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33話 ヤウロゥバ・ミーティング

ヤウロゥバベースはめちゃ広大! 農地で改良種の牛、飼いまくりっ。そりゃ伸びるアイスも作るわ。


その一角の、オアシスベースがすっぽり入りそうな敷地の教練施設で、俺とアンゼリカはそれぞれリーラ・トレーナーIIIのバーニアユニット装備で鉄鋼機1級ライセンスの中空戦講習を受けていた。


アンゼリカは今さらだろうけど、西部系機への慣れと脳波感応器の無い機体への慣れも必要でしょ? てとこだ。


今本部で処遇について協議されてるだろうし、協力的だぞ? とアピールしとこうってのもあったりなかったり。本人は知らん顔してたけど···


「こんなのモーニング前の夢の中ですからっ!」


スプライトガス撒いてないから通信は繋がる。


先行のアンゼリカはシールドボットが球型に配置さらた演習フィールドの空で、攻撃してくるターゲットボット達相手に出力を抑えた熱弾と熱刃で応戦!


軽やかにヒット判定を取ってポイントを積んでゆくアンゼリカ。


「すご」


「ブルーレイク。ボットの調整が整った。カウント、いいか?」


近くを飛んでる教官用のエアグライダーから通信が入った。


俺を囲んでるボット達が準備OKらしい。


「お願いします!」


応えると同時に、コクピットの実体画面にカウントが表示されだした。


3、2、1っ!


0表示はなく、ターゲットボット達が起動するっ。ややこしいがスプライト撒いてなくても機器表示的には撒かれた状態の表示になる。


四方八方から弱熱弾&時折、弱熱刃を展開しての突進! 一応シールドも張ってくる。


「よっっ」


俺は機体を飛び退かせながら演習に挑みだした。


1発ずつ確実に加点しながら戦う感覚の中で、考えが纏ってきた。


···腹を括ったつもりだったけど、結構、未だにびっくりしてる。東部軍の船が堕ちるのはこれまでも見てきたんだが。


俺に関係あってもなくても、人は死ぬし、産まれてもいるんだろな。よせばいいのに戦いの中に人が集まってくるくらいだし。俺も。


その中で関わって、選べる範囲なら違ってくる。


奪う側に回っても。


一つの渦中に入り込んで、まだ選び尽くしてはいない。


なら、それなら、選べる選択肢をもっと増やす! 


「まず1級取れるくらいの俺に、なるぞっ、と」


俺は避けながらターゲットボットにシールドを張らせず、弱熱弾をヒットさせた。


_________



ガーラン艦長はヤウロゥバのギルド本部のオールドフォックス閥が管理するフロアのオールドフォックスの私室に来ていた。


骨董らしい実体書籍の詰められた本棚と、時代ごとの蟲の標本や鉄鋼機の設計書の写し等が飾られ、ドーム型のテラリウムで極東の植物が育てられていた。


火は点いていないが香炉があり、乳香系の残り香もした。


テラリウムの側の2人掛けのティーテーブルに帽子を取った正装の艦長が緊張した面持ちで座り、側にオンディーナが鉄面皮で立っている。


出入りの内側にはオールドフォックスの警護担当と並ぶ形でロニーが畏まり、外側ではハルバジャンがやはり警護担当と並んで畏まっていた。


茶はオールドフォックスが手ずから行っており、初老の秘書はテラリウムの側に亡霊のように黙って控えていた。


1基、キューブ型の軟体オートボットは時折電子音を鳴らしながら床をふらふらと転がっているが、機能的な運用はされている気配はなかった。


「···ミノスIIが墜とされたのは口実にされかねないね。情報部の調べでは間接的に計ったのは最初のS型、ランスロを乗せていた艦長だった者らしい。襲撃前に宇宙に逃げているから、太いヤツだよ。餅は食べれるかね?」


「モチ? あ、モツィーですか。頂きます。···本格的ですね。はい···なるべく無駄な追い撃ちや煽りはしないようにはしてきたのですが」


極東の古典的な調理法らしき餅菓子をどうにか飲み下し、ガーランは冷や汗をかきながら応えた。


「配慮は姫にどれだけ余裕があるか次第です。こちらのエアグライダー乗りは機会があればすぐ船を墜とそうと致しますし」


不意に口を開いたオンディーナに冷たく振り返られ、目を逸らして本棚の『絶滅有袋類史』の背表紙を凝視するロニー。


「目覚められた姫か···近場だけでも、膠着していたミッドシー紛争の活性化を東西共に狙いだしているよ。私は西寄りの人間だが、戦争屋の営業努力と退屈に耐え難い闘争主義者達には参っている」


「同意致します」


「姫とあの機体、預かって頂けませんか? 特に機体は意思があるようで気味が悪いです」


「オンディーナ! 少し黙ってくれないかっ?」


「···失礼しました」


オールドフォックスは苦笑して餅菓子を1つ平らげた。さらにもう1つ手を伸ばすと初老の秘書に咳払いされ、やめた。彼は血糖値がやや高かった。


「この後、東西と宇宙公社の外交部員、ミッドシー商会と砂海商会の歴々、エル教の外事係等との会合になるが、その前に君達の船のドッグをウチの人間で固めておこう。剣呑だが、特に東部とミッドシー商会のアーミー閥は短慮を起こしかねない」


「助かります、局長。では詰めましょう。オンディーナ、資料を」


「はい」


スティック端末でオンディーナに資料を表示させる艦長。オールドフォックスも初老の秘書に資料を表示させ、会合前の本格的な確認作業が始まった。


_________



数時間後、リュウグウクランが発掘した東部側が零号機と呼ぶS型機、及び正体不明のマリネリス工房所属のパイロットに関する会合が、ヤウロゥバ本部の一室で開かれた。


各秘書や秘書官達は壁側に並んで控え、護衛は出入り口の外に並んで控えた。

オンディーナとハルバジャンはそこに控え、出入り口までの廊下と繋がったやや露骨に殺気立つロビーにはロニーが控えていた。


と、そこへ、


「マジかよぉ?」


端末機能付きサングラスをズラして確認するロニー。


ピンクの保護スーツに明度を落としたメット姿のエルマーシュ姫が、ピンクイカボット3基とブルーナ、ミコ、ビンを連れてロビーに現れ、騒然とさせた。


ビンが進み出る。


「発掘機体のパイロットだ! 武器は持っていない。オールドフォックス氏の求めに応じ、会合での審問を受ける!! どいたどいたっ!」


ロビーの一同を割るように進む姫達。


「ドックから出られたのか?」


呆れるロニー。船のドックはオールドフォックス閥に固められ、さらにそれを他の閥が囲う有様であった。


舌を出すミコ。


「ジェムを囮にして前持って出てたんだよ」


ジェムは予備のピンクスーツを着て、オールドフォックスのシークレットサービスが見張るドック内のバドリーラコクピットに籠もり、オレンジイカボット相手にスティック端末の対戦ゲームを延々していた。


「おいっ、勝ち過ぎだぞっ? オイラを接待しろ!」


「ピポポ?」


ゼリとキャンデも素知らぬ顔でハッチが閉じたままのバドリーラの整備をしていた。


ロビーの先の出入り口までロニーを殿にして姫達が来ると、ロニーからインカムで聞いていたハルバジャンは、


「さぁどうぞ! 中で皆様お待ちですぞっ?」


威圧しようとした他の全ての護衛を力業で押しのけ、道を開いた。


「ありがとうございます」


中へは姫とブルーナだけが入った。


ザワつく会合内の外交担当者達。オンディーナはため息をつき、ガーランは観念し、オールドフォックスは笑ってしまっていた。


姫はメットを取り、ブルーナに渡した。


「照合してもらって構いません。メディカルデータも出しましょう。わたくしはエルマーシュ・モガリア・バド! 停滞スリープから目覚めました。私の駆る機体はバドリーラ! モガリアの王威の鉄鋼機です!!」


議場に一際大きなどよめきが起こった。

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