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41話 白夜のトリグラフォ

場合によったら、相手のS型運用小艦隊の位置確認だけで引き返すこともある、なんて話になっていた第二戦闘配備中のバルタンIII改のパイロット用控え室に、エルマーシュ姫がブルーナに付き添われて入ってきた。


顔は青い。


「姫」


「大丈夫ッスか?」


俺とミコが席を側に向かった。1人座ったまま姫の状態を観察しているアンゼリカ。


縄張りに来た他の他所の猫を見る猫の顔···


「極北の閥は今も好戦的なようです。トリグラフォは、西部に対し挑戦的に運用されています。機会を逃せば、こちらを見切って極北中部の激戦区になし崩しで本格投入されてゆくでしょう。ここで、倒します」


弱っても変わらず、姫の目は奥は燃えるようだった。


_________



会敵は互いに探り合いだったが、結局東西軍双方が本隊近くでの交戦を嫌って離れるように打診し合った結果、古来から紛争が絶えず、旧世紀の大質量攻撃の灰燼害の影響期間が長かった為に、未だに大小のベース開発がままならず、延々と東西の農地が広がるばかりの奇妙なモラトリアム地帯となっているヴァルミア半島中部の上空となった。


交戦地としては悪手以外の何物でもなかったが、もはや引き下がれる距離ではなかった。


地上で空襲警報が鳴り響く中、農業従事者達は到底間に合わない避難に途方に暮れていた。


ザリデ達リュウグウクランの小艦隊はミッド・シーから変わらず、中型多目的移送艦バルタンIII改、小型護衛艦ロックタイマイIII2隻と西部の小型偵察艦ブレーメンIII1隻の編成。


艦隊対面の形が作られるまで間があった為、ハルバジャンはタロスIVバーニアンでにタロスIIIバーニアン隊を率いてバルタンを護衛する形を整え、ロックタイマイ艦からもライドグライダー乗りのリーラIV隊を放出済み、軽い艦砲戦後の初手として、ロニーの率いるフェアリーテイルV改率いるエアグライダー隊が展開された。


東部側は中型多目的戦艦ウルデェンIIに小型護衛艦べシムIII2隻、小型偵察艦ベアドーIV1隻。


リュウグウクランの対応にほぼ鏡のように自軍を展開し、両軍が護衛艦同士の艦砲戦をやや激しく始めると同時にバルタンIIIとウルデェンIIが互いに汎用機を1小隊ずつだし、手札がS型機と護衛機のみとなると、双方の艦長は腹を括り、出撃を許可した。


「エルマーシュ、バドリーラact5、出ます」


「ミコ、マナ・リーラIV改、出るよ!」


「ザリデ、マナ・リーラIII改」


「ザリデ! S型には有線ボットより有線電磁爆雷の方が効果抜群なんだぞっ?」


「いーやっ、支援なら熱線の方がっ」


「脳波系機はあたしらに任せりゃいいんだよ子のチビ助はっ」


「なんだとぉーっ?!」


「えー、出ます」


「アンゼリカも!」


ザリデ達の機体はやや出遅れたが、投入された。


「ヒルデIII、白夜(びゃくや)のトリグラフォ、Bパックで、出る!」


重鉄鋼機1機分の質量の重火装パックでヒルデIIIのトリグラフォも単騎で出撃した。


先行する姫のバドリーラとミコのマナ・リーラIV改は汎用機隊を率いるビンの高機動機ナラシンハIIの光信号による「下、農家」のメッセージを受け取りつつ、トリグラフォと対峙した。


まずはトリグラフォのいずれも大まかな光学探知のスプリットミサイルとクラスター弾の連射をミコ機が4基の有線ボットで落とす。

が、電磁爆雷を混ぜられ、ハイレイライフルの狙撃でボットを1基を墜とされると、対処に苦慮しだした。


(ネプトリスのデータで現状実装可能、有用なのは重力兵器と衝突型の捕獲兵器、といったところか? 感応器の超臨界起動も捨て身だろう。姫、感じるよ? 命を削ってるっ。そんな自分はよく知ってるわ!)


トリグラフォはBパックの全弾をミコ機とビン率いる汎用機隊に撃ち込み、ミコ機の全ボットとビン機以外の汎用機全機を損耗させ、エアグライダー隊に絡まれているザリデとアンゼリカの機体を無視し、全サブアームを出してバドリーラに踊り掛かった。


ミコ機、ビン機は汎用機に取り囲まれた。


全アームと2丁のハイレイライフルの高精度攻撃をこれまでの戦いで高まった射撃精度と2条の偏光熱線、距離が縮めば有線爆雷で牽制するバドリーラ。


姫はザリデ達を待っていた。


(1人で戦えないのっ?!)


ヴァルキリードレスを展開し、熱弾を弾き、熱線と有線爆雷のみ避けて突進するトリグラフォ。


(これは電磁界アーマー! レイシールドは効かないっ)


有線爆雷では間に合わないとみて、胸部バルカンによる威嚇誘導と本来突進捕獲用の2本の簡易緩衝ビッグクローを回避先に射出パージしてトリグラフォの左肩のハイレイシールド展開器を毟り取るバドリーラ。


「ぐっ」


仕切り直し際に頭部の高出力熱線照射器から放った一撃で、有線爆雷缶を融解させパージ炸裂させるトリグラフォ。


ちょうど中間的な間合いの射程となった為、頭痛とイカボット1基のショートと引き換えに出力を上げ、重力波による強制墜落を測るバドリーラ。


しかし、トリグラフォはトリグラフォ自身の学習と判断で、重力環の出力を上げ、サブアームの半数を失い、高度は激しく下げられたが重力波から脱し、ヒルデIIIの負荷も軽減した。


(苦手だったが、イポリットIIに礼を言おう!)


高出力起動後の出力低下状態のバドリーラに迫ろうとしたトリグラフォ。が、


「だぁーっ!」


「チビ子が熱弾ボット取っちゃうから!」


電磁爆雷ボットを温存したせいで手間取ったザリデとアンゼリカのマナ・リーラIII改が援護に入り、ここぞとばかり有線爆雷ボットを全弾撃ち込んだ。


ヴァルキリードレスとすこぶる相性の悪い兵器であったことと、重力波の影響で機体とヒルデIIIの一時的に反応も鈍っており、起爆前に半数しか落とせず、電磁爆雷に囲まれ、脱した所を未だ汎用機と交戦中のミコの2連射でハイレイシールドを使わされ、動きを止めた所を左肩部バルカンを撃ちながら突進され、詰められるトリグラフォ。


(邪魔だ! 活動報酬の二重取りは他所でやれっ!)


(嫉妬! やっと本性出しましたねっ!)


実を捻るザリデ特有の回避でハイレイライフル2丁とサブアーム4本のレイライフルの射撃を躱され、


「子供ぶってさっ!!」


激昂し、トリグラフォの頭部熱線でマナ・リーラIII改の左腕を切断するが、左腕を掠めるようにレイライフルで射たれ、融解させられパージせざるを得なくなるヒルデIII。


そこへ、イカボット1基を消耗しながら発光現象を起こしたバドリーラが射撃しながら急接近した。シールドと腕を失った左側面から詰める。


ヒルデIIIは今の自分の生存を棄て、薬物の追加投与を許可した。


(ヒルデIII)


(いいわ、トリグラフォ。この姫は、争いを求めてる!! ここで少しでも命を削るっ!)


トリグラフォに止めさせず、投与させ、臨界起動で機体を発光させるヒルデIII。


2体の光る機体は撃ち合いながら流星のように高度を下げ、流れ弾で農地を焼いた。


さらに出力を上げ、最後のイカボットを消費し、加速し、精度と火力を上げるバドリーラ。


トリグラフォは次々サブアームを失う。


観測外に出てデータが取られなくなることを恐れ、ヒルデIIIは弧を描いて自軍艦隊の方へと戻りながら反撃を試みる。激しく、体力を奪われるヒルデIII。


(大地を見ろ! この炎がお前の本質だっ、エルマーシュ姫! 零号、バドリーラよ!!)


トリグラフォは再びヴァルキリードレスを纏ったが、バドリーラはハイレイライフルを棄て、東部のドメアIVを強引に捕獲すると、トリグラフォに突進して間近で投げ付け、炸裂により展開を解いて損耗させ、そのままハイレイランスを投げ付けて突き刺し墜とし地表の農地で激しく爆破させた。


「あるいはイポリットさんの言う通りですね···これが、わたくしの、限界なのです」


S型機を失い、東部小艦隊は撤退。バドリーラはミコ機とザリデとアンゼリカの機体に引き上げられるように帰投を始めた。


「···なんかバドリーラ、苦しそうだな」


「ん? 姫じゃなくてですか?」


「いや、なんとなく、さ」


「ふぅん」


アンゼリカはもう半ば関心を失いポリカネードを飲み、ザリデは発光現象の余韻の残るバドリーラをモニターで見詰めていた。

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