49話 西ワハン要塞戦 1
リュウグウクランからすれば、地上に残されたモガリア系S型機は東部首都ルドラデリで開発が続く正体不明の機体のみ。
現状宇宙に上がる術がなく、活動指針でありバドリーラの所有運用権を持つエルマーシュ姫が昏睡と言ってもよい状態となる中、ルドラデリ近い所まで迫った一行は交戦機会を1回得るのはやっとといった状態であった。
現地調達で補いきれない資金、物資、随行船団の維持には条件があり、西部からはこの地域の東部の要衝である西ワハン要塞攻略への参加を促されていた。
エアギルドからは要塞から東のワハン回廊と呼ばれる東部のデッドラインには踏み込まないことを条件とされた。
補修しパイロットを更新したバドリーラを搭載したリュウグウクラン船団の戦線復帰は既にややボカした形で東部にリークされており、可能な限りこの場で片を付けるというのが大筋の目算であった。
が、Dr.マルキの主旨とは噛み合わない点もあった。
西ワハン要塞司令であり、モガリア系の抗争等噂話程度の認識のムーベラは唐突に現れた工学省の要人にして変人に困惑していた。
「えー、つまり? 観測したいと」
「ナハ! そうなりますねぇ。なにしろ中破してパイロットも変わっているようですから、出来損ないに半端なパイロットのようならわざわざ機密を晒してまで初号機を出す必要はないでしょう?」
「それはそう、かもしれませんが···」
何系だろうがどの勢力の意向だろうが、相手方にS型規格を投入される見込みは確定的なようだった。
わざわざ出張ってきた挙句、高見の見物をされてはたまった物ではなかった。
「4式試作自爆シールドボットを400基提供しましょう。本営からの増援と思って頂きたい」
「! それはありがたいっ。アレの試験データ拝見しました!!」
「ナハハッ、まぁ延々試作機ばかりイジってるワケにもゆきませんからなぁっ!」
ムーベラはマルキの扱いに困惑しつつ、一先ず、近々防衛線を抜けてきそうな西部のカチ込み艦隊にいい先手が取れそうな感触を抱いていた。
「···」
軍服で背後に控えているラルヨーシュⅫは鉄面皮を維持している。
エイボットを連れたマルキは飽きた時特有のデタラメな雑談を始めていたが、それを聞き流しながらすぐには出番が無さそうなことに大いに落胆していた。
バドアトンの反応からすると、相手が無力とは考え難かったが、要塞戦等どうなるなわかった物ではなかった。
単純に奇襲してやりたいくらいだったが、相手は西部艦隊に組み込まれ、秘蔵っ子扱いで手出しは困難。
そもそも姫が脱落しているのであれば、エアギルドのクラン程度では活動基盤は脆弱ではないか? とラルヨーシュⅫは疑い、これは的中していた。
一連の連鎖的紛争は精々数年で不毛に収束するのは目に見えているが、ここで不戦勝するならこれから延々試験運用を繰り返し、遅くとも十数年で自分はただルーチンをこなすだけでバドアトンに飲み込まれることになると彼女は容易に想定する。
(バドアトンに、足しにもならないと思われかねないっ)
敗北以上の恥辱を感じながら未知の恐怖に取り込まれてゆく最後等、望んでいなかった。
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イカボットを廃し、複座制となったコクピットを露出させたバドリーラは装飾が随分簡略化され汎用機をベースにした形状に変わっていた。
「変え過ぎじゃないかぁ?」
「予算と時間が足りなかったんでしょ? 頭と手足が生えてるから十分十分」
紫スーツのピンク髪の人は炭酸抜きのラコーカをストローで飲みながら大雑把なことを言う。
「ゼリキャン婆達があれこれ積もうとするからそこが一番面倒だったぞ?」
ヘルメットに『私は正しく仮眠を取ります』とサティーさんに怒り顔マーク入りでペンで書かれたジェム姐さんは、オレンジイカボット達を連れ、やり切った顔だった。
ゼリキャン婆さん達はこの間とは逆にソファで爆睡していた。昏倒してるワケじゃないが、年も年だからこれも要メディカルチェックだな。
「なんか急にメカメカしくなったね!」
「これくらいが運用し易いよ」
ミコが左腕にサポーターをしたビンとオートカートでドックに来た。
「ビン、左腕は?」
「無理やり骨くっつけてるからね、ハルバジャンと艦の護衛に専念するわ」
「へぇ」
「てことで、今回からミコさんが2人のサポーターに付くよ?」
「露払いはロニー隊がやってくれるから、まぁこれまでよりシンプルな立ち回りになりそうですね」
「改めてよろしくね! アンゼリカちゃんっ」
絡むミコを退けるアンゼリカ。
「距離感無理っ」
「ちょっとザリデ君、この紫ピンクちゃん、どうやったら懐いてくれるんだっけ?」
「知らないでーす」
まぁ色々簡素になっても船は守らないとな。結局、姫はどこにも置いとけなくて船に乗せてるし···もう見分とかでもないから。
リュウグウクランの船団は防衛線に切り込む西部艦隊の最後尾だ。
まだ結構時間はあるそうだけど、もう始まってる状況でもあった。
(よろしくな、バドリーラ)
バドリーラは特に応えるでもなく、コクピットを露出させ膝をついたまま沈黙していた。
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風の吹く、要塞上部の簡易離発着場にラルヨーシュⅫは武装作業機で上がってきていた。
コクピットを開け、交戦の光が見える防衛線の方をメット越しに見る。
「···いるな。生き残って、私に挑む機会を得ろ。零号!」
ラルヨーシュⅫは不可解な懐かしさや、記憶にない哀しみのような物をいくらか感じたが、すぐに振り払った。
今の彼女は戦士であった。
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西部艦隊がボットと無人接地兵器主体の防衛線を抜けると、俺達は迅速性と乱戦時のバックアタック対策と正面最大火力を避ける為に最後尾から後部中程の左翼側に位置替えを行った。
この辺りは岩山が多い。生息してる蟲も岩蟲と呼ばれていて飛行力は低いが硬いヤツらだ。
艦隊の片側に寄ったからドックのモニター越しでも山肌や岩陰から威嚇しまくってる蟲達がよく見えた。乾燥したエリアの蟲は強壮だかんな。
「ザリデ、アンゼリカ。最終調整に問題無いようだ。まだ出撃には間があるが搭乗しておいてくれ」
「「了解」」
艦長の指示で俺達は俺は昇降ワイヤーで、アンゼリカは身軽に機体の脚を駆け上がるようにコクピットに上がった。
「また後部席ですね!」
「俺の後頭部安心するだろ? イテっ」
メット小突かれた。ちょっとズレたメットを直しつつ、ブリッジの様子をモニターで見てみる。
「ふっ」
端っこの方の固定座席に保護スーツを着てメットだけ上げたオンディーナさんが大真面目な顔で座っていた。
心なしかルーラ副艦長の眉間のシワを深い。
「秘書官でしょ? 普通に邪魔じゃない」
「アンゼリカ。このミジンコは、心の機微がわかってないよ」
「なによっ、メット挟み割るよ?!」
ベルトで身体固定したあとだからか今度は両足でメット挟んできやがった!
「ぐわ〜っ?! 首抜けるっっ」
「なにを遊んでるんだぞ?! 姫の機体だぞっ! 乗ったらとっとと固定ラックに移動!!」
「「了解です···」」
まだコクピット開いてるからジェム姐にめちゃ怒られたし。
俺とアンゼリカは取り敢えずこれ以上怒られらたくないからコクピットを格納し、軽く機体を起動させた。
わずかに脳波感応器が呼応する。散々テストしてきた。他の機体と違う不思議な感覚。
たぶん疑似脳でもない。魂の情報体。
「起きろ、バドリーラ。もうすぐ出番だぜ?」
「カミラビ、浮気を許してね」
ジェム姐さんとオレンジイカボットに誘導されながら、バドリーラはゆっくりと立ち上がった。




