西ワハン要塞戦 2
不思議な感覚だ。様子を見られてる気はするけど、嫌な感じはしない。これまで乗っていた機体よりもアンゼリカ感覚もよくわかる。
彼女がそんなに死ぬことに関心がなくて、ただなんとなく俺に付き合ってるくらいでここにいるのも改めてわかる。
恋とかでもない。
たぶん、ただの友達。でもそれがとても珍しくて、この鉄の塊の中にいる。
「ザリデ、バドリーラ・リヴァイブ、出ます」
「アンゼリカVI、同じくですわ」
宇宙公社の中型多目的移送艦バルタンIII改のメイン後部ハッチから、俺達の機体は対地パックと対空パックを合わせたコンボパックでやや過剰にスプライトガスの散布された空に投げ出された。
西部艦隊は集中砲火と設置型レイシールドの一点強化を避ける為に高度までズラして3隊に分けられていた。
前衛に小型シールド艦を配置する遠距離対空攻撃を突破する段は既に越えていて、今は無数の迎撃ドローンと地表の対空オートボットを撃ち払って、各所の設置型レイシールド破壊を狙う段だ。
先に出て警戒していたミコのA型脳波感応ユニクスIIと合流する。
接触通信ワイヤーを繋げてくるミコ機。
「データ取られるから向こうのS型が出てこない限り、パックと基本兵装で対処ね」
「今更な気もするけど?」
「これからでしょ?」
ワイヤーは外された。
「だってさ」
「いいんじゃないですか?」
「意味深だな」
「特にないです」
のらくらやり取りしてる内にドローンとオートボットとの交戦域に入った!
バドリーラとミコ機は中小の隊に混ざる形。すぐ近くにロニーのエアグライダー隊もいるけど、いつもとは逆で中途でバドリーラが露払いを担当する。
前に、出る!
「私、上」
「了解」
直射でやや当て難いドローン群は、勘が物をいう2条の偏光熱線で対処。アンゼリカに任せる。
俺は籠手にシールド展開器を装備してる左手に光学サーチャーを持って命中補正した上で、右手のアサルトライフルで硬めで熱線耐性持ちも多いボット群を狙う。
背部の弾倉缶からの給弾は自動だが、やや動き辛くなにより弾がめちゃ重い。
バドリーラじゃなかったら飛行補助装備が必要なくらい。
とにかく、重武装と機体パワーとアンゼリカの精度でゴリ推しする!
最初は圧倒的に掃討できるが、直に向こうの射程にも入り突出してるから猛烈に狙われる。
「回避に専念しますっ」
「よろしく」
俺は引き続きアサルトライフル。手数は減るが熱線はバドリーラ自身のオート迎撃に任せる。
決闘ファイターだった姫はこういう運用しなかったが、もうバドリーラの感応器OSは相当育ってるし、処理的にイカボットを積む余地のなかった俺達は負荷の肩代わりも利かない。
割り切りは必要だし、
『任せる、姉』
雑な光信号と共に、6基の有線熱弾ボットを自在に操り援護してくれるミコのユニクスII。
単騎だけで完璧にしようと思ってない俺達だ。
ただこのルート上で気を引いて、できるだけ間引きするのが最初の仕事!
「よっ」
「ザリデ、すぐ回転しますね」
「特等席だぞ?」
「はいはい」
確かに癖かも? なによりバドリーラはサンドボードより自由に飛び跳ねることができる。重くてバランス悪い装備もなんのそのっ。
それに動きに遊びがあると、なんというか、機体が面白がってる気もした。
先陣を切りながらそこそこ取り零しもしつつ、割り当ての、俺達の艦隊ルートの基点になってるレイシールド展開器まで最短のポイントまできた。
護衛役の中型ドローン数十機と大型地表ボット十数機が迎撃態勢を取り出す。
「うっは」
俺は光学サーチャーを捨て、左手に大型のハイレイランスを装備させる。
「アンゼリカ!」
「サーチャーより私の方が優秀ですからっ」
狙ってくる雑魚群はミコ機に一旦任せ、バドリーラは護衛対策を専念する!
まずはドローンの突進と集中砲火に対して急上昇して、螺旋気味に降下して引き剥がしながら、コンボパックを出し惜しみ抜きで全弾撃ち尽くす!!
ドドドドドドッッッ!!!
耐久値の低い中型ドローンはほぼ全機沈黙っ。大型地表ボットはあと中破が3機! 小破が2機!
確かにサーチャーより丁寧なアンゼリカの命中補正を受けつつ、中破して耐久値の落ちた3機を電磁爆雷とクラスター弾撃たれまくりながらアサルトライフルで撃破!
残2機はまだ頑丈で速いっ。俺は思い切って、重い弾倉缶とアサルトライフルをパージして、胸部機銃と偏光熱線だけで弾幕を張りながらハイレイランスで突進した。
ミコ機の動きも把握してるっ。
2機がバドリーラに最大に引き付けられたタイミングで1機は袖にして、もう1機に突進するっ。
無視した1機は虚を突かれたところをミコ機に押し込まれていた。
近付くと相手も土煙を上げて高速機動しながら機銃と光学認識ミサイルに切り替えて応戦してくる!
東部連合の防衛仕様大型陸戦ボット、フバフIII。どっちかというと大型の蟲退治で活躍する機体だが、相手が悪かったな。
「おりゃっ」
(右、下、上、上、左、中、引いて、前、左)
アンゼリカの思念の指示の情報量っっ。
でもいい加減長いコンビだ。慣れた!
苦し紛れの多関節アームの熱刃クローを躱し、ハイレイランスで薄紙のように上半身? をブチ抜いて仕留めたっ。
「しゃっ」
「お姉様も片付いたようですね」
ミコ機も最初の奇襲から畳みかけてフバフIIIを仕留めていた。
「あとはロニーかな?」
見上げると、重そうなパックのロニーのエアグライダー隊が、パックの高出力の電磁爆雷を一斉に放って激しい放電を放って広域レイシールドに一時的風穴を開けた。
もう一仕事!
ミコ機から光信号で、
『一発、離脱』
と確認のメッセージを受けとり、放電現象が起きる中をヴァルキリーメイルの電磁界で機体を守りながら風穴を抜ける!
広域シールドの内側には有人のバッズ系機体がうなる程いたが、12基の高機動有線熱弾ボットをアンゼリカに展開してもらい威嚇っ。
俺はデカ過ぎて2分割式になってるレールガンをドッキングさせ、踊るように迎撃を回避しながら、基点になってる設置型広域レイシールド展開器と対峙するっ。
目標は小型艦並みの質量だ。機体に動力部を観測させ、ロックオンする。
多数のシールド小型展開器やドローンで阻止に掛かるが、バドリーラが学習したこのレールガンを近接距離で受けるにしては薄い薄い!
バシュッ。一撃で全てのシールドを貫通し、動力部を撃ち抜いた。即座に誘爆が始まる!!
放電帯以外も広域シールドが解け、自軍が雪崩れ込みだし、すぐにミコ機がフォローに来てくれる。
『疲れる、帰還』
端的なメッセージ。
「過保護〜」
「まぁな」
俺達は大雑把に電磁爆雷を散布して、一旦母艦へと下がり始めた。
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既に窓の防護壁は降り、映像に切り替わった西ワハン要塞司令室では司令官ムーベラが焦っていた。
「観測は十分でしょうっ、バドアトンの投入をっっ」
「まだ提供した自爆ボットを使っていないようですが?」
「Dr.マルキ!!」
「ナハっ、しょうがないですねぇ···」
エイポットから有線マイクを引き抜くDr.マルキ。
「ラルヨーシュⅫ。ドックにいますね。あまりウロウロしないように」
「問題無いです。データも見ました。既にバドアトンに搭乗しています」
ラルヨーシュⅫは特殊な保護スーツを着込み、僅かに発光するバドアトンのコクピットで意識を研ぎ澄まそうとしていた。
Dr.マルキから司令官に通信が切り替わり、指示書と口頭でも注文を付けられたが指示書にだけ一瞬で目を通し、話は聞き流すラルヨーシュⅫ。
通信を終え、出撃シークエンスに入ると、
(···バドリーラ、悪くないデータだが、思ったより普通だな。アンゼリカVIにしては大人しい気もするが、この期に及んで別人でもないだろう。だが、小器用に突破してみせたことは褒めてやる)
「お前達との交戦データもバドアトンの餌だ!」
無理に雑念を払うことを諦め、バドアトンとの同調に集中し直す。
出撃シークエンスが整い、要塞の秘匿カタパルトの1つが解放された。
「ラルヨーシュⅫ。啓示のバドアトン、出る!」
かなりのデッドウェイトのパックを背負ったバドアトンは単騎で崩壊しだした広域シールドを越えた西部艦隊の機体群に突入してゆく。
「輝いて消えろっ!!」
パックから数十の無線熱刃ボットを射出し、コンテナを棄てるバドアトン。
ボットに積まれた小型脳波感応器がバドアトンに呼応し、凄まじい出力を発揮し、ルート上の西部軍機を掃討してゆく。
損耗したボットは次々自爆突進させ、数を減らしていったが、崩壊する広域シールドの先へあと一歩というところまでバドアトンを無傷で導いた。
が、8割以上生き残ったタフなエアグライダー隊の隊長機が他の隊機を下がらせながら突進してきた。
特攻コースではない。
(エアグライダー1機で墜とす気? 私達をっ)
赤いフェアリーテイルV改がコクピット内に音楽を掛けていることをラルヨーシュⅫは感じた。カントリーゾォズという物であると、知識では理解している。
それが思念で伝わってくるのはこのパイロットの精神が染み付いた曲を奏でているからであった。
(ガチャガチャうるさいっ!!)
実戦経験の乏しいラルヨーシュⅫは生身の人間の意志に困惑しながら、完全に見切ってハイレイライフルで撃ち抜きに掛かった。
しかし、射線は直前で微妙にズラされた上、相手は脱出缶を使いながらもおそらくオート射撃で電磁爆雷とクラスター弾を一発ずつ撃ち込んできていた。
爆雷でハイレイシールドに一部に穴を開けられ、そこから入り込んだ散弾にわずかに装甲の一部を削られるバドアトン。
「コイツっ」
思わずパラシュート降下してゆくやや変形した脱出缶にライフルを向けるが、
(無用)
バドアトンに拒否され、ラルヨーシュⅫは歯噛みした。
(ラボの外はおかしなヤツがいるな。私とバドアトンの認識に必要ない)
「···気持ち悪い」
他の機体に絡まれるのも嫌い、崩壊した広域シールドに迫る西部艦隊へとバドアトンは突進を始めた。
目指すはバドリーラの母艦だけであった。




