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朝の光がカーテン越しにオクタヴィアを照らす。


うぅ〜ん・・・


片目を開けて伸びをし、上半身を起こして窓を見る。


{オキタ}{オキナイトオモッタ}{ヨカッタネ}{ヨカッタネ}{オハヨ}{オハヨウ}


小鳥たちがピチュピチュ鳴きながら、カーテンの隙間から部屋の中を覗き込んでいる。


「おはよう、小鳥さんたち」


オクタヴィアが起きたことを確認すると、小鳥が一斉に飛んでいく


(昨日は、初めての夜会だったからとても疲れて、いつもより長く寝てしまったわ)


コンコン


「姫様、起きていらっしゃいますか?」


「今起きたところなの、ナージャ入ってちょうだい」


顔を洗うための洗面器をもった侍女とともに、水差しと朝食を持ったナージャが入ってきた。侍女は洗面器を置くと一礼してそのまますぐに退出して行く。


コップにお水を注ぎながら、ナージャがその日の予定や天気について話はじめる。


「姫様、お疲れかとは思いますが、本日は午後から孤児院へ行く予定となっておりますので、ご準備させていただきますね。本日は良く晴れるようですよ。

それと、先ほど王太子様から伝言を預かっております。本日はルカルド王国の宰相様がお見えになるため、朝食、昼食、夕食は姫様お一人でお召し上がりください。とのことです」


「ルカルド王国の宰相様・・・そういえばそうだったわね」


「本日の孤児院ご訪問ですが姫様の護衛には精鋭部隊の3名が付くそうです」


「なるほど、城の警備のほうが人数が必要だものね。いつもの半分で人数で腕の立つ騎士達が付いてきてくれるのね」


「はい、そう聞いております」


ナージャが注いでくれた水を飲みながら、旬のブドウを一粒摘まんで口に入れる。

ナージャとあれこれ話しながら朝食を終え、オクタヴィアはゆっくりと立ち上がった。


「ごちそうさま。そろそろ準備しましょうか」



朝早くから行動を開始したザカライアは、昨日に引き続き町へとやってきた。

今日は朝市の視察である。

相変わらず、朝から女性たちの視線を一身に集めている。

しかし、平民の女性たちは貴族の令嬢とは違い、高位貴族の気配をまとったザカライアに遠巻きに視線を送るだけで、近づこうとはしなかった。

そんな周囲の視線を意に介さず歩いていると、ふと、通りがかったパン屋から聞こえてきた会話が耳に留まった。


「オクタヴィア王女様が・・・」


王女の名を耳にし、ザカライアは足を止め、無意識に耳を澄ます。


「・・・最近はお昼ご飯を子どもたちと一緒に食べてくださるんです」


「王女様はいつも本当にお優しいねぇ」


「ええ、本当に。今日は、朝から孤児院の子供たちもオクタヴィア王女様が来てくれるのを楽しみにしてるんです」


「シスター、王女様のために、今日はいつもより多めにパン入れておいたから、みんなで食べておくれ」


「オーブリーさん、いつもありがとうございます」


「いいんだよ、気にしなさんな。王女様によろしく伝えておくれ」


シスターと呼ばれた中年の女性が、大きな紙袋を抱えて店から出てきた。


(ふむ・・)


ザカライアは少し考えてから、シスターと呼ばれた女性の元へ足を進めた。



デューク王国は小さな国であり、城からどこに行くにも馬車で二時間もあれば十分に着いてしまう。

そのため、孤児院も馬車で三十分ほどの距離にあった。


今日は天気が良く、オクタヴィアは馬車の窓を開け、道ゆく人々に手を振りながら進んでいく。

やがて、小高い丘の上に建つ孤児院が見えてきた。

子どもたちの元気な笑い声が風に乗って聞こえてくる。


「姫様、着きますのでご準備を」


「今日は一段と子供たちが楽しそうね!何か面白い遊びでもしているのかしら」


「姫様!前回は子供たちと木登りをしようとしていましたが、今回は絶対にいけませんからね!」


「さすがに全員から止められたからできなかったけど、とても楽しかったわね」


「小国とはいえ、一国の姫なのですから、どうぞそれを踏まえた行動を」


「もう・・・わかったわよナージャ。木登り以外で子供たちと遊ぶわ・・」


オクタヴィアは、フフ・・と笑いながら、孤児院の前で騎士の手を借りて馬車を降りる。


「オクタヴィア王女様、本日は孤児院へのご訪問ありがとうございます。子どもたちとお待ちしておりました」


いつも通りシスターが表に出てきて、丁寧に頭を下げる。


「!?」


オクタヴィアは、シスターに挨拶をしようと正面を向いた瞬間、シスターの隣にいる男性を見て動きを止めた。


シスターの隣には、夜会で共にダンスを踊ったザカライア・アービング公爵が立っていた。



「まぁ、そうでしたの。アービング公爵様が偶然通りかかられて・・・」


「えぇ、シスターがとても大きな荷物を持っていらしたので、大変かと思いまして。ちょうど時間もありましたので、散歩ついでにここまで運ばせていただきました」


顔色を悪くしているシスターが頭を下げる。


「まさか帝国の公爵様だとは知らず、数々のご無礼、お許しくださいませ・・・」


「シスター、本当にお気になさらないでください。私が勝手にしたことですので、どうか顔を上げてください」


「シスター、アービング公爵様もこうおっしゃっているのですから、顔を上げて?ね。」


「オクタヴィア王女様・・・」


「シスター、」


私が口を開いたと同時に、アービング公爵様が言葉を続ける。


「シスターそれよりも、王女様に許可をいただけたら、というお約束の件を・・・」


「あっ、あぁ、そうでした!あの・・オクタヴィア王女様、アービング公爵様から、王女様の許可がいただければ、この孤児院をご案内してほしいとおっしゃっておりまして・・・」


「私の許可を?」


「えぇ、私は他国の者ですので、町を歩く許可は頂いておりますが、孤児院を見学する許可までは得ておりません。勝手に見て回るわけにもいかず・・・私の領地にもいくつか孤児院がありますので、この機会に少し学ばせていただければと思いまして」


「そうでしたか」


「本来であれば事前にデニス王へ許可を得るべきなのですが、流れが流れなものでしたので、もし差し支えなければ、オクタヴィア王女様からご案内の許可をいただけませんか?」


帝国の公爵様にこれほど真摯にお願いされれば、断ることなどできるわけもなく、オクタヴィアは二つ返事で許可を出す。


「もちろんですわ」


シスターもはじめは、アービング公爵様の美しい顔を見て顔を赤らめていたが、今は青くなっている。

さすがに、このままシスターに案内を任せるわけにもいかず、オクタヴィアが孤児院の案内をすることになった。


まずは、子供達が勉強する部屋に向かうことに。

アービング公爵様と並んで廊下を歩き、後ろから護衛の騎士たちが続く。ナージャは顔色の悪いシスターとお留守番だ。


「アービング公爵様、改めて昨日はダンスのお相手を務めていただきまして、ありがとうございました」


「いえ、オクタヴィア王女のデビュタントでご一緒できたこと、大変光栄でした」


(ダンスを踊ってる時はそれどころではなかったけれど、改めてアービング公爵様を見ると、すごくお顔がいいわ。デューク王国にはアービング公爵様ほどのお顔をもつ殿方はいらっしゃらないでしょうね・・シスターがああなってしまったのも仕方がないわ)


オクタヴィアも、アービング公爵の顔立ちは人並み以上に美しいと思う。


だが、オクタヴィアは人間よりも、動物や昆虫と長く接してきた為、残念ながら顔の良し悪しの基準がそちら方面となっている。

だから、アービング公爵を見ても、整った素晴らしい顔だとは思うが、野生馬のキングホースの方が凛々しくてカッコいいと思ってしまう。なので、シスターやご令嬢達のように、アービング公爵に見惚れたり、照れたりすることはなかった。


少し歩くと、子供達の勉強部屋に着く。

オクタヴィアが普段どのように勉強をしているか一通り説明しながら、食堂へ案内するために部屋を後にする。


廊下を曲がったところで、アービング公爵が口を開いた。


「オクタヴィア王女は、この孤児院によくいらしているのですね。大変わかりやすいご説明で助かります。たまたま訪れた孤児院で王女にお会いできて、こうして王女自らご案内いただけるなんて、私は本当に幸運でした」


「デューク王国は、小さな国ですので国民の皆様の生活を近くで見て、知ることは当たり前のことだと思っております」


「王族として、素晴らしい考えですね。先日デューク王国の町を散策させていただきましたが、整備が行き届き、活気があって、私も楽しく過ごさせていただきました」


「それは良かったです。帝国のアービング公爵様にそう言っていただけるなんて、とても嬉しいですわ」


帝国の公爵に自国を褒めてもらえたのが本当に嬉しくて、公爵に笑顔を向けた。

その時、ふとあることを思い出す。


「あぁ、そうでしたわ。アービング公爵様は、本日帝国にお帰りになられるのですよね?お帰りになるお時間に合わせて、ご案内させていただきますので・・・」 


「・・・」


「アービング公爵様?」


黙ってこちらをじっと見下ろしていたアービング公爵様がハッとして返事を返す。


「・・あぁ・・申し訳ございません・・少々考えごとをしておりました・・。実は、今朝デニス王にお伝えしたのですが、急遽用事ができまして、滞在を数日延ばすことになりました。ですにので、今日は時間がございます」


「そうでしたか。アービング公爵様はお忙しい方だと聞いておりましたので・・余計な事を申し上げましたわ。大変失礼いたしました」


今朝は父、母、兄はルカルド王国の対応に追われており、会うことができなかった。本来であれば伝達されるべき来賓の情報を知らなかった事に気まずさを覚え苦笑いを浮かべながら素直に謝罪をする。


「こちらの急な予定変更だったので仕方ありませんよ、こちらこそ、申し訳ございません」



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