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砂海鉄鋼機バドリーラ  作者: 大石次郎


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37話 海鳴のネプトリス 1

バルタンIIIのドックに行く前にポリカネードを1本買っておくことにした。


「少年、それ好きねー」


ミコが来た。今回からC級脳波感応器搭載のマナ・リーラIII改に乗る。髪を短く切っていた。


「あ、髪? 心機一転よ」


「西部に戻るんッスか?」


「戻らないつもりだけど、わかんないなぁ」


自販機でビスケット菓子のゴリコヴェスコを買うミコ。そういえばコレ、ちょいちょい買ってる。


「···バドリーラは特に認証厳しそうだけど、S型って誰でもは乗れなくてさ、どうしても意味が出て来ちゃって。姫なんて経緯が経緯だし」


開けて1つ摘むミコ。


「せめてエルマーシュ姫の行く末は見届けるつもりだよ。ブルーナみたいに普段からお世話はできないけど、ふふ。ザリデ君はアンゼリカの係ね」


「えー?」


「誰がなんですってっ?」


アンゼリカも自販機の前に来ちゃったよ。


「船おっきくなったのに結局ポッキポキー売り切れてるじゃないですか! 絶望だわっ、チッ」


チョココーティングのスティッククッキーが好きらしいアンゼリカに、俺とミコはこそばゆい感じで笑っちまった。


_________



ネプトリス運用艦隊が寄港したと思われるレーマ半島南の東部連合小拠点の人工島、リトルダゴンベースへの事実確認が曖昧なままの西部連盟軍の攻撃が始まった。


相手は小拠点とはいえ、西部軍も急拵えの半端な物であったであった為、膠着するかと後方待機のガーラン艦長は思っていたが報復と内輪への偽旗攻撃への義憤となすり付けられた憤怒に燃える西部軍の士気は高かった。


対するリトルダゴンベースの防衛隊は、巻き込まれた形な上に内輪のビレッジ焼き討ちには異論や同一視を忌避する向きもあり、離脱者が相次ぎ、開戦から30分足らずで1次防衛線が破られ、上陸したケルピラIIIによる陸戦が始まりだした。


「艦長! 西部追撃隊からの参戦要請がもう酷過ぎますっ、この文面っ、訴えてもいいですか?! 自分、名指しでクサされてますっ」


顔出しで名を明かして対応した通信士の甘さにウンザリするガーラン。


「なりませんよ? 艦長。向こうはラザオム中将の指示に反してオリキットのギルド支部は無視してます。筋を通されました、S型艦隊のみっ、です」


念押しする副艦長のルーラ。


「わかってるっ。ハイルルや東部本隊に手を出せん腹癒せには付き合いきれん。ここも、直に脱出だか特殊兵器の緊急移送の体で出してくる。待つさ」


交戦は西部優勢で進んだが、もう一息で制空権制海権を詰められそうだという辺りで急に西部軍が忙ししなく光通信を始め、急激に戦闘が沈静化し、


「ダゴンの司令と話が付いた。事後、公式ログの調整に協力されたし」


と西部追撃隊の指揮官から光通信がバルタンIIIに入り、直後、ダゴンベースの中心部ドックの一角が炸裂し、中型飛行潜水艦リヴァイアIIと小型強襲艦マイラギIII2隻、小型偵察艦ベアドーIII1隻が飛び出し、南西へと向かいだした。


「対象は当軍の範疇ではない。が、必ず墜とされたし」


そう入電され、ガーラン艦長は奮起した。


「艦も稀だがっ、S型はリヴァイアIIに搭載と想定! 当船団は追跡を開始するっ!」


リュウグウクランの船団はリヴァイII船団を追い始めた。


_________



バルタンIII改のドックで、俺とアンゼリカはリーラIV改に乗り込んでいた。ハッチを開けているから、ジェム姐さんの怒号と、興奮したゼリとキャンデの婆さん達の奇声がよく聴こえる。


「あんた、じゃなくてっ、お前、大丈夫か? アンゼリカ」


「よく聞いてきますけど、デチューンされても私のフィジカルは君の3倍はありますからね」


スッと通じないんだよ。


「いや、ほら、イッポリトだっけ? 知り合いなんだろ?」


「歴代の私達は時々殺し合う間柄です。今の私達がこうなるのも1つのコミュニケーションですから」


「···わっかんね!」


「ふふん」


なんか俺が野暮、みたいになってるし。なんて思ってると、


「ザリデ、アンゼリカ。今回からミコはソロで動くから、あたしも余裕があれば姫のサポートに回る」


ビンからの動画通信。ビンは機動性特化のリーラIVバーニアン改に乗り換えていた。


「うッス」


「西部機にも慣れたので、私達だけで十分ですわ」


「ま、そう言いなさんな、って」


たぶん公になった分、S型機以外からのドサクサ暗殺アタックへの警戒が強まってんだろな···


肉眼でふと見ると、姫が集中してるのか、水戦パックを装備したバドリーラはわずかに発光現象を起こしていた。


_________


リヴァイアIIの艦長はユンケンだった。ブリッジには保護スーツを着たバウガーが来ていた。


「バウガー博士、念の為、イッポリトIIの最終調整がお済みでしたら脱出艇をラボの人員でお使い下さい。想定交戦地点まで間がありません。観測はベアドーIIIが行います」


「直接参戦していなくとも、ビレッジの件はイッポリトシリーズの汚点です。IIIの試験運用候補地からはミッドシーを外します」


「そうですか」


ラザオム中将はラボに借りを作ったつもりでいて、海戦でキャリアを積んだ将校でもあったが、余計なことを言わぬことにしたユンケン。


「イッポリトIIに最後の戦果を期待しています」


「可能な限りは」


バウガーはブリッジを去ると、ユンケンはため息をついた。


「···イッポリトIIに繋げ」


ドックのネプトリスに搭乗して控えていたイッポリトIIに通信を繋げさせるユンケン。


「博士は強化剤に手心を加えていただろう? ラザオム中将がはしゃいだ結果、お前のラボは微妙な立場になった。さらなる最大の成果が必要だ。数値だけでも最高値を出す必要がある。わかるな? イッポリトII」


「もう制限は解除してるよ。できればあの太っちょを一回小突いてみたかったけどね」


「不適切な発言だが、記録から消しておく。···役目を果たせ、イッポリトII」


「了解」


イッポリトIIが応え、通信を終え、しばらく目を閉じていると、ネプトリスに秘匿回線でバウガーから文字通信が入った。


「今日の海もきっと綺麗」


脱出艇で脳波感応器系職員と共に一足早く離脱していった。


イッポリトIIはしばらくその文字を見詰めていたが、通信データを消し、ネプトリスの深く光る発光現象の光の中に意識を沈めていった。

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