14話 斥候 2
停泊3日目の朝、即席だが過積載対策をした俺達を乗せたグリルポークIIはオアシスベースを出張した。
本格的な軍絡みの戦闘は無理だと、ここで降りることになった3割くらいの船員が港の小型艦用ドックの屋根に登って手を振っていた。
この間、捕虜にして記憶をイジられたゼゥムンII改のパイロットは「故郷でパン屋をする」と言い出したから戸籍を調整した上でエアギルドのエージェントが移送することになったらしい。
いいか悪いかはちょっとわかんないな···
「ミコ! 短いバカンスだったなっ、まぁお前はすぐやらかすと思ってたよっ! あはははっ」
「···」
ブリッジで見たこと無い顔で眉をしかめてるミコの隣で、背が高く胸も大きいクラン仕様ではなくエアギルドの正規の制服を着た女が腰に手を当てて笑ってる。
ギルドから派遣された追加パイロットのビン・ルピー・ファムだ。俺がリーラ改の2号機に乗る日は遠そうだぜ···
「全速前進! 囲まれたらそこで詰む航路だっ!」
「ヤバっ。つか大体ヤバいな···」
ブルーナさんの隣のやたら編んだ髪型にされた姫を見てみると、感情の知れない表情だった。
立場もそれに紐付いた目的もあるって面倒なんだろな、て思っちゃうね。
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東部連合の強襲小型艦マイラギIIのブリッジで、艦長を兼ねるナハ少佐は興奮していた。
「上の詳細な意図は不明だがっ、これよりエアギルドの輸送艦を強襲ぅっ! するっ。西部連盟の新型機の移送を請け負ったとの報あり!! いいか? 相手は蟲やゴロツキではないぞっ? 半年ぶりのまとな実戦だ!! 見事完遂したあかつきにはっ、我が艦秘蔵の天然霜降りミートを振る舞う、キャラオケフェスを開催するっ!! やるぞぉーーっっ?!!」
「「「うぉおおーーーっっっ!!!」」」
熱狂するマイラギIIのブリッジクルー。
ザハキア大陸地域では60年以上、東西勢力は膠着状態のまま停滞した状態が続いており、しかし半永久的に終戦はしないこの世界で、軍人達の多くは退屈を持て余していた。
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警報の鳴り響くドックで、パイロット用保護スーツのザリデはバーニアユニットとコンテナを背負った重装甲化仕様の作業機に乗り込んでいた。
筒型補助制御器2基にそれぞれ黄色の作業機用イカボットが取り付けられている。
ジェムと動画通信が繋がった。
「イカボット2機とお前の2級の腕前で1級ちょい、くらいの動きができるけど、装甲は重くて嵩張るんだぞ? 慣性と格闘専無理なの忘れるな? とにかく姫のオカルト機のフォロー専念だぞ?」
「結局、姫1人ッスか?」
「難しいんだよあの機体! 艦長は演習させたいみたいだしっ、元々大昔のテストパイロットだろ?」
「いや俺に聞かれてもっ」
「とにかく上手いことアレしろっ、ドック狭くなったから気を付けろよ?!」
通信は切れた。
「なんだかなっ」
バドリーラにはピンクの専用イカボット3機を補助としたエルマーシュ姫が単独で乗って出撃を待っていた。
「父上、母上···、御子の務めを果たしてみせます!」
砂漠の上空でなんの警告も無く、スプライトガスを散布する東部連合のマイラギIIに唐突に襲われたリュウグウクランのグリルポークIIは互いに背面や弾幕の薄くなる底面を取られのを嫌いながら、艦砲戦を繰り返していた。
が、改修艦とはいえ輸送艦に過ぎないグリルポークIIが先に音を上げて、電磁爆雷で壁を作ってから、ロニーの重火装エアグライダーとミコとビンのリーラ改1号機2号機をまず出撃させた。
ガス散布下であっても軍艦相手に半端な距離で戦闘機を出すと光学認識でそれなりの精度の火砲を浴びるハメになるが、ミコは青、ビンは黒、ロニーは赤のイカボットのフォローと、リーラ改2機は曲乗り、エアグライダーはかなりわり切った大回りで射線を外ししのいで接近した。
「この距離で1機も墜とせんとは間抜けかー?!」
ナハ少佐は激昂し、有する2代前の東部連合の汎用鉄鋼機バッズII5機を全て出撃させた。
2機は艦を護衛させ、3機はミコ達を抜いてグリルポークIIに向かわせた。
「ハルバジャン、ゼゥムンII改、出るぞ!」
「エルマーシュ」
「姫、御無事でぇ〜っ!」
「あ、はいっ。···バドリーラ、出ます!」
「ザリデ、作業機ミケタマ改、出まーす!」
ザリデ達も出撃し、ゼゥムンII改はグリルポークIIの重力環の上に乗って迎撃の構えを取り、作業機のザリデはバドリーラの側に付いた。
艦に向ったバッズIIはミコ達のような無理はせず、セオリー通り1機がグリルポークIIの火砲の陽動に専念し、残り2機がジワりと詰め始めた。
ゼゥムンII改は陽動の1機の狙撃を狙いだし、バドリーラと作業機のザリデは詰めてくる2機に対応した。
バッズIIは7頭身規格の初見のバドリーラに困惑した様子で、無難にレイライフルの威嚇射撃で様子を見てきた。
「姫、どうすんだ?」
今日までシュミレーターには熱心に乗りスコアも良いのは知っていたが、ザリデは実際連携はしたことはなかった。
また念力? でパイロットを引き出すつもりか? アレの有効距離は近いんしゃないか? と、意外と超能力ではなく普通に回避しているバドリーラを、作業機に関心が薄く申し訳程度に撃ってくる相手の熱弾を避けつつ出方を見ているザリデ。
「···もう、見逃せる、状況ではないのです」
バドリーラは出力を上げ、発光現象を起こし、相手の熱弾を曲げて逸らし、背面から4発放った高出力の偏光熱線でバッズII2機を焼き切って起爆させ、艦砲戦の距離のマイラギIIにハイレイライフルを構えた。
「おいっ? なんだ? 大気中で偏光熱線を使ったのか??」
動揺するナハ少佐。
「ロックオンされました!」
「は?」
次の瞬間、ハイレイライフルから放たれた高出力熱弾は正確にマイラギIIの正面のレイシールドを掠って放射状に艦後部左辺を吹き飛ばし、艦を誘爆させた。
驚愕して隙を見せた残存のバッズIIは、ゼゥムンII改の狙撃と、エアグライダーの一斉掃射、ビン機のレイライフルにミコ機のレイキャリバーで撃墜された。
「いや、火力も中型艦並みかよっ!」
多目的作業機ミケタマ改で、姫の感情の高ぶりに呼応して発光現象の収まらないバドリーラを見上げて呆れるザリデだった。