3話 初仕事 1
ドックで砂海紙幣と硬貨をジェムさんが差し出したトレイに乗せたら。すぐ手持ち光学測定機で鑑定された。
「んっ! よ〜し、確かにモノホンの8万ゼムっ。ドーナツの材料費代にしてやる!」
「8万ゼム分のドーナツ?」
普通の物価のオアシスベースの安食堂なら1食300ゼムで十分だ。
「この小っこい船に40人くらい乗ってるからなっ!」
そんな乗ってんだ。
「んじゃ、払うもん払ったらシャワー行ってこい。お前、気合い入ったサラミソーセージみたいな臭いしてんぞっ? リーラのコクピットで簡易鑑定済みだが、その後医務室で検疫もな!」
「あー···うッス」
かれこれ5日、原石採集しながら蟲除けの野営地を回って野外移動してからさ。
俺はエアギルド、贅沢だな。て思いながらシャワーに行くことにした。
「ええと、パイロット用シャワー室でいいんだよな? 俺、パイロットなのかな? 雑用専用シャワー室とかわかんねーし···」
俺はストラップ付きスティック端末の立体映像でジェムさんにデータ入れてもらった艦内図を頼りに、シャワー室前まで来た。
ドアの開閉ボタンを押してカシュッとドアをスライドさせた。と、
「お? 少年」
「えぇっ?」
首にタオルを掛けた上がったばかりらしい全裸のミコが洗面台の鏡の前にいた! 身体鍛えてて、右の尻に機体と同じ海亀のシンボルのタトゥーがあった。
「どぉわわっ??」
俺は慌てて開閉ボタンを連打した結果、ドアは開いたり閉じたりしだした。
「いやっ、違う違うっ!」
結局開いたしっっ。
「も、なにやってんの? 着るから1回締めてよ?」
俺は慎重にドアを締めた。沸騰した脳ミソをどうにか落ち着ける。
ドアはすぐに内から開けられ、ショートパンツにブラトップを着てサンダルを履き、ランドリーバッグを持ったミコが出てきた。
湯気の熱気と、ミントソープと女子の匂いだ。
「ごめんごめん、しばらくパイロット私だけだったから鍵掛けんの忘れてた。ザリデ少年もシャワーだよね? 使い方わかる?」
「おっ、俺は砂漠暮らしだが文明社会の一般人類だ!!」
「あはははっ!!」
爆笑されたっ。
「早く出ろよっ!」
「わかった、て。制服は棚にあるから」
「早く行けよっ!」
「わかったわかったよ。ふふ」
ミコは笑いながら廊下を歩いてった。たくっ。
「···あっぶね」
俺はちょっと前屈みでシャワー室と繋がった脱衣場兼洗面所に入って、厳重にドアをロックした。
_________
それから近場のオアシスベースに入港したリュウグウクランの改造グリルポークIIは簡単な検疫を含む手続きを経て、停泊許可を得た。
一部を除くブリッジとパイロット以外のクルーはここからしばらく様々な作業があったが、ザリデとミコは早々に自由行動となった。
「制服着ないの?」
ミコはやや着崩したリュウグウの制服を着ていたが、ザリデは着替えてサンドボード等は置き、簡単な格好にはなっていても採集業者の装束であった。
「いや、取った原石売るから。目立つし、あんたもなんか1枚羽織らないと絡まれるぞ?」
「あんたって。ミコ姐さんでいいよ」
「···ミコな」
「え〜」
ミコはザリデの忠告通り手近な店で地味なフード付き耐熱マントを購入した。
その後、ザリデは砂漠で採集した原石を買取業者に売却し、ミコの案内でエアギルドの支部で所属と預金と保険の手続きをし、ギルドの端末で少ない親族に保護指定の動画で「エアギルドに転職した」と簡素なメッセージを送った。
ザリデ・ブルーレイクの身辺整理はそれで済んでしまった。
「人のこと言えないけど淡白な暮らししてんね〜」
支部近くのカフェで、砂海スイカのハーブジュースを飲みながらミコは呆れた。
「定住してたワケでもないし、こんなもんだよ。つか、あんた」
「ミコ姐さん」
「ミコは元軍人って感じじゃない」
「そう! 私はサーカス団にも居たよ?」
「···っぽいな」
「あによ〜」
ザリデは氷も買って入れたポリカネードを飲みながら、流れで入ってしまったがリュウグウクランがエアギルドの中でも趣味的な集まりじゃないかと、少々疑っていた。
が、グリルポークIIに戻るとザリデはすぐにそれどころではなくなった。
まずはひたすら艦の一般雑用。掃除、衣類クリーニング作業室補助、キッチン補助。その他諸雑用···
合間に作業機ライセンスの2級の座学と実技訓練。
停泊4日目なり、一通り覚えた一般雑用から解放されると、2級ライセンスの特訓に専念を始めた。
他のリュウグウクルーは輪番で休暇を取りながら過ごしたが、基本的に停泊中は暇になるパイロットのミコはオアシス観光に飽きると機体整備とザリデの特訓に付き合った。
6日目、突貫ではあったが、ミコの期待通り操縦センスがよく、座学も3級から段階を踏んでいたザリデは無事、オアシスベースの搭乗型機体試験場で作業機2級ライセンス試験に合格した。
ドックでリュウグウクランのクルー達に祝われたザリデは具合が悪くなるくらいドーナツを食べさせられた···
そして、入港から7日目の朝、諸々の整備や物資積み込み等を終えたリュウグウクランのグリルポークIIは出航し、滑走路が足りない為、艦上部の重力環主体で高度を上げていった。
「さて、ゴマメ期間は終了だ。次の仕事からはキッチリ働いてもらうからな?」
「だぞ?」
「ドックも手伝えよ?」
ブリッジで、ガーラン艦長、ミコ、ドーナツを持ったジェムに続けて言われ、
「うッス···」
戦々恐々とするザリデだった。