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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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38話 海鳴のネプトリス 2

リヴァイアIIが交戦に選んだのはリトルダゴンベースの領空から出た公空上の東西陣営の現在想定される配置から絶妙に離れた海上上空だった。


ユンケンの小艦隊は旋回反転し、浮遊静止常態を追ってきたリュウグウクランの船団に対して取った。


ガーラン艦長は形式的にS型機の見分の申請を光学通信で行おうとしたが、面倒がったユンケンが有効射程距離外から主砲を撃たせ、威嚇し、交戦は始まった。


「いいだろう! 戦闘配備っ!」


マイラギIII2隻からはドメアIV11機とバッズIIIバーニアン5機が出撃。


リヴァイアIIからオド・バッズIIIが5機のみが出撃した。


初手で撃ってはきたが艦砲戦今のところ艦砲戦を挑む挙動はなかった。


見分の建前上と強力なパック装備使用の情報があった為、躊躇ったガーラン艦長はバドリーラとサポート機2機は温存し、アイアンタイマイIII2隻からはリーラIV10機を出撃させた。


ハルバジャンが搭乗する西部の陸戦機を飛行戦改修したタロスIIIバーニアン改にリーラIV率いさせた凡庸仕様のイカボットを搭載させたリーラIIIバーニアン隊は船団護衛に配置。


ロニーが搭乗するフェアリーテイルVが率いる汎用イカボット搭載のフェアリーテイルIV隊とミコのマナ・リーラIII改はオド・バッズIIIに対応させた。


ドメアIVとバッズIIIバーニアンがリーラIV隊と最初に交戦を始めると、マイラギIII2隻も散発的にアイアンタイマイIIIへの威嚇砲撃を始めた。リヴァイアIIは動かない。


オド・バッズIIIとロニー隊、ミコとの交戦も始まった。


「S型への集中砲火を嫌ってるな。やはり空中戦は苦手、か?」


ガーラン艦長は、このまま単純な消耗戦になれば分があると踏んだが、アイアンタイマイIII2隻がマイラギIIIに釘付けになる形が固まると、ユンケンはネプトリスの出撃を許可した。


「イポリットII、海鳴のネプトリス! 出るっ!」


空戦パックでネプトリスは出撃。サポートにオド・バッズIIIを2機付けた。


ガーラン艦長も想定より平易やパック装備に内心安堵し、バドリーラに出撃を許可した。


「エルマーシュ、バドリーラact4、出ます!」


「ザリデ、リーラIV改、行きます!」


「アンゼリカ、同じく出ますわっ」


ビン機も続き、サポート機を引き連れた両S型機は大きく蛇行し、やや高度を上げて会敵した。


バドリーラとネプトリスは互いに様子を伺うようり砲戦を始めたが、サポートのオド・バッズIII2機は速攻でザリデ達とビンに激しい攻勢を掛けだした。


3基の有線ガナーボットをそれぞれ放ち、本体もレイライフルによる狙撃と肩部バルカン砲による威嚇を行ってくる。


「いい動きするね」


「うっは、また有線!」


「この感じ···オリジナルと戦闘用デチューンを併用するなんてっ!」


ザリデ達が苦戦する中、ミコは個人の感情が遠くなる感覚を覚えながら4基の有線ガナーボットを自在操り、ロニー隊を呼応してオド・バッズIII隊に対抗していた。


同時にミコはネプトリスを見て、感じる。


(水中での異常なステルス性はやっぱり発達した重力環を媒介にしてる。あの構造。海。わざわざ不利な空中戦を正面から···急いだ方がよさそう、ね)


互いに重いパック装備でも汎用型のバドリーラの方が空戦対応力は高く、そう間を置かず、ネプトリスのハイレイライフルを撃ち落とした。 


ネプトリスは即座にシールドを構え突進してきたが、バドリーラは2条の偏光熱線とハイレイライフルの熱弾で進路と挙動をコントロールする。


姫は最初の交錯でハイレイランスによる致命打を与える算段だった。


距離は縮まり、しかし、


ヴゥンッッッ!!!


発光現象と共にネプトリスの重力環が異常に出力を上げ、柱状の重力波でバドリーラを海面へと叩きつけた。


「姫っ?」


「よそ見!」


慌てるザリデとその隙を慌ててカバーするアンゼリカ。


「ううっっ」


姫は必死で力場を展開してバドリーラと自分を守った。ピンクイカボットが負荷で1基ショートする。


「零号っ!!」


薬物投与を受けながらイポリットはネプトリスり海へと追撃させる。


ミコは乱戦の中、有線ガナーボットの1基で完全なタイミングで一撃熱弾を放ったが、ネプトリス自身が身を捻って熱弾を空戦パックに当て、誘爆するパックをパージして海中へと姿を消した。


ミコは口惜しがったが、今の一手の隙をリカバーする為、手が離せなくなった。


ここでリヴァイアIIは距離を詰め、バルタンIIIへの威嚇砲撃を始め、救助を牽制した。


収束熱弾砲等で応戦するバルタンIII。


海中では、制御を回復したバドリーラは水戦パックを有効とした。

姫はコクピットで咳き込み頭痛と耳鳴りにも苦しんだが、ネプトリスは海中へと降下してきた。


サハギンスケイルで姿を隠し、高速かつ変則的な軌道で航行し始めるネプトリス。


水戦殲滅パックではない為、弱体化はしており装弾は少ないが振動刃弾、針弾、ハンター魚雷でバドリーラを詰め、海面に出ることを許さない。


バドリーラは回避と力場ガードとパックの針弾と20発限りのハンター魚雷のみが頼りであった。


薬物による危険な動悸を感じながら、イッポリトIIは思念で語り掛けた。


(姫、無益だったな。あんたは過去に囚われ過ぎた。放っておいても潰しの利かないモガリア規格はあと20年もすれば技術検証規格に格下げされたんだぜ?)


(わたくしには現在です。それに、あなたはその機体と近しくあっても、モガリア規格の本質には至っていないのです)


(なに?)


(それは、愚かな信仰)


イカボット2基一瞬でショートし、エルマーシュはバドリーラの脳波感応器への同調を高めた。激しい発光現象は力場の大渦を起こし、ネプトリスの全ての攻撃を打ち払った。


(なんだっっ??? 怯えているのかっ? ネプトリス!!)


離脱しようとする愛機に困惑するイポリットII。そして海中の闇に弾けた光の渦を彼は観測した。


「だから君は、この規格を葬るのか」


光の奔流が空へと突き抜けた。


爆発的な水蒸気の中、装甲を焼かれ兵装の多くを失いながら、上空に打ち上げられたネプトリスは無傷ながら光と力場が収まると浮遊したまま沈黙するバドリーラと対峙していた。


ネプトリスの疑似脳は焼かれてほぼ死に、自身も致死量の投薬で目と耳から出血しながら、イポリットIIはまだ戦意を失っていなかった。


「はぁはぁ、罪があるのは珍しくないぜ? 大なり小なりだろ? 俺は俺の仕事をする!!」


まだ動いたネプトリスの右腕の振動クローでバドリーラに襲い掛かる。そこへ、


ドッッッ!!!


真上からのリーラIV改の連射による熱弾が右腕

と肩部を貫き、仰け反らせた。

直後にオド・バッズIIIに詰められるリーラIV改。


「姫っ!」


「!」


ザリデの声に反応し、意識を取り戻した姫はバドリーラを再起動させ、ハイレイランスの投擲と有線誘導爆雷の連打をネプトリスに浴びせた。


「信仰···君のような理解ばかりじゃさ」


ネプトリスは誘爆し、残骸は海へと還った。


リヴァイアIIは撤退信号弾を撃ち、その小艦隊は南へと離脱を始めた。


リュウグウクランの船団は後追いはしない。


「こちらは生き残れたか···もう一仕事ある。完全離脱後、無用の者達は随伴艦に移せ。後、本国へ確認を取る」


ユンケンは硬い表情で副官に告げた。


···約4時間後、時間差で顛末をおおよそ把握したラザオムはハイルルの港からからコソコソと、ミッドシー南の沿岸部の東部優勢地域を脚の速い小型移送艦ヤモーIIを手勢と共に駆り、高速航行パックのドメアIV10機に護衛させ西にある東部連合のシティーベースを目指していた。


「司令が芋を引かず、ハイルルに誘い込めていれば墜とせたものを! 使えないヤツだっ、更迭してやるっ!」


ブリッジで艦長を押しのけ艦長席に座って悪態をつくラザオム。と、


「海中より接近! 東部艦···リヴァイアIIです!!」


接近浮上し、そのまま離水するリヴァイアII。


「なにっ? ユンケンか? なぜ南下してきた??」


「スプライト撒いてます!!」


「何ぃーっ?!」


「ドメアIV隊が離脱してゆきますっ!!」


「???」


状況に混乱するラザオム。


リヴァイアIIは下がるドメア隊を無視して、ヤモーIIに前面砲門を全て向けた。


「反逆だぞっ、ユンケェーンっっ??!!!」


電磁爆雷と他全弾でヤモーIIは撃沈させられた。


「西部ゲリラの逆恨み、で帳尻は合いますか? 中将」


リヴァイアIIは反転し、再び、これより地域紛争が激化してゆくミッドシーへと消えていった。

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