28話 夢幻のカミラビ 2
グリルポークIIIからミコ達の機体が出撃し、ミノスIIからもリーラIVが5機が出た。
ゼァーノIIからは追加で出たバッズIV7機中5機がリーラIVへ、2機が艦護衛に、さらにライドグライダーに乗ったバッズIII2機がグリルポークIIIへ向かう。
バドリーラとカミラビは偏光熱線とハイレイライフルの撃ち合いを始めていた。カミラビの偏光熱線は2条だが出力と精度あった。
渡りの砂蟲は困惑して、自分達より強い蟲、の争いを遠巻きにしていたが、一度帯状に組まれた渡りの列の蟲はそう簡単に退散はしない。
S型機付きのバッズIV4機は露払いと、ザリデのリーラII改に向かった。
「やっばっ」
ザリデは射程よりやや遠くともコンテナのクラスター弾と電磁爆雷の半数を撃ち切った。
遠く、当たりはしないが、一手半くらいバッズIV4機は対応が遅れ、その隙にミコとビンのリーラIII改が突っ込んできた。
「イカ無しでも動けるかな、と!」
「どいたどいたっ」
倍の相手に踊るように打ち掛かる2機。
「任せたっ!」
ザリデはバドリーラの支援に戻った。
高高度での中遠距離の撃ち合いにラチが開かないとみたアンゼリカは背部の円盤状装備を展開させた。
カミラビは発光現象を起こし、力場を纏う。即、円盤を狙った偏光熱線と熱弾の軌道も曲げられた。
(骨董でもS型機に乗っているならあなたも普通じゃないはずっ。いい夢見なさいな!!)
(?!)
アンゼリカの思念の後、4枚の円盤装備は激しく発光し、猛烈な精神波をバドリーラに放った。
(テレパス攻撃?? 対策を···)
光の中、エルマーシュはより防寒具を着て護衛のエイボットを連れた幼い姿に変わり、雪景色に中、産まれて始めて見る温帯の冬の山々に感嘆していた。
そこにいるとわかって振り返る幼いエルマーシュ。
「姉様! ラルヨーシュ! 父様っ、母様! 雪ですっ、冷たいのです!!」
「エルマーシュったら」
「私なんて雪を見るの3回目だよっ?」
「あまり遠くに行ってはいけないよ」
「転ばないようにね」
ある冬、バドリーラの運用試験に飽きたエルマーシュのわがままから、家族はここに来ていた。
それはとても幸福な、最後の···
「姫っ!」
光る円盤に囲まれて浮遊したまま停止したバドリーラに、ハイレイライフルで狙撃しようとしたカミラビに電磁爆雷で壁を作りつつクラスター弾を全弾撃つザリデのリーラII改。
全て回避とハイレイシールドで防がれたが、円盤装備の出力は若干落ちた。
「君も敵だからっ!」
偏光熱線で電磁爆雷を避け、その出力で耐熱塗装を焼き切りリーラII改の手足とコンテナと頭部を切断するカミラビ。
「だぁっ?!」
一時機体制御を失うリーラII改だが脱出缶は使わないザリデ。
投薬量が増えアンゼリカは呼吸が乱れながら改めてトドメを差す構えを取ったが、出力と精度の低下と攻撃の学習によりバドリーラは復旧した。
力場で円盤装備を弾き念力で圧縮して爆破させた。
「チッ、なによ! もうっ」
「自分がされると嫌な物ですね、テレパスアタック!」
レイシールドで機体を囲ったバドリーラは加速しハイレイランスの最大展開でカミラビのハイレイシールドを粉砕し、多数の有線爆雷の追い撃ちで大きく損耗させるバドリーラ。
「きゃあああっっ?!!」
その様子に、ゼァーノIIのアンゼリカの管理チームは消沈していた。
「思ったより出力上がらないですね。やっぱ薬物耐性かぁ」
1人平然としている若手助手。
「光信号でサポーター残機に先んじて準備させろ。機体疑似脳とパイロットの奪取は避ける」
「へっ。ベイソン博士、容赦無いてすね」
皮肉を言って、助手はブリッジに連絡を取り出した。
「···」
しかし致死量の強化剤投与を無効化していたのはベイソンであった。
バドリーラはカミラビの最後の武装レイカーニバルス展開器を正確に偏光熱線で焼き切り、
「バカっ、嫌い!!」
アンゼリカが騒いでも、頭部を片手で掴み、零距離でテレパスアタックを放った。
「あ」
···都市を走るホバー車の車中にいた。実体バックミラーに少し成長した紫の髪と瞳の自分が映り、運転席に青年の姿のベイソンがいた。
「いつか最後の君と、蟲の落ち着いた土地を旅しよう」
「···そんな私に完成したいわ」
口が勝手に動いていた。
自爆シークエンスの警告音が鳴るカミラビのコクピットでアンゼリカは泣きながら眠っていた。
(おやすみ、アンゼリカ)
カミラビはバドリーラの力場に逆らわず、コクピットを開け、アンゼリカを排出させた。
バドリーラは自爆に備えカミラビをレイシールドで包んだ。
2機に減っていたサポーターのバッズIVの内、1機がミコとビンの機体に突進した隙に落下するアンゼリカを狙撃する構えを取ろうとした。が、
「そこ!」
押されながら機体の身を捩られせて撃ったミコのレイライフルが正確にアンゼリカを狙ったバッズIVを撃ち抜き、撃墜した。
カミラビがバドリーラのレイシールドの中で爆発する。高負荷に、残機1基になっていたイカボットがショートし、
「あとはよろしく、ザリデ君」
姫のバドリーラの出力が著しく落ちた。
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「いやっ、蟲が多いでしょ!」
俺は黄色イカボット2基の機体制御と蟲除けの電磁波を最大にしてコクピットハッチを開け、速攻グレネードガンで閃光弾を撃ったが周囲は払い切れない興奮した砂蟲だらけ!
メット越しの羽音と振動、でもって電磁波強過ぎて保護スーツとメットの表面に静電気起こりまくりで降下してるから上への突風もあって動き辛っ。
リーラII改は落下するアンゼリカとの同期を調整して近付ける。
静電気まみれの気絶したアンゼリカは頭が下になってるが頭や首は危ないな。俺は、どうにかっ、手を近付けると静電気すごいんだがっ! 彼女の両脇腹を掴んだ!
設定通り、安全帯を介して機体の重力環が俺とアンゼリカを範囲内に認定し、機体と俺とアンゼリカを無重力状態にして浮き上がらせた。
「あ〜、しんどっ」
安全帯のワイヤーを縮め、2人でコクピットに戻りハッチを閉めた。
相手の船団は撤退信号弾を撃ち、残存機体と共に下がりだした。たぶん交渉がややこしくなるんだろうけど、知らね。
復旧したバドリーラはハイレイライフルを構えて威嚇を続けてるが、他の味方機は下がりだした。
「取り敢えず帰るか、アンゼリカ」
俺はこっちも手強かったピンクの人を抱え、グリルポークIIIへと向った。