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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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62話 砕ける星

改修ズーIVはとんでもないヤツだった。ある程度接近してもまともに戦わず、デブリを盾に牽制を続けてくる。小回り利かない直進するグライダーでそれを軽々やってのけてる。


さらに、海賊達の東西の機体を自己流に改修した機体十数機がミコのユニクスIIにやっぱデブリを盾に遠巻きに釘付けにしだすと、おもむろに間合いを詰め、対艦パックらしいのとは別に装備してる対空パックを小出しに撃ってきた。


こっちはレールガン装備の代わりにパックは全部対空だ。ただ鉄鋼機と重グライダーじゃパックの搭載量が3倍は違う。向こうは半分対艦パックでも弾は1,5倍。しまいに撃ち負ける!


「やり辛っ」


(遠いですが、コイツ、衛星軌道上でヤズルカンで暴れたっていう重グライダーじゃないですか? というか、この技巧はS級培養兵です。それにG負荷を平然と無視してる感じと、この必要なことしかしない凡庸ムーヴ···お前っ、ラルヨーシュⅫだな!!)


(死ね、ピンク。石に挟まって死ね)


(く〜っっ)


思念に思念に返され、口の悪さ? でやり込められるアンゼリカっっ。


「またか···しつこいなぁ」


「しつこい癖に相手するのダルい、みたいな対応! 許せませんねっ」


強引にレールガンでデブリを砕いてルートを取り、偏光熱線と胸部機銃でパックを節約しながら距離を詰めに掛かるアンゼリカ! 合わせるの大変だっ。


(姫を降ろし、すっかり便利使いされてるようだな? 海賊退治の時給を教えろ、雇われ兵士ピンク!)


(お前こそ、海賊の用心棒するまで落ちこぼれたんですかぁ? 首都詰めで、秘匿機体搭乗でイキり散らしてた野良ポンコツ12号さんっ!)


(ピンク!)


(野良ポンコツ!)


(ピンク!)


(野良ポンコツ!)


(お前ら、やる気なくなるから。そういうの、やーめーろよ〜)


思念の応酬のレベルの低さは相当だったが、接近した上でのデブリを砕き合うパックの撃ち合いは壮絶でっ、互いに対空パック撃ち合い、使い切った!


邪魔なデブリ込みでもこの距離なら機体性能差は歴然だ。だが、対艦パックを持ってる限り、母艦に突っ込まれるのはヤバい。デブリだらけのこの環境なら重グライダーを操れるラルヨーシュⅫさんって人の技量で、バドリーラを一瞬振り切られかねない。


「「「···」」」


互い急に手数が減って探り合いになる変な間ができた。ミコは絡んでくる相手の数を減らした側から別のに絡まれてイライラしてるようだった。


ビルボベース艦隊は相手の首領艦らしいド派手な戦艦主体の小艦隊に突き込まれて苦戦してる。ただ、他の海賊艦隊は初動の速さからすると妙にまごついて、こっちの鉄鋼機隊やリュウグウクラン船団の艦砲に手間取ってる感じだった。なんだ??


ズーIVの母艦の型落ちの小型艦隊なんかはわりと露骨で、あんまり深入りするつもりがないのか? 遠巻きにリュウグウクランの船団に威嚇砲撃しつつ、自艦の守りに専念してる。


(野良野良野良野良野良っっ!!!)


(ピンクピンクピンクピンクピンクっっ!!!)


「なんか、変じゃ」


言い終わらない内に、見かねたらしいノース3位のマスカレIII改が率いる隊がミコのフォローに入り、俺は光信号で『先へ』と伝えた。

首領艦隊が艦砲級の火力の重鉄鋼機のサスカッチIIを2機投入してきてヤバそうだったから。


ミコのユニクスIIが囲いを完全に抜けてビルボベース艦隊に向かうと、入れ違いにベニのギムリーII改が率いる部隊が動力をほぼ切ってデブリに掴まって接近してきていきなりデブリ改修ネットを拡げてズーIV。とっ捕まえに掛かった!


熱刃ギロチンでズーIV本体はすぐ抜けたが、対艦パックが引っ掛かり、パージするしかなく、外したパックを即バドリーラが狙撃して爆散させてやった。


(ドワーフっ!!!)


激怒の思念と共に、直射熱線とレイキャノンでベニ達に墜としに掛かろうとしたが、ベニ達は器用に抱え直したデブリを盾にスラスターで初撃を避け、その隙にすかさずバドリーラは詰めた! よしっ、今度こそ、デブリ帯仕様のバドリーラの実力を···


バシュッ。


一切躊躇無く、機体付きの電磁爆雷を全弾放ち、最大推進力で母艦へと遁走してゆくズーIV。


「「えー···」」


コンマ1秒前まで殺気全開だったじゃん···


_____



ミコ・ヒダのユニクスIIは圧倒的だった。


オプション武装の対空パックは使い切っていたが固定武装の有線熱弾ボットを自在に使い、大火力のサスカッチIIを速攻で削り倒した。


有線ボット兵器類は本来宇宙空間で最大性能を発揮する兵器ではあったが、デブリが飛び交う環境であたかも無線基であるかのような制限のなさの運用を行っていた。


「いっちょ上がり! よっし、次は団長を懲らしめ···およ?」


サスカッチIIの撃破に伴い、陣形の立て直しに成功したビルボベース艦隊の一斉掃射で旗艦キングゼンモンを始めとした親ゼンモン艦隊は大きく被弾。慌てて電磁爆雷とバリア型ドローンで盾を造りつつ、自軍の多いポイントまで下がりだした。


ちょうどこのタイミングでズーIV改は下がっていた。


ビルボベース艦隊とリュウグウクラン船団は、キングゼンモン艦隊以外の奇妙に静かに首領艦隊を囲む陣形に予感を感じ、射線に注意し、光信号で鉄鋼機隊も安全圏に一旦下がらせた。


「ふんっ、一撃入れたわりには臆病な構えだな! 光信号を撃てっっ、野郎ども!! 盾役艦から一斉掃射だっ!」


ゼンモン3世は指示を下した。


この男が、直属の配下や傘下の団幹部の妻や愛人に手を出す悪癖がなければ、機嫌を損ねさせた身内を残酷に処刑しなければ、富を独占しなければ、用済みの仲間を売らなければ、程度の低い商売ばかりに手を出さなければ、下手な投資を繰り返さなければ、ベースのインフラ維持を怠らなければ···


あるいは結果は違ったのかもしれなかった。


「残党対策だ。手は下すな」


ラスタが指示するとほぼ同時に、ラスタの艦隊以外のクーデター勢力の一斉掃射がほぼ無防備のゼンモン3世の艦隊とその鉄鋼機隊を壊滅させた。


予期していたビルボベース艦隊とリュウグウクラン船団も戦慄したが、ベース内の親ゼンモン派は相当な衝撃で、いるはずのベース内非ゼンモン派戦闘員と戦闘を理由に隔壁を閉じていたその居住区が空になっていることを確認すると、それは激昂に変わった。


もはやビルボベース艦隊やリュウグウクラン船団には構わず、残存砲を全てクーデター海賊艦隊に放ったが、海賊達とそこに紛れたラスタ艦隊は機体を戻し既に距離を置き防御態勢を取っていた。


「マズいな。機体戻せ! 撤退信号っ!」


海賊戦の練度が高いワケでもないが、居住区のある宇宙拠点に致命的な攻撃はタブーであるという認識が特別強くないガーランは、一連の挙動とゼンモンベースの脆い構造から合理的に判断できた。


「なんか、よくない感じじゃん?」


バルタンIIIまでは遠く、間に合わないと即断して位置状態の良さげなビルボベース艦に向かうミコ。


「アンゼリカ!」


「···ベースに張り付いてんの、Ⅻじゃないですか?」


「え?」


帰投するバドリーラのアンゼリカに気付かれていたが、ベースの探知機器の破損した面にどさくさに紛れマイラギIIで削岩設置通信ボットを3基積んでいたズーIV改は、ボットをドリル用いベースに設置し終えていた。


「便利使いはお互い様か···派手に散れ!!」


起爆コードを有線で伝え、切り離して信号弾を撃ちながら機体を最速で撤退させるラルヨーシュⅫ。


念を入れて、3重に直に発信されたコードはゼンモンベースの補強構造物を中心に起爆し、有人エリア各所に仕掛けられた爆薬も連鎖的に爆破していった。


猛烈に大小のデブリを放ちながら2つに割れてゆくゼンモンベース。別れた小惑星が引き合うように内部設備の崩壊による放電現象が起こる。


クーデター海賊達は歓声を上げて早々に遠ざかっていたが、機体回収を終えていたとはいえ、とくに距離の近かったビルボベース艦隊は必死の撤退となった。

後部レイシールド展開器や推進力に破損のあった数艦が炸裂岩塊に巻き込まれて撃沈してゆく。


「うおっ、ラルヨーシュⅫさんは設備破壊のプロなのか?」


「パイロットぶらなくなったら余計厄介なタイプですねっ!」


激しく揺れるバルタンIIIのドックで、バドリーラ内のザリデとアンゼリカは戦々恐々とさせられた。


「よくやったⅫ。長持ちしやしないが、これでシーマ改艦隊に匹敵する勢力だっ。俺達はここから独自にエルフィンゲートを目指すぞ!」


「要塞攻め自体は付き合うんだね。まぁ、いいわ。星を砕いたらスッキリした。私に関わる間抜けは皆死ねばいいんだよ」


「こりゃ、不吉なヤツを拾ったな! ハハハッ」


ハッチがデブリでひしゃげたドックのラルヨーシュⅫと通信し、大笑いするラスタ・ヨンゾ艦長だった。


一連の小惑星炸裂により、ビルボベースのあるアステロイド帯は2割強が軌道がズレ、公社の管理外に不規則に離脱した。


これらの岩塊は『ゼンモン岩塊群』と後に呼ばれることとなり、以後200年以上、宇宙における様々なトラブルの要因となった。

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