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「・・そういえば、以前ミネルバ王女殿下がおっしゃっていたシーザスという男のことですが・・」


「シーザス?・・・ああ・・・お兄様が連れてきた男の?それがどうかしましたか?」


「ジゼル殿下とどのようなお話をされていたんでしょう?少し気になりまして・・・」


「ええと・・・確か・・・・お兄様が“父上もきっと喜ぶだろう”とか、“ルカルド王国が帝国になったら素晴らしい”とか、そんなことを話していたような・・・その男自身は、ほとんどしゃべっていなかったわね」


「サイラス国王も、その男に会っていたのですか?」


「ええ、会っていたわね。三人が部屋に入っていったのは見てたけど・・・。父もそのあとは何も言ってなかったわ・・・それ以降、あの男には会ってないわ・・・・あ、いえ、待って・・・最近も見かけたことはあるわね。私の侍女のオルガと廊下で話していたことがあったわ」


「・・最近ですか?」


「ええ、ザカライア様が前回登城した翌日だったかしら・・・」


「何の話をしていたのでしょうね・・・」


「さあ、話の内容までは聞こえなかったけど。オルガが可愛いから声をかけたのではないかしら?」


(やはり、城の中まで入り込んでいるな・・・。綿密に動いているというよりは、何か変化が起きていないか、様子を見に来ている可能性が高い・・・)


「なるほど・・・そうかもしれませんね・・・」


適当に返したザカライアの返答に、ミネルバはむっとした。


「ザカライア様は、私の侍女を可愛いと思ったのですか!?・・・」


「いいえ、なぜです?」


「だって!オルガが可愛いって話したら、そうかもしれませんねって・・・・」


「ああ、それは一般的な話です。私は特に何とも思いません(オクタヴィア以外は)」


ふと、オクタヴィアの顔が脳裏に浮かぶ。

やはり自分にとって、気になるのは彼女ただ一人なのだ。ザカライアは、改めてその思いを胸の内で確かめていた。


「そうですか? それならいいんですが・・・」


ミネルバは少し機嫌を直したようだったが、ザカライアにとってはどうでもいいことだった。


「ああ、それと、葬儀当日の予定について確認したいのですが、ミネルバ王女殿下は何かお聞きになっていますか?」


「予定・・・何を着るかとか、何時にどこに行くかとか・・・そういうこと?」


「はい。こちらにはまだ詳細が届いていないので、もしご存じであれば教えていただけると助かります」


「ああ、それなら・・・ねぇ、予定表があったでしょう?あれ持ってきて」


ミネルバは後ろに控える執事に振り返って命じた。


「ミネルバ王女様・・・あれは・・・・」


「いいから!私の部屋にあるでしょ!取りに行ってきてよ」


本来なら王族が閲覧する予定表は、他者に見せるようなものではない。

だが、ミネルバはザカライアが喜ぶならと、ためらいなく執事に命じた。


渋々部屋を出ていった執事は、男女二人きりにしておくのはまずいと考えたのか、オルガを部屋に入れていった。


オルガはザカライアと目が合うと、にっこりと微笑む。


(なんて、いい男なの。ミネルバが夢中になるのもわかるわ。金も地位もあって、何より顔がいい・・・。今はオクタヴィアの側にいるみたいだけど、あの女が死んだら・・・その時は、私が声をかけてあげてもいいかもしれないわね)


そんなことを考えていたオルガは、執事が予定表を手に戻ってきたとたん、部屋の外に出された。その後ろには、何か言いたげな顔をした侍女長も付き従っている。


「ミネルバ王女殿下、こちらにございます」


「ありがとう。そこに置いて。ザカライア様、どうぞご確認を」


ミネルバはにこやかに手渡すそぶりを見せたが、予定表の冊子は侍女長がしっかりと抱えたままだった。

ザカライアが目を向けると、侍女長は軽く咳払いをして、少し渋るように言った。


「・・・失礼いたします。中身の確認は、その場でお願いできますでしょうか。持ち出しはご遠慮いただいておりますので」


「構いません」


ザカライアは頷くと、冊子を受け取り、その場でページをめくり始めた。


内容は緻密に組まれており、国王・王族・貴族たちの動きが分単位で記されている。

葬儀の式次第、参列の順番、出棺の経路、玉座の間での儀式の配置図。

どれも詳細だが、それゆえに、警備や隙をつくべき時間帯も見えてくる。


紙面を指でなぞりながら、ザカライアの目が鋭さを増す。


(護衛と奴らが入れ替わるとしたら、ジゼルの棺を移動させるこのタイミングだろうな・・・)


彼は冷静に情報を読み取りながら、頭の中で自分たちの当日の行動を緻密に組み立てていった。


「ザカライア様?」


ミネルバの声で、顔を上げた。


「失礼。非常に有益な情報でした。ありがとうございます」


「・・・お役に立てたのなら、嬉しいですわ」


どこか誇らしげに微笑むミネルバ。だが、ザカライアの心はすでに、葬儀の日の城内にあった。

ザカライアは予定表を静かに閉じて、執事に渡した。


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