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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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52話 パイロット達

凍り付いた虚空を切り裂いて、月面に沿い、中型随行ドローン2基と共に飛行する7頭身規格の鉄鋼機がいた。長い尾のような固定武装を持つ。


「おー、ボクらの〜、水平線のー、掲げろぉ、勇気の、は〜たぁ〜〜」


特殊スーツを着た、アルピノらしき十代中盤の容姿の少女がパイロットであった。


口ずさんでいるのは百数十年前の児童向けアニメーションの主題歌。


彼女、ジガIIのお気に入りであったが、このアニメーションをとある廃棄ルナベースのメモリーから発掘したのは先代であり初代のジガであった。


よってジガII自身はなぜ自分がこのアニメーションを気に入ったのか? 理由は知らない。


···搭乗するモガリア系S型機オドカグヤが前方のターゲットを捕捉した。


「ふんふ〜。仕事やな〜、ビジネスやで。タダ働きやけどっ! つらいわー」


随行ドローン2基は自衛観測モードに移行し、レイシールドを展開しながらからオドカグヤから距離を置いた。


淡く発光し、平時ならば決してここまで入り込まない月面公空上の東部側の空域まで侵入し、東部の軍事拠点を挑発した小艦隊に突入するオドカグヤ。


警告無しで一斉艦砲掃射が放たれる。


「予算減った途端、連日雑魚狩りっ。厳しい界隈やわ〜」


自在に回避しながら突進するオドカグヤ。


西部小艦隊の事前に出撃させていた護衛ドローンは無視して交錯した瞬間に尾のような武装から熱線をを多数放って一掃し、多少はいた艦に張り付いていた護衛機は両手装備したクィックショットレイライフルで仕留め、小艦隊に艦底面に素早く潜り込むとパック武装の電磁爆雷と通常弾で全艦撃沈した。


しかし、


「んん?」


沈められる艦の一隻からドックハッチを内から粉砕して西部の宇宙戦仕様の大型可変型鉄鋼機、グンダリIIIが飛び出してきた。


「なんや? 挑発やなくて、どっか奇襲する気やったんか〜。事前調査観測ぅ、甘いんちゃう?」


位置の悪かった観測ドローン1基が有線熱刃弾を撃ち込まれ撃墜された。


レイカノン、電磁爆雷、通常弾、クラスター弾を連発しながら高速機動し、迫ってくるグンダリIII。


(非脳波感応器機体でこの加速と精度っ、お薬使っとるな。致死濃度やでコレ〜)


加速と尾の放射熱線を利かせて上手くあしらうジガII。


「戦争怖いなぁ〜、カグヤ氏ー、どない思う〜」


(人類には統制が必要)


「ふわっ?! アンタの方が怖いやんっ。ラスボスの思考やんっっ」


(ジガIIは速やかな任務の遂行)


「はいはい···ほなっ!」


クィックショットレイライフルの連射に肩部の振動ネイルガンを織り交ぜ、グンダリIIIのレイシールド展開器、及び電磁界発生器を破壊すると、尾を大蛇のように逆巻いて相手に迫るオドカグヤ。


機銃と有線熱刃弾によるカウンターは胸部装甲を解放して放つ集束熱弾で消し飛ばし、グンダリIIIに風穴を開け、撃墜した。


「変幻自在! 宇宙戦最強! 乗せてる感応器はサイコパス!! 盤古(ばんこ)のオドカグヤちゃんっ! 任務完了っと」


(訂正、本機体はサイコパスではない。不服)


「あ〜ん? 帰ろかぁ。おー、ボクらの〜、水平線のー」


アニメーションの主題歌を再び口ずさみながら、クドクドと続くオドカグヤの理詰めの抗議をジガIIは聞き流し、残存ドローン1基と帰投していった。


_____



首都ルドラデリに戻ると面倒なことになっていた。


西ワハン要塞の陥落と零号を仕留め損なったことは随分まずかったようだ。


まぁ当然だろうけどね···


だがなによりっ、


「ワタシはどうかと思ったんだが、培養兵ラボの方はそこまで話が通らなくてねぇ」


「旧型よ、ラルヨーシュXIIIだ。活動報酬の再申請をしておけ」


Dr.マルキが調整槽から出た私の前に連れてきたのはより幼い私だった。

メットは抱えているが、随分小さな私の物と同じ特殊スーツを着てる


「現行個体が稼働中に新型ですか?」


「ナハっ、あくまでバドアトンの再調整期間限定だよ? 君はその期間中に手柄を立てればいい。取り敢えず連中は首都には手出しできないからザハキア大陸に引き返し、マスドライバーで月を目指すようだね」


月。


「漆号狙いですか···」


宇宙(そら)は統制が地上より曖昧だからね。出られるならばそうなるでしょう。そもそも連中のバックは西部ではなく宇宙公社だからさ」


「···宇宙」


シュミレーションは散々やったが、出たことはなかった。おそらく短い生涯に縁もないだろうと。


「おい、いつまで老けた裸体を自分に晒しているつもりだ? その調整槽も今日から私の物だ。旧いお前は、猟犬の仕事でもして次の私の為にデータを収集しろ」


「···」


私のシリーズは幼体だとこんな減らず口を叩くものか?


「XIII、お前鼻にニキビができているぞ? 見せてみろ」


「なに? そんなはずはないぞⅫっ。私の調整は完璧だ!」


「どれどれ」


私はXIIIの鼻に顔を近付けそのまま、ゴッ!


「ギャンっ?!」


頭突きをして床に転がし鼻血を出させてやった。


「ハハッッ、旧型から教訓だ。鼻先と年上への口の聞き方に注意しろ」


「このっっ」


XIIIは激高して飛び掛かってこようとしたが、Dr.マルキのエイ型ボットの尻尾に絡め取られて重力場で今度は釣り上げられた。


「Dr.! 離して下さいっ。コイツは今、スクラップにしますっ!」


「Ⅻ、着替えたらさっさと行きなさい。君にはまだ安定デチューンは行われない。その意味を理解するようにね」


「了解です」


ワーワー騒ぐXIIIを無視し、適当な保護スーツをラックから1つ取って私は私のラボを後にした。


(バドアトン、零号よりお前と再会するのに手間取りそうだ)


(···月は、美しいものだ)


存外返事のあった思念に私は思わず目が熱くなってしまった。


この機械の悪魔から逃れられる、おそらく最後のチャンスに違いないのに。


_____



バドアトンを撃退し、なんだかんだで西部艦隊は西ワハン要塞を陥落させた。

俺達はロニーを回収してさっさと離脱したから最後までは付き合ってない。


東西の交渉で要塞は結局占領しないみたいで、代わりに首都ルドラデリ周辺での諸交渉はかなり西部にとって優位になったらしい。


ま、ミッドシー周辺では逆に西部が苦戦してるらしいから地上戦に関してはこれでトントンだってさ。


そのトントンまでに結構人死んだんだけどさ···


「悪ぃがしばらくバカンスだ。ゾォズの生演奏でも楽しんでくるぜ?」


左眼と左半身の腿の辺りまで重傷を負ったロニーはオートストレッチャーのまま、怪我の有無を問わず他の離脱者達と共に脱出艇で護衛のエアグライダー2機とドローン数機と共に俺達の船から離れていった。


「馴染みを言い訳に無理をさせ通しだった」


「···彼が休めるまで、中庸な立場で生き残られたのは艦長の差配による物です」


ドッグまで見送りに来ていた艦長の腕に触れて、オンディーナさんが気遣っていた。


「大丈夫? ミコ」


ビンも左腕が悪くなってヒーリングギブスを外せず艦砲とドローンなんかのオペレーターを当面務めることになっていた。


ミコが1人で勝手にするのは段々難しくなってる。


「子供が大人の心配しない。さ、機体さっさと直さないとね〜」


俺の頭をクシャッとしてミコはジェム姐の手伝いに向かった。


「ザリデ、私達はカプセルで眠るようよう言われてるんですから、寝ましょ? 次は月に行くんだから」


「···月にも蟲いるんだっけ?」


「いたら大騒ぎですね。月の連中は大袈裟だから」


「へぇー」


雑談しながら、実際眠い。あれから何度か、合わせて10時間は眠ってるけど、普通の睡眠じゃバドリーラ運用の脳疲労は中々回復しないようだ。


どの船室のカプセルだっけ? とアンゼリカとスティック端末片手に2人でまごついてたら、「いた!」と俺達を探してたサティーに発見され、特別室に引っ張っていかれた。


寝るのも仕事だよ。


_____



一部を除き連鎖的な地域紛争は日に日に悪化しておりリュウグウクランを嗅ぎ回る勢力もあって、ザリデ達の小船団が避け続けた結果目的地である砂漠が多く蟲の目立つザハキア大陸のマスドライバー基地にたどり着くまでに、40時間以上掛かっていた。


「おー! マスドライバー!! やっと宇宙に戻れるんだぞっ」


ジェムは寝間着でブリッジに駆け付けていた。砂塵向こうの宇宙公社の基地と繋がったマスドライバーが見えてきていた。


「ジェム姐さんスペースピープルだったんッスか?」


「そうだ! 天然の無重力はいいぞぉ? サッパリしてる」


「「ええ??」」


ザリデとアンゼリカはジェムの主観に困惑気味で、ブリッジに居合わせた他のクルーもそれぞれマスドライバーに感慨を抱いていた。


一方、シークレットサービスに守られた眠るエルマーシュ姫の特別室で付き添うブルーナはモニターでマスドライバーを見ている。


「姫、今日もよくお眠りでごじゃりますね···直に宇宙に上がることになります。もう一度地上に降りてまで活動する資金はおそらく公社から出ないでしょう。これが、最後です。どうかお目覚め下さいね」


姫のヒーリングカプセルに触れるブルーナ。今は作戦行動中だから姫の立場が守られているところもあった。

仮に目覚めぬまましかし生き残って全てが終われば、姫の公的あるいは非公式の処遇はかなり危うい。交渉には自分も尽力することになる。


ブルーナは現時点で誰よりも来たるべき戦いに強い決心を固めていた。

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