表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/73

64話 愚者達の行進

東部連合はエルフィンゲート要塞に包囲網を築きつつあった。


最短火星航路を塞ぎ続けるこの宇宙要塞は東部にとって長年の懸案。

地上の不安定化による警戒、西ワハン要塞の陥落、ヤズルカンベースの不正露呈、といずれも都合のいい解釈の理由づけを一方的に提示し続け、東部軍は艦隊を集結させ続けていた。


「···火星からの支援のある連中は、拠点から遠いこちらはジリ貧と見ているか? エルフィンゲートのジャバウォック砲に余程自信があるか? まぁ初撃射程範囲は下位国艦隊だが」


エルフィンゲート包囲軍の司令官スレイマンはブリッジの艦長席の前に立体表示させた配置図等を見ていた。


「S型機は?」


副司令官ではなく1等総補佐官に聞くスレイマン。


「現在3機。地上時間、1500には月のクィンモール基地よりさらに1機、モガリア系機が到着予定です!」


「モガリア系···負け通しではないのか?」


「はぁ」


返答に窮する1等総補佐官。


「事実上西部傘下のシリーズ原型機との相殺にはなります。月本営の一推しでもありますな」


副司令官が気のない様子で補足すると、スレイマンは自軍の表示にクィンモールの小艦隊を加えてみた。


「薄いな。核は使えないのか?」


「両軍、要塞と火星の立ち会い艦隊にもマスコミが···」


「端の方では多少は。中間域も反応弾くらいはいけますね。この辺り等。ここも、これも押し込めましょうな」


表示図に良さげと判断した辺りにいくつかチェックしだす副司令官。元々才人である為、それが止まらない。

スレイマンはやめさせた。


「もういい。そのモガリア機、大げさに決闘させるだけというのも芝居じみてる。ジャバウォック砲攻略のダシにするか」


「攻略ですか?」


「配置可能位置からどこも随分遠いようですぞ」


「ちょうどいい露払いがわざわざ地上から来ている。上級文官どもの悪ふざけの類だが、少しは人民の血税を回収しないとな」


地上でリュウグウクラン船団に一泡吹かせたことのあるイルハン艦長とC級培養兵メリーシリーズラボの主任ダーデンの資料を表示させるスレイマン。


「この艦隊は相手のモガリア機艦隊を先導するドワーフ達に特攻させるよう参謀本部から···」


「特攻といってもな。経歴からすると叛逆しかねない。初撃後のジャバウォック砲の突入ルート上に件の艦隊を誘導後、差し込ませる。その上でこちらのモガリア機をこれ見よがしにジャバウォック砲に突入させよう。見過ごせまい」


「?? 相手の想定配置は不明瞭ですが、誘導にはそれなりに損害が···この場合、当方の艦隊のジャバウォック砲への切り込みが遅れるかと···」


「構わん。艦隊で押し込む場合、手っ取り早くあるが、3発は撃ち込まれる。合わせて2発で済む計算だ。死ぬ人間が一桁違う。人道的判断だ」


「···了解です!」


「第2射前提で死んで問題無さそうなのを組み直しておきましょう。初撃、第2射共に、想定被弾域から外れる見込み、と話も広めておきますぞ?」


「生き残るヤツもいる。交渉担当は後に自決する前提で選出しろ」


「ですな。それでは」


「地上本営から公開録画通信! 恩寵激励です!!」


唐突にオペレーターに告げられ、スレイマン達は白けた顔で中断した。


メインモニターにやや乱れた映像で仰々しい、虎と象と孔雀が吠えるオープニングロゴの後、時代掛かった儀礼軍服の女が映された。


東部連合治安統制軍大将ネネゥ・モーリー。地上における軍の特務警察のトップである共に広報プロパガンダを司っている。培養兵という噂や、複数名いるという噂が絶えない人物でもあった。容姿は10年程前から全くかわらない。


「猛々しき忠国の烈士達よ! 愛すべき同胞よっ。邪悪愚昧なる資本と衆愚の犬っ! 西部の脆弱岩塊を打ち砕くこの聖務は、約束されし再征服の一旦である。おおっ、燃える火星の大地は」


この調子で朗々と激励はここから4分続き、


「尚、党より特段の配慮がある。マバハの葉巻、モモチと茶碗、コルニャックの酒等を恩賞として」


賞与品や遺族年金等細々とした話に変わり、


「人民と、党に栄光あれ! 党歌斉唱!!」


スレイマン達は党歌を歌わされるハメとなり、スレイマンと副司令官以外は直立で歌いきった。


「個別直命は各自確認されたし。検討を祈る」


最後は存外淡白に送り付けられた動画は終了した。


「···ニコチンとアルコールとレプリカの茶碗をくれるらしいぞ?」


「さすが大将閣下。お大尽ですな。喉飴も所望したいところです」


スレイマンと副司令官が皮肉を言い合っていると、1等総補佐官が冷や汗をかいて会話に入る隙を伺った。


「と、当艦への秘匿直命です!」


未開封の指示文を立体表示させられ、面倒そうに開くスレイマン。


『宇宙議会、党第7書記エビレ・ジョレオ、本作戦の後見司令官に任命』


「「後見司令官っっ?!」」


数十年は聞かない、悪名しかない政治家指揮官職であった。


エビレ・ジョレオ第7書記は地上の中位書記選考に名乗りを挙げていたが、ここに食い込んでくるとはスレイマン達は想定していなかった。


「···マシな閥の書記何人かになんとかここから取り次ぎを図ってみます」


「ああ。おい、西部と公社と火星、金と条件交換で転びそうなヤツらのリスト作れ! 要塞攻略どころではない。そう言えば海賊どもを引っ掛けたのもいたな? 繋げっ」


対策なく勝っても負けても、厄介な立場になることは確定的であった。


_____



一方、エルフィンゲート要塞の司令官、イズミ・ユキシロは立て続けの要塞の通信網を利かせた超遠距離動画通信を含む、通話に笑顔で対応していた。


「イズミ司令。今回の我々火星資源公社の相当な支援は担当である私の独断によるところが大きいということは御理解頂けますでしょうが」


「ありがとうございます!」


「つきましては、わたくし、異動が決まっておりまして、新しくクレーターベースの都市開発を担当させて頂くこととなりまして、よろしければ···公社、西部宛に第2位積み下ろし港認定の推薦状を頂けないでしょうか? 西部については火星開発局の正式な書面も一筆···」


「前向きに対応させて頂きます!」


次の通信は火星系軍需閥の有力者であった。


「それなりに勉強はさせてもらっていますね?」


「ありがとうございます!」


「安いんでしょうが、公社や月の連中からの購入割合が多いのでは?」


「前向きに対応させて頂きます!」


次は火星系西部軍幹部。


「いつまでも開戦しない! この非常時にっ、どれだけ兵力を割いていることかっ!」


「ありがとうございます!」


「火星軍の配置をジャバウォック砲の恩恵下寄りに再配置できるのではないか?!」


「前向きに対応させて頂きます!」


次は宇宙公社エルフィンゲート担当の幹部。


「民間人避難については対応させて頂きました」


「ありがとうございます!」


「火星メーカーからの購入が増え過ぎていませんか? 我々の艦隊配置もジャバウォック砲恩恵下から外れているような? 我々が民間で、善意で協力していることを踏まえて判断して頂けますか?」


「前向きに検討させて頂きます!」


月勢力。


「芸能者や作家の乗っている艦の位置が申し合わせと違う」


「前向きに検討させて頂きます!」


ドワーフ勢力。


「鉱石を買うなら要塞補修は割安でやってやら!」


「ありがとうございます!」


ガーラン艦長。


「どうも妙な気配ですが、我々はジャバウォック砲を守護すればよろしいのですね?」


「その方向で!」


地上の有力議員。


「あちらに第7書記が来るらしい。直接手を下すのはマズいな。恨みを持つ海賊だかテロリストだかが紛れ込んでいるからそいつらは頃合いを見てフリーにしなさい。それから最大でも3撃までだ。結果に関わらず、要塞突入は無いことになった。書記のことを鑑みる2発で最大戦果を挙げるのが望ましいが、マスコミは多い。撃つ態勢はしなさい。シールドに不具合を起こさせるから撃てはしまいが」


「···前向きに、検討します」


「ジャバウォック砲の復旧については木星の連中に発注することになった。あちらにウチの大統領と東部の地上第3書記の親族がいるらしい。手早く復旧させる。水回りの住環境改善にも予算はつけよう」


「ありがとうございます」


「なに、地上で近年蟲が減ってきているから、率のいい蟲を東部と共同でいくらか増やすことにした。一連の全域紛争で有人の土地がいくらか減っているからちょうどいい。まぁ、君の範囲では負け過ぎないよう、注意しなさい。それから東部のスレイマン提督と話のついた艦隊のリストは破棄すること。初歩的なことだからね?」


「···はい」


一通りの通信を終えて、イズミ司令官は笑顔のままだった。


「司令官、お顔が」


「鍼灸ドクターを呼んでくれませんか、顔が戻りません」


「了解です」


同性の副司令官は哀れそうに、首都大卒で、父親がエルフィンゲート出身の元帥だというだけで司令官にさせられた、元は広報官に過ぎなかったミスコン出身のイズミに鍼灸医を手配してやった。


_____



イルハンはブリッジで開けたコンビーフ缶に齧り付き、酒を飲んでいた。


「イルハン艦長、その辺で」


嗜める副艦長。


「新鮮過ぎる缶だ! これだから上位正規軍は軟弱なんだっ。いいだろうドワーフどもを押し退け、バドリーラ船団を誘導してやろうじゃないかっ!」


「メリーIV! 頑張ろうねっ」


「黙ってろっ! ダーデン!!」


「野蛮な軍人だねっ、メリーIV!」


相変わらずメリーIVシリーズの裸身の立体映像に縋るダーデンにヤケクソに、酔ったイルハン艦長のさらなる怒声が程なく飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ