいるが、差し入れ困ったな。蟲鉱石と綺麗な貝とかでいいか?」


イッポリトIIが石と貝をテーブルに置く。


「ウチもおるで〜?」


なぜか王冠を被った兎の着ぐるみ姿の、すっかり健康そうなジガIIも席に座ってる。全席埋まった。


「「おおおおっ??」」


俺とアンゼリカは困惑しまくり!


「···神等いない。これらはバドアトンと零号が観測した、情報に過ぎない。だが、実在する者と情報体にどんな差がある? モガリア機はその境を容易く越える機体だ。あるいはそれを、神と言ってもいい」


ラルヨーシュXIIIは勝ち誇るように言う。


「XIII、世界は調和する物だよ?」


「1つ1つが寄り合って、形を造ってく物じゃないかい? お嬢さん」


「面倒なこと。あるいはあの姫ならさっさと力ずくで片付けていたかもしれないわね」


「呼び出しといて酷い言い様だが、結局この世のことは生きてるヤツが決めるしかない。好きにしたら?」


「ウチらは、戦う者。砕け散るみたいにぶつかり合って、本当の答えを探すのが仕事なんや」


戦士達はそれぞれ伝えて、ポリカネードとブフテルとバーガーと石と貝と王冠をテーブルに残し、止まった刻の王宮の風に消えていった。


「ラルヨーシュXIII。どうしても、戦うんですね?」


「当たり前だ。お前達こそなんのつもりだ? まさか正義感でもないだろう?」


「···アレはやっぱり、夢じゃなかったと思うんだけど、地上の衛星軌道上をバドリーラの光で周回したことがある」


「モガリア機と慣れ合ってるのか? 気持ち悪い」


「バドリーラは、人間を許していた。自分を求めて、造って、使った俺達を。お前達も許されてる。ラルヨーシュXIII。バドアトン。それに、お前の中の、最初の彼女」


「うるさいっ! もういいっ、戯れ言はここまでだ!! バドアトーーーンッッ!!!」


巨大なバドアトンの手が王宮の空間を引き裂き、打ち壊し、ラルヨーシュXIIIを回収した。


俺達もバドリーラが回収する。


古代の幻は消え、刻は動きだす!


粒子を纏わせた緩衝ビッグクローを打ち込むと、相手も粒子を集束させて消し飛ばしてきたっ。


バドリーラとバドアトンは互いにハイレイライフルを撃ち合い、向こうは有線熱弾ボットと熱刃ボットを展開してくる。


(帳尻が合わないだろうがっ?! だから私達が現れた!! 私以外のヤツらはただ運命に負けたことに言い訳を添えているだけだっ!)


「未熟なまま投入するから拗れるんですよっ、迷惑!!!」


「装甲外すよ?!」


「お好きにっ!」


「バドリーラ、踊ろう!!」


追加を装甲をパージしてボット攻撃とボット自体をいくらか弾くっ。


身軽になったバドリーラに身を翻させ、熱弾ボットと熱刃ボットを展開させた。


互いの機体は発光し、俺とアンゼリカの心臓はリズムを刻み、俺は5人の友達の風を感じていた。

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