12話 オアシスの休日 2
昼には目当てのオアシスに着いた。
しっかり寝れた俺は特になにも言い付けられてなかったから、支給のツナギを着て今は人手の要りそうなドックに向った。
除染が済んだから出入りが簡単になってる。
回収して除染したバドリーラにはシートが掛けてワイヤーも張られていた。
コクピットはあったけど勝手に動くヤツだから気休めだけど、なんかの拍子にオアシスベースの部外者に見られない為の処置だと思う。
いや、それにしても、
「ん? イカ少ない??」
百数十機! 回収されたメンテ用イカ型オートボットは寝る前にドックで見た時はあちこち溢れるように飛び交ってカオスだったんだが、今はざっと見た感じ十数機程度に減ってた。
「ジェム姐、イカ少なくないッスか?」
「あーん?」
機嫌悪い時によく持ってるデカい工具を肩に置いてジェム姐は振り返った。ヤバっ。
目の下のクマが凄いっっ。こりゃロクに寝れてないな···
「多過ぎて管理できないし、船がオアシスに降りたら盗難リスクもある。色々オミットするついでに大半はスペア用にスリープさせたんだぞ」
「へぇ〜」
「それよりザリデ、ドックは今日の作業は一段落着いから輪番で休むっ。アレだ···ミコに聞け。オイラももう寝る!」
「うッス」
バドリーラや鹵獲したゼゥムンII改もあるし、停泊したとこで忙しいはずなのに休むって相当だな。
俺はスティック端末でミコに連絡してみたりしつつ、ドックを出ようとしたが、ふと振り返ってみた。
光学スキャン対策に反射剤のスプレーするのにちょうどシートの掛かり具合が悪いから、イカボットを使った頭部のシートの掛け直しが行われていてバドリーラの顔が露わになっていた。
さすがに7頭身規格だ。
「イケメンだな」
そんなこと呟いて俺はドックを出た。
で、約30分後。
「おーっ、やっぱ似合うじゃん! その格好!!」
野外採集業者っぽい格好をしたミコが、元通りの採集業者の格好をした俺を見てはしゃいでる。
「···ま、いいけど」
「本職ですね、ザリデ君。ふふ」
「姫様もお似合いですよっ」
エルマーシュ姫とブルーナさんも採集業者っぽい格好をしていた。姫は見習い設定だ。
俺達は停泊した船から降りて、日暮れまでこのオアシスベースで観光することになっていた。
物騒な気もするが、サーレッハ達の壊滅はまだ確認されず、ギルドが連中の資産奪取を実行せず、艦長が具体的にギルドの後援者に交渉を始める猶予期間はそこがギリギリらしい。
「あの方は戦火の最中の意識でいらっしゃる。少なくともあのS級脳波機体のパイロットが見付かるまでは機体から離れることはないだろう。ただの少女として羽根を伸ばせる機会はこれが最後かもしれない···見守ってやってくれ、ザリデ」
俺は艦長に頼まれていた。
まぁ船で手の空いた子供なんて俺だけ、ってことなんだろうけどさ。
「姫、じゃなかった。えーと」
「マーシュで結構です。敬語も大丈夫です」
「恐れ多くも! ですよ?」
「じゃ、マーシュ。取り敢えず市場に行こう。ミコもちゃんと警護してくれよ?」
「ミコさんに、任せなさいっ」
こんな遠いオアシスベースに来るのは初めてだが、どこもオアシスベースはそこまで構造は変わらない。
まずは食品市場。ここは比較的山地やステップ帯に近いから充実してた。
「わぁっ! 凄い。わたくし、自分で市に来たのは初めてです! ブルーナっ、食べられる蟲が売っていますよ?」
「マーシュ様! いけませんっ。それははしたない原料になる物ですからっっ」
続いて雑貨市。ここでも姫とブルーナさんは大はしゃぎだった。俺は一歩引いて、いつでもハンドガンなりナイフなり、まだ持ってるジェム姐に軽量化してもらったグレネードガンを抜ける体勢だ。
「ザリデ少年、顔、怖いよ? ほら、双子」
ミコはイカの土産物と、マントの下からこっそりチラ見せした青いイカボットを並べて見せてきた。
連れてきたんだ···
そらから茶店で姫にカラメル入りの炭酸飲料ラコーカを飲ませて困惑させたり、大きめの調度品の市に行ってモガリア風の品の製造技法がまだ残っていることを姫が喜んだりした。
「さて、これ食べ終わったら。サンドボードのパークに行かないか? 俺、得意だしっ」
労働者向けの食堂でブルーナの目に適った所で、米、豆、短い麺を混ぜてソースを掛けたコウシャーリを食べていたが、提案してみた。
なんか、こう、スカっとしてほしいなって。
「こうですか!」
年季の入った、屋内サンドパークで初心者向けのプロテクターやメットで固めているのにスポーツ用ボードで華麗にターンを決める姫!
「やるな~」
「ミコさんの方が上手いよ?!」
錐揉み回転ターンしてみせるミコ。姫は拍手したけど、
「大人気ない···ま、俺もいいとこ見せとこ!」
ミカ程じゃないが仕事で鍛えた実用的! 無駄の無いターンを決める。
「ザリデ君も凄いですっ」
「ちょっと〜、皆さん! 降りられませんっっ」
人工の砂丘の上で、屁っ放り腰のプロテクターで固めたブルーナさんが座り込んでいた。
「ブルーナさんはサンドバギー体験の方がよかったかな?」
悪いことしたな、と思いつつ、3人で笑ってレスキューに向った。
「はぁ〜···こんなにしっかり遊んだのは本当に幼かった頃以来かもしれません」
「そっか」
俺達はリフトで来れるオアシスの展望台に来ていた。人気はまばら。艦船の港も一部が見える。日が傾いていた。
ブルーナさんは飲み物を買いに行ってくれてる。ミコは肩にイカボットを乗せ、手摺にもたれて風に髪をなびかせていた。
戦闘では停戦信号弾を撃っても止まらない相手には容赦はなかった。
「···S級機が特別なのはよくわかったけどさ、回収はしたしもう姫はいいんじゃないか? ギルドのシークレットサービスとかと別動で離れた方がいい」
「その方が正しいと、思います。しかし、バドリーラが起動した時、感じました。姉妹機と、その派生機は合わせて7機あります。この7機だけはっ、必ず葬らねばなりません」
姫は譲らなかった。
メットのカメラで撮ってた文字をスティック端末で解読してた。互いに言葉を見失った、か···
「姫ー! あっ、マーシュ様〜!! これは良いお紅茶ですよー!!」
ブルーナさんが紅茶の容器を4つ持ってこちらに駆けてきていた。