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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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44話 神に至る規格

姫の船室に回復槽が持ち込まれていた。


すっかりやつれたブルーナさんはスティック端末にキーボード表示させて、なにか書き物をしていた。


「ポエムでも書いていたのですかぁ?」


「違うわっ。嫌な子! これまでのことを纏めていたの。規制はあるでしょうがいつかなんらかの形で発表したくて」


「ふーん」


「これ、お土産。検査済みだから。飲食品は長持ちしそうなのばっかしだから」


取り敢えずテーブルに置いた。生花も少しある。


「ありがとう。姫も起きられたら喜んで下さると思うわ」


「···起きています」


不意に回復槽のスピーカーから姫の音声がした。


「姫! お目覚めでごじゃりますか?!」


駆け寄るブルーナさん。俺達も向かった。


ガス式の回復槽だ。医療用のピッタリした保護スーツを着た姫は面目なさそうな顔をしていた。


「ザリデ、医療スーツをジロジロ見ない」


冷えた目のアンゼリカっ。


「見てないし!」


「こんなことなら最初から定期的に回復槽に入っておくべきでしたね。振り出しに戻った気分です」


いつか凍り付いた部屋で従者の人と眠っていた姫。


「ザリデ君。アンゼリカ。万一のこともあります。ミコさんには既に話してあったのですが、バドリーラの、モガリア系規格の秘密について伝えておきます」


「え?」


「私もいいんですか? 姫。東部に売っちゃうかも?」


「ふふ。可愛らしいアンゼリカ」


「は? 意味わからないですねっ」


赤面するアンゼリカ。


「ふぅ···モガリアでは、延々と完成しないバドリーラの正規のテストパイロットは御子と呼ばれていました。姉はその御子でした。私は幼く、当初はその意味をわかってはいなかった」


遠い過去を見ているエルマーシュ姫。


「御子は衰えると、あるいは一定の同調率を越えると···その脳細胞を結晶化し、バドリーラの感応器と同化することを使命としていました。蟲によるオドタイト原石の精製の理屈を応用した物です」


「えー···」


俺は絶句したが、アンゼリカ鼻で嗤って。


「そこまで直接的ではありませんが、私達のクローンシリーズがやってきたことも似たような物ですね。それに本国の初号機の開発には色々噂がありますし···」


「開発するだけなら、あるいは倫理を度外視した方法論の1つに過ぎないのでしょう。しかし、モガリアは宗教国家です。バドリーラの開発には目的がありました」


「目的?」


俺が聞いてもいいことなのか? と思わないでもなかったけど、姫の少ない人間関係の中で打ち明けてくれるワケだから聞くしかない。


「感応器に適応する、上位サイキックのみで構成される集合意識による超人格。いわゆる、神、の創造です。建国期のモガリアの技術者達は気付いてしまったのでしょう。神は、製造可能な工業製品だと」


さすがに俺もアンゼリカも息を飲んでしまった。寺院とか、教会とかのアレ。あの人達、実際造れちゃうんだ···。


「砂漠の地の底での長い眠りの中で、私はバドリーラの中の集合意識と対話していました。この、やがて神に至るモガリア系規格。やはり滅ぼすべきだと」


姫は回復槽の中で泣いていた。


「姫や、歴代御子の人達はそれでいいんだな? 正直、良し悪しの基準もわからないことだけど、あんた達が別の誰かに利用されるのは避けた方がいい気はする。俺は改めて協力するよ」


「S型機の規格なんてどれも呪わしい物ですが、厄介そうですね。東部や西部の首脳陣が知ったら小躍りすることでしょう。潰すことには賛成です。いよいよ私達が素材として消費されるのはごめんですからね!」


「姫、わたくしも味方ですからね」


「···ありがとう。ブルーナも。私は次の5体目のS型機とはどうにか戦えます。しかし、6体目以降はおそらく難しいでしょう。おそらく2人に代わりに戦ってもらうことになると思います。ゼリさんとキャンデさんにお任せしてありますが、いくつか注意点を」


「ちょっと待った」


回復槽に張り付く勢いのアンゼリカ。


「その、バドリーラに次の次から私達が乗るとして、最終的に機体に飲み込まれる。なんてことはないでしょうね?」


「姉様も、他の皆さんも、気を付けるとは言ってらっしゃいましたので」


「言ってらっしゃいましたぁ?」


「···言ってらっしゃいましたもん」


「アンゼリカ、圧が強いってっ」


「全部で7機でしょ? 2回乗るだけなら大丈夫じゃごじゃりませんかね?!」


取り敢えず疑いまくるアンゼリカを姫の回復槽から引っぺがしたさ。


_________



アリムVは液体調整槽から出ると慣れた様子でタオルで身体を拭きだした。


アリムV管理主任の黒人と白人のハーフらしきハバードは持ち込んだジャルマをストローで飲みながら作業していた。


「なんだかよくわからない味ね。西部が半端な戦力しか出してこないから連戦してるワリにはそれ程負荷は溜まってない。···アリムVは結構近い、西部のタウンベースになんとかクランの姫様達が来てるらしいけど、会いに行かないの? まぁ、公にもう戦争しちゃってるけど」


「別に話すことない」 


無理矢理子供用の物が用意された東部連合の軍服を着るアリムV。


「他のヤツらの気がしれないし。あと、アンゼリカVIも苦手。アイツ、甘ったれ」


「生き残ったら2年後くらいにはアンゼリカVIIが同僚になるんだから選り好みしない」


「バカバカしい。僕は今、この瞬間を生きてるんだよ。あっ」


服と合わせて用意されたバーガーセットのバーガーを齧って顔をしかめるアリムV。


「ピクルス入ってるじゃん?!」


「アンゼリカVIみたいに普通の飯食べさせろ、て言ったよね? 普通には、そういう哀しみと憤りが含まれるんだよ。この瞬間のピクルスを噛み締めろ、アリムV」


「くっそ〜。零号、バドリーラとかいうのの前に、アンゼリカVIをバキバキにしてやるよっ」


アリムVは猛然と、ピクルス入りのバーガーに食らい付いた。


_________



忌蟲剤は蟲除けの電磁波より簡易かつ即効で蟲を追い払うことができたが、よほど弱い蟲でない限り殺せはせず、追い払った先で興奮状態になる副作用もあった。結果、


「迎撃はヤブヘビだっ! 電磁波最大っ。電磁爆雷を撒け! 一旦高度を上げるっ。機体は出すなよっ? ハッチを開けるなっ!!」


リュウグウクランの小艦隊は通常出力の蟲除けの電磁波を物ともしない、興奮状態の風蟲(かぜむし)と現地で呼ばれている中型の蟲達の大群に囲まれていた。


「随伴艦に光信号出せ。挙動を合わせる。電磁爆雷散布後に上昇」


副官のルーラが補足する。


「酷いルートを指示された物だっ。大体安易に忌蟲剤を使い過ぎだ。この群れは周辺ベースの領空まで到達するぞ?」


苛立つガーラン艦隊。


「この地域は公の戦争状態が20年ぶりです。張り切ったのでしょう。ベースに被害が出て両軍我に返るまでワンセットです」


「···」


鉄面皮のルーラに若干引くガーラン。


「確認取れました!」


通信士が伝えるとガーランは声を張った。


「第2戦闘配備中だ。角度がついて構わん! 電磁爆雷散布っ。上昇!!」


中型多目的移送艦バルタンIII改は電磁爆雷を散布して、蟲達を威嚇誘導すると高度を上げ始めた。随伴する小型護衛艦ロックタイマイIII2隻と西部の小型偵察艦ブレーメンIII1隻もこれに合わせる。


「わーおっ」


パイロット用控室の俺達はシートにベルトで固定して、上昇の角度に対応した。面白がるミコ。


「抜けずに上げるんだ。艦長らしいね」


「むぅ」


「飲み物零したヤツ、ヴェスコ(ビスケット菓子)奢りなぁ」


「姫大丈夫?」


「はい。ありがとうザリデ君」


カプセルから出てメディカルチェックと運動リハビリも済んだ姫もピンクの保護スーツで控室に来ていた。


「私は?」


「なにが? イテっ」


紫スーツの人に肩パンされた。いって〜。


俺達の小艦隊は指定ルートで東部の5番目のモガリア系S型機ボルテチを運用している艦隊の展開域を目指していた。


案外元気そうにも見える姫、これでほんとに最後なのかな??


神様の欠片だったかもしれない人は、飲み物を零してビスケットを奢らずに済む為にボトルを注意深くキープしていた。

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