5話 シェルター船の探索 1
他に移送用の船がないから、グリルポークIIの脇の出っ張りに格納されてる脱出艇の1艇に乗ってジェム姐さん達は降りてきた。
俺とミコも、リーラ改に戦闘中は位置がバレて使えない蟲避けの電磁波を出させて、シェルター船の前で機体を降りてる。
シェルター船は簡素な中型船でグリルポークIIより一回り小さいくらい。破損はそれなりだけど外部探知で誘爆の兆候は検知されてない。船の動力もとっくに死んでた。
探索応援の船員は4名。メカニックのジェム姐さん、普段厨房にいる筋肉モリモリのハルバジャンさん、庶務管理室で見掛ける確かブルーナさん、どこにでもいるから役職がよくわかないロニーだ。全員、メット付きの保護スーツを着てる。
ジェム姐さんは鳥脚二足歩行のサポートモービル、ジャンパーに乗って現れた。コンテナ運搬係を兼ねてるんだな。
俺が、ぽけっとジェム姐さん以外を見てると、ミコが紹介をしてくれた。
「ハルバジャンは白兵戦のプロなんだよ」
「任せろっ。ふんっ!」
マッスルポーズのハルバジャンさん。っぽい、とは思ってた。
「ブルーナは工学遺物のプロ」
「こんな時代だと大学まで行ってもこんな物だわ」
屈折した感じ。
「ロニーはまぁ、器用だから」
「大体のサポートはできるぜ? へへへっ」
別に変なこと言ってないのに雰囲気が怪しい···
「なるほどー」
感心してると、
「よ~し! リュウグウクランのシェルター船探索隊隊長はこのジェム・フェザーフットだっ!! 野郎どもっ、続けーっ!!!」
「いやジェム子っ、先、ドローン飛ばすし、先頭ハルバジャンだからっ」
「あーん?」
ジャンパーで突進しそうなジェム姐さんをミコが慌てて止めた。
隊列は先行ドローン1機、ハルバジャン、ミコ、ジェム姐さん、俺とブルーナさん、殿がロニーで、その後ろに保険に後続させたドローン2機に決まった。
入口はドローンの対応で簡単に開き、中に入ってく。
メットのフェイス画面の明度調整はできるけど、明かりはドローンとジャンパーのライトで十分そうだ。
「わりと状態は悪くないね。スプライトや変なガスも籠もってないみたいだし···」
「感染症や毒物のサーチはしっかりした方がいいわ。80年前の地域紛争中の船なんて、冗談じゃないから」
「砂の侵入が見られる。小型の蟲くらいは入っておるかもしれんぞぉ?」
「オイラのジャンパーは重武装だ! 蟲も対人オートボットもどんと来いっ!」
「外から観測したけど、まずサーチドローンだけ入れて、詳しく調べた方がよくないッスか?」
「慎重だなザリデ〜。へへっ」
なんだかな、と思いつつ、俺達探索隊は入れそうな所を一通り見て回った。
対人小型オートボットはいなかったが、スナヘビムシなんかはいくらか遭遇した。
まぁドローンの熱線とハルバジャンのゴツいアサルトライフルだけでほぼ片付くくらい。
乗員の遺体は不思議と全く無い。ブリッジも機関部も無人だった。
「あとは独立動力がギリギリ生きてるシェルターフロアだけね。たぶんいいことにはなってないわ···」
「素材やパーツはそこそこいいのがあったし、オイラ的にはもう満腹だ!」
俺達はシェルター船の船室エリアの多くを占めてるシェルターフロアに向かうことにした。
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シェルターフロア入口前でリュウグウクランの一行は一旦止まり、ジェムとドローン3機とコンテナから出したハッキングポッドでシェルター内の詳細データの引き出しに掛かることになった。
「ポッドとドローン3機連結っ! 丸裸にしてやんよっ? うはははっっ」
ジャンパーから降りた小さなジェムは入口前のキー端末からの強引なデータハッキングに熱中しだした。
「ブルーナさんはやらないんッスか?」
「私は工学遺物の専門家で現代のメカやデータ処理の専門家じゃないわ」
「へぇ···」
「あなた、使えない眼鏡だな、て思ったでしょ?!」
「いやっ、眼鏡とは思ってないッス!」
「眼鏡とは?!」
ザリデがブルーナに詰められている間に、ジェムはデータを抜き終えた。
「わかったぞ? 可燃燃料式じゃない。爆薬とか別の物に障らない限り誘爆しない。だいぶ弱ってるけど、大きな破損はなかった。漏電も見当たらない」
「そっか。中、入れそう?」
「シェルター用の重力環の一部に破損がある。まぁ、ちょっとだし、重くなってるとこ避けたらいいだけ」
「有機ガスは? 遺体もあるでしょ?」
「換気と滅菌は効いてた。やたら生身で触ったり嗅いだりしなけりゃ問題ないぞ?」
「そんなことしないわっ。メットは上げないようにしましょう。船や機体に戻る時の滅菌もね!」
「まだ帰らないぜぇ?」
「蟲やオートボットは入っておらんか?」
「シェルター内に蟲の反応は無い。戦闘型のオートボットの反応も」
「あの···保護カプセルとかに生存者、とか?」
一応聞いてみたザリデ。
「それはあった! 一番奥のスペースに2基!」
「「「お〜っ!!」」」
「でも、どういう状態で生きてるかよくわかんなかったぞ?」
「「「ああ〜···」」」
これから行う確認作業が一気に億劫になるザリデ達リュウグウクランクルーであった。