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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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53話 マスドライバー攻防戦

公社のマスドライバー基地は基本的に中立だ。


東西がやり過ぎて、蟲も今より多くて強かった時代。人類の人口がさらに少なくてランダムで配合したクローンで人口を水増ししないとどうしようなかった頃。

スペースピープル達との交渉にマスドライバーは必須だったそうだ。


地上の人類なんて本当に貧弱なもんで、月面から岩石の質量攻撃をちょっと繰り返されるだけですぐ絶滅しちまう。

木星のガスも当時は欠かせなかったそうだ。まぁ貴族気取りの木星系スペースピープルは、ガス代替技術の発展とスペースピープル同士の抗争で滅びたけど···


とにかく、公社のマスドライバー基地は歴史的に中立だ。


余計なことに首突っ込まなきゃさ。


「んまぁっ! ジョネルの新作っ。こっちはボラガノのピンヒールっ。ダッチもっ、ペファニーもっ。ララメスっ、ラロックスっ、アルパっ、トノサマサイコーのクラシック時計よ! はわわっ? これはっ、『蟲が噛んでも大丈夫』のGショッカーのロマンスモデルじょないっ! キャーっ。ザリデ君、アンゼリカちゃん! ブルーナっ、ここは天国だわ!!」


テンション爆上がりなボミミ。俺達は一応護衛ドローン付きで、基地内の免税街に来ていた。

ここは希少品専門の輸出基点だからレア品しかない問屋街みたいなもんだ。そもそも一般人は入れない。


宇宙に上げられそうなのは母艦のバルタンIII改と小型観測艦のブレーメンIIIだけだったが、どっちも打ち上げ&宇宙戦仕様に改修が必要だった。マスドライバー自体の調整も必要。

俺達はちょっと暇になっていた。


「いや、ボミミ。安いっていってもブランドだし···」


「姫に、ハンケチーフでも買おうかしら?」


「ん? 店員募集してるみたいですよ? 資格は厳しそ」


「なんですってぇーっ?! どこー?!」


「近い近いっっ」


アンゼリカに迫るボミミっ。アンゼリカは店の隅の告知用モニターにそんなに? ていうくらい条件がビッシリ書かれた求人要項を示した。


サイト表示まではしない、この場に来れた人間以外は相手にしない広告だな。


「ふおおっっ!!!!」


血眼で要項を読み込むボミミだった。


···ボミミはなんだかんだで面接を受けることになり、ブルーナはハンカチを買って船に戻り、俺とアンゼリカはミコとハルバジャンと合流してバギーカートを借りてマスドライバーを間近で見学しにゆくことにした。


「「「ほぉ〜」」」


4人揃って大きさに関心していた。9本中、今使えるのは3本。環境的にすぐ砂を被るから維持管理は大変らしい。


本当はこんな立地はマスドライバー設置に向いてないそうだが、大昔の地政的な事情からこの地に作られたそうだ。

乾ききった風と砂。焼けた太陽。今はなんとなく感じられる蟲除けの城壁の外の蟲達の強壮な気配···


こうして吹きさらしの屋外に出ると還ってきた感じもある。日が傾きだしていた。すぐに冷たい砂漠の夜になる。


「アンゼリカ氏は宇宙に行ったことあるんだよね?」


「カミラビの運用試験で一月程。別に特別な所でもなかったですよ? たまに宇宙に過剰に革新や可能性を期待する人もいますが。ただ生存し難い宇宙空間が拡がっているだけです」


「ドライじゃん?」


「普通ですけど?」


「私とミコも宇宙経験は豊富であるぞ? 一度は出てみるべきだと思う。この星から。ザリデも、アンゼリカも。以前とは違う景色かもしれないからな。ハッハッハッ」


「ふぅん?」


「そんなことないと思いますけどね」


星から出る、か。

俺達はしばらく取り留めもなく雑談しながらドローンを引き連れてマスドライバーの足元をウロウロしてたけど、吹きさらし過ぎて砂風が強くなり過ぎると慌ててオートバギーカートに避難して、ピンク髪が砂まみれなったアンゼリカが不機嫌になったから船に戻ることにした。


_____



上の連中の申し合わせで、手を付けないエリアの調整はすっかり済んだみたいだがそれ以外はそれなりだ。


後腐れない人員選抜に手間取って出航までの準備自体モタモタしていた上、あちこちに引っ掛かり、私達の追撃小艦隊が件の公社のマスドライバー基地の領空に入れたのは西ワハン要塞陥落から4日後! 信じ難い遅さっ。

諜報部の調べではリュウグウクランの連中は今日にも船を2隻打ち上げる可能性大! 戦えてもいない、は言い訳にならない。これ以上の失態はさすがにスクラップだね。


基地側の最初のドローンと地表ボットによる迎撃は随行艦の戦力に任せる。

私は戦闘配備で騒然とした中型多目的戦艦ウェルデンIIのドッグで充てがわれた機体のコクピットで集中していた。


A型脳波感応器モリグーIIだ。パックは対空。悪い機体と装備じゃないが、バドアトンとは比べ物にならない。

安全な、ただの乗り物だ。私になにも応えない。いやそこはいい。

性能として、まともにやっても単騎ではミコ・ヒダとかち合うだけで時間切れになるだろう。


先行機及び随行機との連携は必須だ。合理的に行く!


「ラルヨーシュⅫ。貴様だけでなく、寄せ集めの我々には後がない。最低条件を確認しておく、宇宙まで飛べない連中の随行艦の全艦撃沈。マスドライバー2本の破壊。それでいてそれ以上の基地被害は避ける。だ。ただの闘犬でないなら理解できるな?」


艦長からの通信だ。生え抜きだが、東部への不服従自治国出身。重不正の党幹部暗殺テロへの関与疑惑のある不穏な人物だ。万一の時、実に処し易い。おそらく、この艦には遠隔起爆装置も仕込まれているだろう。

まず半死人のコイツの艦から降りるのが私の復帰への第1歩だ。


「容易い。興行レスリングの話だろう? 受け身くらいは取れる。ハッ」


「皮肉はいい。遂行しろ」


通信を切れた。


「···やってやる。汎用機も使い用だ」


私は制限が大雑把になって勝手に買えるようになった炭酸を抜いたラコーカを飲み、備えた。


程なく無人機による防衛戦は突破され、続けてきたエアグライダー主体の迎撃も随行艦一隻を墜とされたがこれも突破。出撃命令が出た。


蟲の多いエリアだ。無人地帯の戦場でもないから有毒忌避剤をやたら撒くワケにもゆかない。後部ハッチが開くと過剰な蟲除けの電磁波で開かれたハッチが放電する。


「ラルヨーシュⅫ。モリグーII出る!」


随行機の重量エアグライダー、ヤタIV4機と共に出撃した。


相手はライドグライダー乗りのリーラ系主体。巨大過ぎるマスドライバーは既に見えている。2本にリュウグウクランの艦船が既にセットされてる。


セットされたドライバーは多数のレイシールド展開器で守られる。


宇宙まではゆかない随行艦2隻はさらなる盾として中間域で機体を展開して待ち構えていた。


ミコ・ヒダの機体や他数機の確認もできたがバドリーラは出ていない。


砂風と電磁波に混乱した蟲が時折乱入してくるのが酷く邪魔だ。A型では多少の対処は必要になる。


(この程度の戦力、距離でここまで遠く見えるか)


内心、愕然としたが事実は事実。即、プランを変え、光信号で随行機に伝えた。


リーラ系機体群は随行機2機のパックを使い切り抜ける。

相手の随行艦ロックタイマイIIIの機体群には残り2機のパックで速攻を掛け、そのままヤタIV4機で艦2隻を墜としに掛からせる。


ロックタイマイIIIを抜け、ここから本番だ!


パックの7割をミコ・ヒダのユニクスIIに撃ち込み、残りをその他の機体の牽制に使う。


ユニクスIIは6基の有線熱弾ボットを展開する。自信があるんだろうが、同じ相手とわかってないなっ!

私は両手で抱えていた汎用ハイレイライフルに偽装していたパッケージをパージしてレイショットガンと露わとし、有線ボットの多角掃射を避けながら散弾で次々とボットと落とす。


残2基で慌ててレイライフル主体に切り替えたが遅い! 逆に6基の有線ボットを展開してボット5基を犠牲にミコ・ヒダのユニクスIIを中破してやった。


「これで落ちないか! だが、お前はどうでもいいっ」


これ以上詰めて近接を挑まれても泥試合だ。私は立て直してきた他の護衛機群に突進した。


______



ミコ機が中破し、ロックタイマイIIIが一隻墜とされると、バドリーラも出撃せざるを得なくなった。


「何人乗ってると思ってんだよっ、というかあのモリグー! 強過ぎないか??」


「この感じ、ラルヨーシュⅫかもしれません···」


「えー?」


ラルヨーシュを察しつつバドリーラはパックの4割で突進してきたモリグーIIの牽制し、アンゼリカの狙撃で残りの有線ボット1基を墜とし、ロックタイマイ撃沈後に増援に来たヤタIV2機は2割のパックと狙撃で中破させて脱出缶を使わせ、ミコの撤退の補助に入った。


『ミス、反省』


光信号を残して味方機に抱えられてバルタンIIIに帰投してくミコ機。


「よしっ」


ザリデは一息ついたが、ラルヨーシュⅫは不意に方向転換すると、レイシールドの甘い未稼働のマスドライバー2基の支柱に電磁爆雷と通常弾を撃ち込んで倒壊させた!!


「一段落だっっ」


「有利さがないと必要なことしかしなくなる凡庸さ···やはりラルヨーシュⅫですよ!」


モリグーに向かうバドリーラ。残一隻のロックタイマイもヤタ1機を道連れに墜とされ、残1機のヤタがハルバジャン達が牽制し、状況は一時膠着した。


まともにやり合わず時間稼ぎをするラルヨーシュ。


「マズいですね。しかしヤツならそこそこ短気でもあります。挑発してみよっ」


「マジで?」


『ラ、ル、ヨ、シュ、降格、左遷、愚か』


そうアンゼリカが光信号を送ると、速攻でモリグーは詰めてきたっ。


「ぐぉお?! めちゃ単純なヤツだっっ」


残パックを全弾解放するが反応速度とレイショットガンの迎撃力で凌ぐラルヨーシュ。


加えて近接となってもバドリーラの武装と出力を把握するラルヨーシュはあくまでまともに組み合いはしなかった。


マスドライバーは射出シークエンスに入りつつあり、着艦限界は近付いていた。


「バカめっ、船だけ飛ばして居残りしろ!」


そこへ、


「ぬーんっ!!」


ヤタは隊機に任せ、ハルバジャンのタロスIVバーニアン改が突進。シールドを破壊されながらモリグーIIに組み付き、吹っ飛ばしていった。


「ぐっ?!」


「行くのだ! 宇宙にっ」


「ハルバジャンっ」


「ザリデ!」


猶予はなく、バドリーラはギリギリで位置的にバルタンIIIより近かった小型偵察艦ブレーメンIIIに着艦した。


2本のマスドライバーは火花を散らし、打ち上げ仕様のバルタンIII改とブレーメンIIIを打ち上げた。


2隻は低空位置で切り離した補助缶からバリアドローンを多数展開して、詰めてきていたラルヨーシュⅫ達の母艦からの艦砲を防ぎ、射程外へと飛び出していった。

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