1話 光る砂漠と空 1
耐熱ブーツで砂を踏み締める。
次のオアシスベースまであと少しだ。平地で直線ならどうってことない距離。でもここは砂漠の深い砂の砂丘地帯。砂蟲もそれなりに出る。
サンドボード無しだとそこそこ死ねる距離。
そのサンドボードも俺のフード付き耐熱マントの背中に背負ってる。
充電切れ。
裏面のサンパネルで充電してるけど、損傷があって効率悪い感じ。
砂丘で大人しく充電を待つ方が賢かったかもしれない。それでもノロノロ砂に足を取られながら歩いてる。
待ってて蟲に食われるより、進んでて食われた方がマシだから。
「あー、オアシスベースに付いたら、ポリカネードがぶ飲みして、水風呂入るぞっ。贅沢する。散財だっ。俺はこんなところで干乾び」
ドォオッッ!!
だいぶキててうわ言を言ってたら周囲の砂が4箇所取り囲むように噴出した。
子牛サイズのトカゲと甲虫の中間みたいなのが4匹現れた! スナオオトカゲモドキだっ。
「最悪っっ」
まだ充電溜まってないが、畳んて背負ってたサンドボードを展開して足元に浮かべて乗るっ。両足を固定!
蟲達が飛び掛かってきたところを腕輪型のボードの端末を操作して発進っ!
しゃがんでギリ回避して抜けた!
「俺、美味くないぜっ?」
でも追ってくる4体の蟲達! 最速で砂丘を越え、ジャンプするけど、振り切れない!!
サンドボードのエネルギーはあと13パーセントっっ。
「ヤバいっ、う〜っっ」
オアシスベースには遠いし、正規の蟲避けの杭付きのルートからも離れてる。
それでも近付いてはいる。俺は2連装のグレネードハンドガンに救難照明弾を入れて空に射ってみた。
カシュッ。光で後ろの上空で発光したのはわかった。
あとは閃光弾と炸裂弾が数発···イケるか??
ボードを操りながらグレネードガンを手に冷や汗をかいていると、
「ガ···ガガガ···ガガ」
インカムに音声が入りだした。俺は慌ててオート調整のスィッチを入れるっ。
「あーこちらリュウグウクラン、リュウグウクラン、リュウグウクランのミコさんだよ〜。あー、どうぞー。どうぞぉ。お〜い。通信機入れてないの〜??」
俺は速攻、こちらからも通信を入れた。
「8万ゼム払う! 救援求むっ」
「安っ。···ま、いっか。真っ直ぐ逃げといて。行くから!」
通話は切れた。助かった、のかな?
_________
砂漠の上空を1機の西部連盟の小型輸送艦『グリルポークII』を随分改造した船が飛行しており、その後部ハッチが開き6等身規格の西部連盟の人型鉄鋼機『汎用リーラ』をやはり改造した機体が姿を現した。
シンボルマークはとっくに絶滅した『海亀』。
パイロットは10代後半の東洋人の娘だった。
コクピット内にブリッジから通信が入る。
「ミコ、相手は蟲だ。いちいちスプライトを撒くなよ? 精度が落ちる。人命救援だっ、人命!」
「8万ゼム、ポッキリのねっ。ミコ・ヒダ、オンボロリーラで出るよ〜」
「オンボロだとぉーっ? おま」
メカニックの方からクレームが入りだしたがその通信は切り、ミコは後部ハッチから改造汎用リーラを出撃させた。
背部の重力環で滑空を補助しつつ、バックパックのバーニアを軽めに噴かして高度を下げる。
「いたいた。上手いねサンドボード。砂漠の住人か···」
蟲4体に追われるサンドボードを操る少年を確認するミコ。拡大すると、ヘルメットとゴーグルを付けてはいるが、褐色の肌に青い瞳のいかにもやんちゃな様子に見えた。
ミコは笑ってまた通信を繋いだ。
「一時的でいいから、距離取ってー。鉄鋼機の機銃は掠っただけで蒸発しちゃうよ?」
「おーっ? 鉄鋼機?! そんなデカいので来なくていいのにっ」
ミコ機に気付いて仰天しつつ、少年は姿勢を低くして、サンドボードを加速させ、蛇行も利かして蟲達を引き離した。
「上手いね。身体性と空間感覚がある。ま、それはそれとして」
ミコは汎用リーラに装備させた。サブマシンガンで無難に4体の蟲を粉々にして、弾の熱と摩擦で肉を焼いた。
「グロっ。蟲狩りは苦手だわ〜」
「おーいっ!」
砂丘の1つで止まった少年がボードに乗ったまま手を振ってきていた。
「こちらミコ。蟲は片したよ。周囲に他の敵性反応無し。9万ゼムの民間人を保護するから」
「ミコ、8万ゼムだ。サラッと値上げするんじゃない」
「およよ?」
ブリッジから注意されつつ、ミコは機体を少年の近くに重力環主体でなるべく静かに降下させていった。