20話 神槍のランスロ 2
ランスロはウルデェンの後部ハッチ下方から、長大な展開器のハイレイランスの高出力熱刃を出しつつ旋回し加速した。
バドリーラも加速しながら偏光熱線を放ったが当然のごとく回避され、エルマーシュ姫はハイレイライフルの連射に切り替えた。
これも躱し、背部から触手状のレイキャリバー展開器レイテンタクルを多数出すランスロ。
(格闘戦はどうだい?! 零号機!!)
(くっ)
胸部バルカンも見切り、艦船攻撃可能なハイレイランスの斬撃をハイレイシールドで弾かれると、交錯様に全方位からのレイテンタクルでバドリーラを乱打して追いすがるランスロ。
シールドのガード位置を定め難く苦戦するバドリーラ。
「うわぁああっっっ!!」
「姫っ!」
遅れて追い付いたリーラ改のザリデがレイライフルで牽制し、バドリーラが力場展開を使ってレイテンタクルを弾き、ランスロは引き剥がされた。無理な起動の負荷でピンクイカボットが1機ショートする。
ランスロはシールドから拡散熱弾を放ったが、リーラ改は器用にこれを回避、ガードした。
「危なっ」
「なんだぁ? 君ぃーっ!」
ランスロはハイレイランスとレイテンタクルを構えリーラ改に迫ろうとしたが、
「はしゃぎ過ぎだよ!」
「オラぁー!」
ミコとビンのリーラII改2機がランスロの牽制に入った。
グリルポークIIIからはハルバジャンが搭乗するゼゥムンII改を飛行戦機に改修したゼゥムンIIバーニアンも艦の護衛に出撃しており、ミノスIIからはリーラIIIが5機出撃し、内3機はウルデェンに向かっていた。
初手でバドリーラ等と共に出ていたエアグライダー・フェアリーテイルIVはランスロは無視してコンテナな電磁爆雷主体でウルデェンの牽制に専念していた。
ウルデェンもバッズIIIを8機出撃させ、3機は艦護衛、5機は向かってくるリーラIII隊の迎撃に向かわせた。
フリーになったグリルポークIIIはウルデェンへの艦砲威嚇の隙を伺う。
立て直しに手間取っているバドリーラにザリデのリーラ改が回線ワイヤーを繋いだ。
「姫、落ち着いて。S級はバドリーラじゃないとキツいっ、ロニーもヤバいしっ」
「はい!」
エルマーシュ姫はショートしたイカボットを停止させ、2機補助体制に移行させた。
「やれます!」
バドリーラはリーラII改2機を圧倒しているランスロに突進し、リーラ改も慌てて続いた。
このまま袋叩きが成立させるにはS級2機が速過ぎるのと、ロニー機が持ちそうにない為、ミコとビンはウルデェンに向かった。
バッズIII5機に不利とみたリーラIII3機は自艦のミノスIIに誘い込みを始める。
1発撃ったら3倍返される具合であったが、グリルポークIIIがおっかなびっくりに放った牽制掃射の隙を突き、リーラII改2機はウルデェンに接近した。
パックコンテナの武装を撃ち切り、被弾していたロニーのフェアリーテイルIVは後退してゆく。
ミコ達はウルデェンの近距離砲火と、バッズIII3機と対峙する形となった。
イカボット1機分処理が落ちたバドリーラであったが、特にオート起動割合の大きいレイテンタクルの動きを学習していた。
そして、ザリデがランスロの動きとバドリーラとの連携に慣れつつあった。
要所要所でバドリーラに隠れて威嚇射撃し、器用に回避もするリーラ改の動きにランスロのメイティーは苛立った。
「ううっ、ズルい、ズルいよっ、零号機! 君ばかり友達を連れてきてさぁ!!」
ランスロは広範囲に思念の波動を放ち、戦場の全機と両陣営の艦船乗員に一瞬負荷を与えたが、次の瞬間、
ドォオオオッッッ!!!
砂中から大砂蟲スナムカデリュウモドキが3体出現し、バドリーラに襲い掛かった。
「ボクにも友達がいるんだっ!!」
「蟲への干渉兵器は現代でも禁止でしょう?!」
姫は叫んだが、
「あんな機能搭載していないっ?! なんだ??」
ムラタも困惑していた。
大砂蟲は巨大に加え、火炎も吐き、ランスロと連携した為、バドリーラは追い込まれ、また力場を使わされ負荷でさらにイカボットを1機失なった。
が、規模が違うとはいえ蟲の扱いに経験値のあるザリデはロクにレイライフルも通らない灼熱の大砂蟲の只中に突進し、閃光弾を頭部の目に連射して怯ませた。
これに激昂したネイティーはレイテンタクル数本をリーラ改に撃ち出し、捌ききれなかった物がバーニアユニットと右腕を貫いた。
その時、
「「?!」」
脳波感応器を介し、ザリデとネイティーは互いに認識した。
(ネイティー?)
(ザリデ、君??)
「モガリアの負の遺産はぁっ!!!!」
機体を浅くハイレイシールドで包んで加速し、シールドを一点に展開し直してハイレイランスに叩き付け、真下から真上に突進してランスロを打ち上げでゆくバドリーラ。
蟲が届かない高度へと上がってゆく。
力場でランスロ背部のレイテンタクルは全て引き千切り、負荷で最後のイカボットがショートする。
ランスロのコクピットに警告音が鳴り、さらなる投薬が行われようとしたが、
(イツノ時代ノ君モ、優シカッタヨ)
光の思念の手が数本コクピット内に出現し、全ての投薬器を握り潰した。
「そうか、君も友達だったよね、ラン」
バドリーラはハイレイキャリバーでランスロを両断した。
爆発を背に、バドリーラは月光を受けた。
「···全て、破壊します」
荒い息の姫は呟き、大砂蟲達は悼むように鳴いて地中へと戻ってゆき、片腕とバーニアユニットを失ったリーラ改のザリデはバドリーラと燃え散るランスロの破片を見上げていた。
_________
敵艦はあっさり引き上げていった。ミノスの方は1機墜とされたみたいだけど、こっちは被害出てなかった。
ハルバジャンとミコ達はまだ艦の護衛で外にいて、別の機体でもう出る気がないロニーは端の方で小瓶のたぶん酒を呷り、姫は例によってブルーナさんにハグされてる。
メカニックは大忙しで、ゼリとキャンデは嬉々としてバドリーラをイジってた。
「どうした? ザリデ」
片腕のリーラ改の側で突っ立ってる俺にジェム姐さんが話し掛けてきた。
ヤバい、鼻の奥がツンとしてきた。親が蟲に喰われたり、無法者に撃たれたり、妹が金足りなくて治療できなくて死んだ時も泣かなかったのに、俺は、変な顔でギリ堪えた。
このダメージはっ、俺で留める!
「···いや、なんか腹減っちゃって」
「あ〜ん? しょうがないんだぞ、ドックでは食べるなよ?」
ジェムはポーチから植物ビニール包装に入ってるココナッツココアのドーナツを1つ俺にくれた。
「うッス」
「でも、オアシスが巻き込まれなくてよかったんだぞ? アイツ、ちゃんとハロージョブ行ったよな?」
「そりゃ、そう、でしょ?」
どうにか応えて、足早にドックから出ると包装を剥ぎドーナツを齧った。
「甘ぇ」
顎痛くなるくらい甘くて、俺は座り込んで泣いた。