57話 ジガIIの猛攻
月まであと2時間半くらいの所で俺達リュウグウクランの船団は東部の小艦隊と会敵した。
現役艦と特別仕様艦だ。識別コードで旗艦らしいのが月のクィンモール基地所属のS型運用艦という時点でブリッジとドックはザワついたが、実際、S型が艦から出撃すると腹を括るしかなかった。
こっちは随行艦2隻のメインシールド展開器がまだ完全じゃないが、それ以外は十分やれる。機体は整備が完璧じゃない機体はゴロゴロあるようたが、多くが整備不良て程でもない。
実体弾のストックもこの一戦くらいはある。問題は戦闘用ドローンで、かなり少なくなっていた。
「寄せろっ」
ガーラン艦長は艦の陣形自体を機体を放出しながら一点に集め、誘われて集まった相手の初手の突撃型ドローンを一斉掃射で駆逐。続けて手持ちドローンは全てS型に集中させた。
味方が陣形を組み直し、味方機が露払いの立ち回りをする中、
「すんなり行くな?」
「漆号が単独過ぎますね」
ちょっと怪しみながら、バドリーラとユニクスIIはドローンに続いて相手のS型に迫る。
ここで相手の艦隊は旗艦と観測艦以外の4隻の内、一隻がメインシールドの最大展開で艦砲に対して盾になりながら、残り3隻が急転回してバドリーラだけを狙って一斉掃射してきた!
両軍の汎用機は互いにかち合ってるっ。
(凄い殺る気だ!)
(ミコっ)
(任せなさ〜い)
ユニクスIIはシールドパックを解放して、電磁爆雷の壁を作り続け、艦砲を防いでくれるっ。
ちょっと引っ掛かっちまったが、先行のこっちのドローンは相手のS型に到達したが、尻尾の武装の放射熱線と対空らしいパックの掃射で次々落とされてく。
艦より小回りの利くバドリーラとユニクスIIが射線を外しに掛かると、今度は温存してたらしい突撃ドローンを放出してきた。
「うっはっ」
「しつこいですっ」
的が大きい艦船じゃないし、こっちから防衛線に突っ込むワケでもない。スプライトガス過剰散布下なら鉄鋼機的にそんな脅威じゃないんだが、バドリーラ1機に数百機投入! となると話が違うっっ。
ミコ機は光通信で『焦り、注意』と伝え、単騎でドローン対処に向かった。
「ザリデ!」
「うんっ」
バドリーラは艦砲の射線に気を付けつつ、こっちのドローンが全滅する前に相手のS型に突進した!
(尻尾と胸部の集束砲も厄介ですが、速射レイライフル2丁と宇宙戦機特有の身軽さがより致命的ですっ!)
(了解!)
相手はこっちの接近にパックを使い切ってドローンを壊滅させ、機体の右手の指でクイクイっと手招きして挑発してきた。
(また癖強っ)
(ジガIIです。女ですね)
(···苦手?)
「当然!!」
対空パックを全弾解放した。
相手のS型は圧倒的な機動性と運動性、尻尾の放射熱線と速射レイライフル2丁、胸部の集束砲でパック弾を全て撃ち払い、回避した。だが、
(データは取れたぞっ!)
バドリーラ・リヴァイブを発光させて突進する! ハイレイランスの再製造は間に合わなかったが、やれる!!
まずは相手速過ぎるし、重くてさっさと外したい緩衝ビッグクローを放射熱線と速射レイライフルを避け切って、打ち込むっ。
機体付きの通常実体弾で押し留めて熱弾コーティング破損面をライフル速射で撃ち抜いて、破壊して追尾を阻止する相手のS型。
その挙動に合わせてた!
重力波を打ち込むっ。バドリーラから見て下に押し込み、機体機能の破損を狙···ん?
相手のS型は丸まるような姿勢で発光し、重力環の出力を上げて反発すると球形力場を形成して、重力波から脱してきた!
そのまま尻尾を逆巻かせて突進してくるっ。こっちは重力波使用で一旦出力落ちてるし。
(アンゼリカっ!)
(知らない機能ですっ。オドカグヤは色々してきますから)
色々てっ。
取り敢えず2条熱線と胸部機銃で牽制しつつ、立て直しを図る。重過ぎ連射もできないレールガンの代わりにハイレイライフルを装備してるが、距離詰められてる。ヤバい!
テレパスアタックはもう対応されてるだろうし、どうする?
「普通に戦う、だ!」
ハイレイライフルは間に合わない。縮めて腰背部のラックにマウントし、シールドとハイレイキャリバーを構える。
バドリーラの出力もだいぶ戻ってきたっ。
(焦らないよう言われましたからね?)
(合点っ)
フットバーニアを利かせ、バドリーラを飛び跳ねさせながら色々するらしいS型、オドカグヤに挑み掛かった!
_____
アンゼリカ、追い込まれるとすぐキーキーする感じで前はチョロい気がしたんやけど、なんや雰囲気変わったかも?
もう1人の子かな? 普通の子みたいやけど? ちょっと動きが面白い感じ。殺気、無いし。
「へへ」
最初、艦長がさっさと片付けたいタイプの人やって寒いことになるんかと思ったけど、噂のミコ・ヒダええ仕事するやん?
「お陰で大繁盛!!」
交錯様にワームテンタクルを熱刃展開させて囲んで斬り付けに掛かるっ。
零号はサブアーム4本出して熱刃を展開し、ワームテンタクルを弾き、本体は胸部機銃を撃ちながら踊るみたいに迫ってきやった。
この身体性! 身体動かす愉しさ知っとるなっ。
速射は躱されたから2丁のライフルのハイレイガンナイフで相手のキャリバー受ける!!
近いっ。テレパス来るか? 違う。共振や!
(···アンゼリカ久し振りやん? 2対1でも負けそうなん、どんな気持ち?)
(ジガII、痩せましたね。ザリデは甘ちゃんだから脱出缶使わさせてあげますよ?)
(ども。モガリアのS型ヤバいみたいなんで、それ、壊すから)
(オドカグヤはええヤツやで、ハッキングだけで人類始末できんのに様子見てくれてんねん。優し)
(優先的に始末しないとじゃないですかっ。もういいです。お前と話しても冗談にしかなりません)
(それじゃ···)
テレパスによる共振が途切れやった。
シールド展開器を狙って集束砲を撃つ!
防ぎ切れずシールドが焼き付けながら、キャリバーで左の速射ライフルを切断してくる零号。
左はライフルの代わりにハイレイキャリバーに持ち替え、斬り付け、右の速射ライフルを撃ち込む。
相手はサブアームも使ってガンガン近接攻めてきやるっ。
一回食い付いた時のしつこさはアンゼリカ。身体の自在な動きはさっきのザリデゆう男の子やな! 仲良さそ。
せやかてっ、ウチも1人とちゃうで?!
「カグヤ氏!!」
(承知)
機体発光っ、ワームテンタクルの出力が上がる!
強化した熱刃と攻撃速度で撃ち払い、放射熱線で牽制っ。テンタクルの制御はカグヤに任せ、ウチは高速機動しながら速射ライフルで狙撃や!
詰めて、詰めて詰めて詰めてっ。我慢できずに相手が突っ込んできたらテンタクルの熱刃のカウンターでシールドを完全に破壊っ! ここやっっ。
ウチは速射ライフルを棄て、キャリバー二刀流でこっちから突進して近接挑む! サブアーム4本はキツいけど、こっちのテンタクルの方が強い、アーム2本を薙ぎ払ったら、さらに詰めて、左手でもキャリバー抜こうとしやったから集束砲で左腕を吹っ飛ばしたったっ。
ミコ・ヒダは距離的に間に合わん。もらったで!!
キャリバー2本とテンタクルの3方向攻撃でトドメに入った。でも、バフっ! 煙幕?! いやっ、熱量ある??
発光するバドリーラの全身から煙? が噴出して、それがカグヤの腕関節やテンタクルに入り込むと局部が削られだした?!
(警告、ナノマシンに近いエネルギー体操作)
(しゃらくさいねんっ!!)
集束砲構える。相手もハイレイライフルを構える。銃身まで発光し、出力上がってるっ。
(うぁああーーっっ!!)
(姫にできるのでしたらっ!)
2人の思念!
互いにフルパワーで熱弾を撃ち合った。
バチィイイイッッッ!!!
衝撃! 一瞬制御不能になりやったけど、まだいけるっ。まだ、
(宣告。撤退を開始)
「なんでや?!」
(パイロット、ジガIIの著しい消耗を検知)
フェイス画面にボディコンディションが表示されて、鎮静ガスが入れられた。力、抜ける···
(本機の操縦で帰投する。バドリーラに継戦の兆候なし)
勝手に帰りだすオドカグヤ。追う気ない両腕失った零号もまた艦砲撃たれだすと戻ってきたミコ・ヒダ機に庇われて帰投していきやった。
「···」
ウチはメットを取った。と、なんか垂れたと思ったら鼻血や。そう、かぁ。
「カグヤ氏、あと何回くらいやろな?」
(···)
「カグヤ氏?」
(数回の出撃と想定。ジガIIの行動、言動、形状、その他全てのデータは半永久的に本機及び子機に保持される)
「怖っ。忘れてええよ」
(実行不可能な提案)
「重いわ〜。ジガIIIが心配になるわ〜。···おー、ボクらの〜」
また歌い出しながら、活動報酬の確認と、ウチ自身の終い方を考えた。




