22話 原石採集と蟲
あれからS級機戦は今のところ無いけど、小競り合いは多少はあった。
それでももう少しで次の停泊地、エアギルドが所有する基地拠点グラングリフォンベースに着きそうだったんだが、俺達はちょっと寄り道して一仕事をしに来ていた。
ニョニョルールー球岩帯に!
「うっは〜、生身なら絶対来ないよっ」
採集ユニット装備でちょっと重くなったリーラ改で、俺は地表に降りていた。
ニョニョルールー球岩帯は丸い石が並ぶ礫砂漠の岩石地帯だ。
ミコとビンのリーラII改、ハルバジャンのゼゥムンIIバーニアン、さらに姫のバドリーラまで採集ユニットで降りてきてる。
「おっほー、ホントあったー。ザリデ君見立て凄いじゃん」
「本職だよねぇ」
「採取しがいがあるのである!」
ロニーのフェアリーテイルIVは上空のグリルポークIII、ミノスII、ブレーメンIIと地表の中間辺りを中型サーチドローン数機と哨戒してる。
スプライトガスを散布してないから成立するムーヴだ。
この手の場所は大体そうだけど蟲の巣窟になってて、希少な原石類の採取地でもある。
原石類の生成には色々パターンがあるが蟲由来の生成物がやっぱ一番多い。
俺達が狙ってるのは、脳波感応器やドローンやオートボットにも必須なオドタイト結晶群と、鋼材全般の加工に必須なミリスムタイト結晶群、それから火薬加工に必須のカグチタイト結晶群の原石。
脳波感応器としては旧式のバドリーラやイカボットはオドタイトの消耗が激しく、やたら連戦してるからミリスムタイトとカグチタイトもガンガン必要。
まぁ在庫でも足りてはいるんだけど、エアギルドの金欠と、リュウグウクランが現状その金欠のエアギルドに集って正規軍並みのマッチョな運用をしている具合だから、ちょっとは自力で稼ごうってワケだ。
交渉があんまり不利だと他の有力閥や西部連盟に取り込まれかねないなんて話も···
蟲対策に催眠ガスを散布して、それなりの切実さもあっての作業だった。
西部連盟色の強いミノスIIとブレーメンII組は不参加だったが···
「おっほー、ホントあったー。ザリデ君の位置見立て、凄いじゃーん」
「本職だよね」
「採取しがいがあるのである!」
「こういう普通の作業もよい物ですね。アームの動きが面白いです」
「早く済ませなぁ、蟲が起きちまうし、興奮しだすと催眠ガスも効かないぜぇ?」
通信が通るから結構みんな喋る。
「あくまで予防線作業だ。程々で構わんからな」
「急いで下さい」
「オドタイトをたっぷりですよほぉ? ミコさん!」
「この艦はケチ過ぎるんだよねぇっ」
「時間あるからチュンに今日はマラサダ作ってもらったぞ? お茶淹れてやるぞ?」
「ミノスIIからセリラーン島のお紅茶を頂きましたよ?」
「あたしもご相伴に預かるわぁ」
「え? 私もですか? 除染後のメディカルチェックがあるので···残しておいて下さい。マラサダ」
うん、ブリッジとかドックとも繋がってんな。ブルーナさん達が普通にドックから繋いでるのがジワるけどっ。
「お紅茶か、よ〜し」
背部ユニットのアームで眠る蟲達の側で、ガシガシ拾って削って割ってコンテナに入れてく。カグチタイトはすぐ発火するから要注意。
オドタイトも衝撃を与えると疑似的な思念波を出すこともあるから、
「おっと」
ハルバジャン機が、丸い岩石に採集アームの関節を軽くぶつけ、純度も質量もあるオドタイト原石をポロっと落とした。
ギィィーーーンッッッ!!!
ランスロの思念波程じゃないが、落ちたオドタイト原石から疑似思念波が周囲に放たれ、それがあちこちのオドタイトに連鎖して、グワングワンっ! と響き出した。
「よくないよコレ!」
「蟲達活性化してるぞぉっ!」
ミコとロニーが警告し、ロニーのフェアリーテイルIVはコンテナを解放して催眠ガス弾を連発したが、蟲達は一気に起き出した! 興奮してるっ。
「総員撤収!」
「姫様ぁ〜!!」
艦長の号令とブルーナさんの悲鳴が響く中、俺達は速攻でアームをしまい、コンテナを閉じて、バーニアを吹かして飛び上がったっ。
「もう寝ないから閃光弾!」
俺が叫び、全員でありったけの閃光弾を蟲達に放ったっ。
ドドドドドッッッ!!!
飛行種以外の蟲は間引けたが、飛んでくるのは追ってくる。
「怒り過ぎて電磁波もほとんど利いてないっ! 着艦の隙を作ろう!」
ミコが呼び掛け俺達は応戦に出たっ。全機採集ユニットで、バドリーラ以外は速度も挙動も重過ぎた!
背部ユニットが邪魔で偏光熱線の撃てないバドリーラはハイレイライフルを散弾モードに変形させて威嚇射撃っ、俺も散弾モードまではないレイライフルの出力を抑えたクィックショットモードで羽根を落としてく!
スナオオカナブンモドキ、スナオオクワガタモドキ、スナオオカブトモドキ、スナオオカゲロウモドキ!!
モドキだらけの飛行種砂蟲を次々落としてくっ。
ネイティーっ、お前みたいに全然蟲と上手くやってけないぜ!
「バドリーラが殿を務めます! ザリデ君っ、バックパックをキャッチしてくれますか?!」
「合点!」
「私のミスであるっ、フォローする! ふんっっ」
ミノスIIと今回は手伝うらしいブレーメンIIの艦砲と、ドローンとフェアリーテイルIVの一斉掃射で最低限度形を作り、グリルポークIIIのハッチが開いて俺達3機以外が着艦しだす。
合わせて俺のリーラ改とハルバジャンのゼゥムンIIバーニアンで、パージされたバドリーラの一際大きな採集仕様のバックパックを受け止める。重っ!
「棲み処を荒らしたのに、ごめんなさい!!」
出力を上げ、発光現象を起こし、背部の照射器から偏光熱線を4本放ち、迫る飛行種の蟲達を纏めて墜としてゆくバドリーラ!
蟲達は炎の雨のようになってニョニョルールー丸岩石帯に落ちていった···
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無事採集を終えた約4時間後、ザリデ達リュウグウクランの船団はザハキア大陸でも有数のエアギルドの基地拠点グラングリフォンベースへとたどり着いた。
そこにはエアギルド、オールドフォックス閥の陣営に加え、他の閥、宇宙公社の特派員、西部連盟の特使、エアギルドは中立組織である為に当然いる東部連合特使、その他様々な勢力が待ち構えていたが、その中には、
「発掘されたS級機とやら、モガリアの工学遺物であることは間違いないのだな?」
「勿論にございます。当然、殿下に所有権がございます!」
「当然だろう、砂漠の富は我らモガリアの王族のものぞ?」
砂海の有力者アスマイール・モガリア・ジュカがいた。
アスマイールはベースの豪奢な特別室で女達を侍らせ実務担当のハーバルに揉み手をさせながら、入港するグリルポークIIIの立体映像を眺め、高級食用蟲の頭の肉を齧るのだった。