11話 オアシスの休日 1
ザハキア大陸南端、東部連合の広大な占領地域、モート戦勝域の基地近くの海上上空で、朝焼けを受けた中型軍艦ウルデェン改からうっすらと発光現象がみられ、その艦内では警報が鳴り混乱が起きていた。
ドックに格納されていた、試作型S級脳波感応器搭載の7頭身規格鉄鋼機ランスロが発光現象と力場展開を起こし、他の様々な機体、機器、人員、工具等を浮かせ、艦自体を軋ませ、騒然となっていた。
「ランスロ! 大丈夫っ、ボクがいるからっ!」
ドックに飛び込んできた見た目は二十代後半だが少年のような口振りの東部連合の軍服の男が他の軍人や技術者達に止められていた。
「おいっ、パイロットを入れるな! 共振するっ、遮断室に隔離しろ!!」
「ネイティーっ、落ち着け! くそっ、なんて力だ! 筋力まで強靭化する必要ないだろっ、鎮静剤まだか?!」
「各地の他のS級体6機も異常活性しているようです!」
「なにぃっ?!!」
ネイティーと呼ばれた男1人に8人掛かりで揉み合いになっていたが、ランスロの力場内に踏み入る前に鎮静剤が射たれ、ネイティーは昏倒し、それに呼応して、ランスロも沈黙した。
「これは本営が騒ぐぞ? クソっ、私の代で面倒なっ」
汗だくで、興奮したネイティーの剛力で右肩が外れかけたランスロ付きの技術主任の女ムラタは吐き捨てるように唸った。
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1度艦に戻って重火装ユニットを装備したエアグライダーで、ロニーは未だグリルポークIIから広域スプライト散布が行われている、朝焼けがだいぶ高くなったヤァデ渓谷を低空飛行していた。
機内でロニーは旧世紀に軍用機乗り達の間で流行ったというカントリー・ゾォズというジャンルの音楽を掛けていた。
アナログ楽器演奏だがクラシカテオミュージック程は高尚ではなく、軽快でしかし乾いたような響きの古典ミュージックであった。
「お、あったあった」
ロニーは地表に岩場にあった2基目の中継ドローンを機銃掃射で破壊した。
「陸戦機3機であそこまで行けて、トレーラー置ける砂漠の入り口となるとよ。1基目さえ見つけりゃあとは流れ作業よ。へへ」
想定される最も砂漠に近い3基目は避け、やや大回りで、地形図で見られる大きな岩場の陰に入る為にロニーはさらに高度を下げ、危険な地表近くの飛行を始めた。
ちょうどカントリー・ゾォズは転調となった。
一方、ヤァデ渓谷に面した砂漠の端の一角で、大型トレーラータンクのブリッジにいたサーレッハは苛立って干しナツメを齧っていた。
「遅いっ! スプライト散布から随分経ったぞっ?! 失敗したんじゃないだろうな? こんな毒地帯に鉄鋼機を3機も投入したっ。ありえんぞ?!」
「···あの、社長。撤収してエアギルドと揉めてる東部連合の閥にでも情報を売った方が」
「馬鹿野郎っ! 芋引いてんじゃねーっ!!」
ナツメを忠告してきた部下に投げ付けるサーレッハ。
と、突然、トレーラータンクのレーダーに反応があった。
ヤァデ渓谷の巨石の岩陰から超低空飛行でロニーのエアグライダーが砂漠に切り込んできた。
「エアグライダー! 武装してスプライト撒いてますっ」
「ああ?! カチコミかっ!!」
トレーラータンクは全門を開いて迎撃に掛かった。
「オイ〜、欲かいた上に、引き際よっ!!」
加速旋回して、射線を外し、重火装ユニットを解放して全弾ほぼ直射で撃ち込むロニー。
ロニーにミコのような超絶技巧は無く、ガス影響化ではミサイル兵器は直射でも信用度は落ちるが、ロニーは上手く当たらないなら当たるだけ撃てばいい、と割り切りができるタイプであった。
サーレッハのトレーラータンクに2割は直撃した。
推進剤から動力系まで引火し、サーレッハ商会の虎の子の大型トレーラータンクは派手に誘爆した。
「安心しろよ〜、今日中にお前んとこの口座はギルドの回収班が頂くからよ。無駄にならないぜ〜?」
カントリー・ゾォズを鳴らし、ロニーはグリルポークIIへと折り返し始めた。
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いきなり襲ってきたサーレッハ商会機を撃退したあと、姫はバドリーラを使ってパイロットの数年分の記憶を消してまた眠らせ、バドリーラの格納庫だった岩穴の焼却処分と大量のイカ型オートボットの回収を見届け、バドリーラを艦に格納させ、いくらか艦長と方針確認をすると、そのまま気絶しちまった。
ロニーが後始末から戻って来ると、俺達は除染作業とバドリーラやイカ型オートボットの確認作業に追われながら、大急ぎで念の為に隣の地域のオアシスベースを目指した。
このまま山地を抜けて海に出ると東西の軍の施設が多くて面倒らしい···
「あ〜、やっと仮眠かぁ。結構ブラックだぞ? リュウグウクランっ」
俺はちゃんと時間を確認して入ったパイロット用シャワー室から出て、自分の船室に戻ろうと思ったけど疲れ過ぎたのと、俺の船室、シャワー室から遠いから、途中のパイロット用待機室で確かあった簡易自販機でポリカネードを買おうと入ってみた。
と、結構前に、先にシャワーを出たはずの私服のミコが待機室のテーブルに突っ伏していた。
目の前にビール缶。頭には青い塗装の件のイカ型オートボットを乗せてる。イカはモソモソしてるっ。
「ミコ、脳ミソ喰われてるよ?」
「ジッとしないんだよね、この子達」
「へぇ」
ポリカネード購入。
「1機サポート用にもらった。ヤバい機能とかはジェムにオミットしてもらったけど。これ買ったら高いよ? 今でも通用する」
ポリカネードを飲む。最高!
「ワケわかんないね」
「ね〜」
変な間になった。離れた席に座ってみる。
「···ミコ、昔軍隊にいた?」
「サーカスのあとね。宇宙にも半年いた」
「いいな。今時珍しいよ」
「観光か、普通の仕事ならね」
また、間。
「少年。誘っといて難だけど、次のオアシスで降りた方がいいかも? もっと普通に仕事できると思ったんだけど、ごめん」
俺は金に困った時や採集業で脱水症で死にかけた時に飲んだ時よりじっくり、過剰にポリカネードを味わって、きっぱり言った。
「降りない」
「ザリデ少年さ」
俺は席から立った。ミコもイカボットを乗せたまま顔を上げる。
「尻、見た分は仕事する」
「ちょいっ、少年さぁ〜!」
俺はポリカネードの空き容器をゴミ箱に投げ捨て、待機室をあとにした。
鏡もあったし、振り返ったし、尻以外も一通り見てんだよ。ふん!