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19話 神槍のランスロ 1

停泊2日目の深夜、俺達リュウグウクランの新しい船グリルポークIIIは小型護衛艦ミノスIIと小型偵察艦ブレーメンIIと共に出航した。


ブレーメンIIは後方で観測専門だ。どんだけ俺達がボコられてもギリギリまで観測してヤバくなったら情報だけ持ってスプライトガス圏外にとっとと逃げる役回り。


ギルドとしては運び屋として大陸本部を目指す。てことに変わりないけど、西部的には今回の件は謎機体のテストと東部の技術力を試す機会とみてる。東部的には微妙な感じだけど···艦長は、


「東の連中の気位は相当だ。必ずエスカレートする。当面は更新されるバドリーラのデータを西部と宇宙公社に送って牽制を成立させる。場合によってバドリーラは西部連盟に引き渡し、姫だけ本部に運ぶ」


とのこと。


ただ既に有利な航路やどちらかが一方的に大戦力を送らないようあちこちで小競り合いが起こりだしてるみたいで、俺達が真夜中に出航するハメになったのもエアギルド系であってもオアシスベース自治当局から追い出された形だった。


ま、就活してるヤツもいるここが、戦場になるのは俺も嫌だったけどさ。


船の方はゼリとキャンデを中心としたバドリーラ専属整備班に艦整備班、常駐のシークレットサービスのエージェントに交代要員も加わって、70人ちょいの大所帯になってた。


「領空出たらすぐドンパチらしいぞっ? あと危ねーからブルーナは今の内に姫にハグしとけっ!」


「私をなんだと思ってるんですかっ?」


「ふふふ」


慌ただしいドックで、華美な装飾がなくなり鉄鋼機らしくなった調整後のバドリーラの前に新調の専用のピンクの保護スーツを着た姫は3機のピンクイカボットとブルーナさんといた。


一言話したいけど、デリケートかな? と思ってると、


「機体のテレパス負荷は減ったらしいぜ?」


擦れ違い様にロニーに言われ、俺は腹を括った。向こうも気まずいだろうしな。


「ザリデ君」


「ああ、機体。あの婆さん達速攻直したっぽいッスね」


「今の基準からすると単純な機体だったのでしょう。あの」


ブルーナさんを振り返ってうなずかれ、姫は俺を見た。


「先日は八つ当たりを言って、ごめんなさい。相手を気遣って戦えるあなたがうらやましくて、自分が不甲斐なくて···」


「いやっ、結局俺が雑魚過ぎだったから許された状況だったからっ。その、姫、俺、少しはサポートするんで」


「はい」


互いに照れ笑いしちゃって、ブルーナさん泣いちゃってるしっ。と、


「いーなーっ! ザリデ少年は私のサポート要員だったのになー!」


ミコが絡んできた。が、


「はい、年増の嫉妬はみっともないよ」


ビンさんに連れてかれた。ビンさんにワーワー文句言うミコに俺達3人は笑っちまった。


_________



中型多目的戦艦ウルデェンは、アーナビリカと違い観測偵察任務専門の佐官の駆る新型の小型偵察艦ベアドーIVを引き連れ、オアシスベースの領空を出ようとするリュウグウクランの航路に迫っていた。


こちらのドックも当然騒がしい。


日暮れに情報部の前に唐突に戻ってきたという、普通の軍人なら懲罰物のネイティーを乗せたS級脳波感応器搭載鉄鋼機ランスロの最終調整も進んでいた。


「かつてない程、機体と調和しているな。散歩が憂さ晴らしになったか? ふふん」


ムラタはスプライトの影響を受け難い実体端末を前に上機嫌だったが、情報部の者が不躾に近付いてきて鼻白んだ。


「黙って近付くなっ、お前ら情報部は陰気過ぎる」


「···それはどうでもいいが、ランスロのパイロットがお付きのラボの管理者どもに活動報酬として自分のデチューンクローンを家畜の世話をする仕事に就かせろと言ってきたらしい」


「はぁ? 安い報酬だが···ま、私に関係無いな」


「メイティーIIIは一般社会を散策する等して、戦闘洗脳が緩んだ可能性がある。そもそも活動報酬は培養兵(ばいようへい)の安定材料に過ぎず、平時は記憶も曖昧になっているはずだっ。戦闘による自決を考えているのではないか?」


「冗談じゃない! このランスロは歴代最高のコンディションだっ。多少調整した程度の骨董品に負けてたまるかっ、ラボの連中に調整が必要なら脳活性薬なりなんなり使わせろっっ」


「連中とはまともに会話が成立しないからお前の所に来ている!」


「知るかーっ、そもそもお前達が、ホイホイ、ネイティーIIIを乗せてくからだろうがぁっっ」


「本気で潜入する培養兵を止められるワケないだろうっ?!」


ムラタと情報部員は怒鳴り合っていたが、当のメイティーは穏やかな心持ちでランスロのコクピットにいた。


「そう、ポリカネード。美味しかったよ? ボクの記憶をたどってみて。他の兄弟達に教えてあげて。いつか、そう。ボクには君達みたいな演算はできないけど、わかる。ボクらは星と和解できるはずだよ」


発光現象で淡く輝くコクピット内。


ランスロの疑似脳は3代目のメイティーの感受性と慈しむ心に対し、憐れみ、を感じ、その自分の哀しみを、思念で他の兄弟達に伝えた。


_________



月光の下、領空外へ出るとグリルポークIIIとウルデェンは遭遇した。


「ふん、概ね情報部の調べ通りか。こちらが本腰を入れるのを恐れ、グリルポークIIIにミノスIIとはなっ。西部の腰抜けども! 艦砲戦で墜としてやろうか?」


「え? 本営からは骨董機とランスロのデータを取れと。ランスロのパイロットは今回で廃棄するようですが」


イェン大佐と違い、上級党員氏族ではない副艦長は困惑した。勝手な作戦変更はあり得ない。


「なにが悲しくてわざわざ鉄鋼機戦の間合いに詰めなくてはならんのだ。アーナビリカのデータと残骸解析で十分だろう? そもそもS級機同士むやみぶつければ本気の開戦の口火になるやもしれん。いいか? 私は平和主義者なのだ。よって」


「グリルポークIIIハッチ開けますっ!」


「遠いだろ?! バカかっ?」


イェン大佐の苛立ちと無関係に、グリルポークIIIから改修バドリーラ、新投入のエアグライダー・フェアリーテイルIV、バーニアユニットのリーラ改が出撃してきた。


「アレが新型か」


バドリーラはおもむろににハイロングレイライフルを構えた。


「ロックオンです!」


「受けろっ」


咄嗟に艦のレイシールドの出力を上げさせるイェン。直後に高出力熱弾がウルデェンを襲い、ブリッジを正確に狙った一撃はレイシールドに弾かれた。


騒然となるブリッジ。


「っっっく! いいだろうっ。望み通り鉄鋼機戦で殴り合ってやる! ランスロ出せっ! ムラタの要求通り活性薬は最大だ。どうせ廃棄なら、使い潰せっ!」


「了解!」


後方ハッチの解放されるウルデェンのドックで、ランスロのコクピットでは外部操作によりネイティーに大量投薬が行われた。


「うっぐぐぐっっ!!! ···す、殺すっ! 殺すよっ? ランスロ! ボク達が最強だっ!!」


機外にまで発光現象を起こしだすランスロ。出撃の指示が下った。


「ふーっ、ふーっ、ネイティーIII! 神槍(しんそう)のぉおっ、ランスロ!! 出るっ!!!」


S級機ランスロは激しい光と共に出撃し、ネイティーはコクピットの中で笑った。

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