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翌日、ザカライアの元に王太子の葬儀が三日後に決まったと連絡がきた。
ザカライアは手元の書状を丁寧に畳みながら、静かに言った。
「・・・三日後、か。想定より少し早いな・・」
「準備、間に合いますでしょうか?」
オクタヴィアが不安そうに尋ねると、ザカライアは一度だけ頷いた。
「問題ないです。むしろ、向こうが焦ってくれる方が好都合です」
ザカライアはオクタヴィアに微笑んだ。
今日のザカライアは正装して、美男感が増しキラキラしている。
オクタヴィアは、先ほどハロルドと出かける相談をしていたのを小耳に挟んでいたのを思い出した。
「本日は、お城に呼ばれてるのですか?」
「ええ、ミネルバ王女からのお誘いです。ちょうど良い機会なので、城の内部を確認してくるのと、会えるかはわかりませんが・・・サイラス王に警告できれば・・・」
オクタヴィアの脳裏に、ザカライアに必要以上に迫っていたミネルバがちらついた。
「・・・ザカライア様・・・ミネルバ様のお誘い嬉しい・・・ですか?」
モヤモヤと胸に溜まった思いが、つい口をついて出た。表情はやや不機嫌気味だ。
その顔を見たザカライアは口角を上げ、嬉しそうに笑った。
「オクタヴィア・・まさか、嫉妬してくれているのですか?」
「いいえ!・・・妬いてなどっ!」
必死に否定しようとしたその瞬間、ザカライアは勢いよくオクタヴィアを抱きしめた。
「感動です!!オクタヴィアが嫉妬してくれるなんて・・・あの王女の鬱陶しい誘いも、受けた甲斐がありました!」
「ザカライア様!離してください!だから!嫉妬などしていませんっ!!」
ジタバタと逃れようとするオクタヴィアに構わず、ザカライアは嬉しそうに笑っている。
「今日、城へ行くのはあくまで下調べのためです。たまたま王女から誘いがあったので、それを利用させてもらうだけ。すぐに戻ってきますから、オクタヴィアはデービットとここで待っていてください」
顔を赤らめたまま俯くオクタヴィアは、もじもじと呟いた。
「・・わかりました。待ってます・・」
すると、ザカライアは彼女の顎をすくい上げ、親指でそっと唇の輪郭をなぞった。
オクタヴィアが呆然としていると、その頬にふわりと彼の唇が触れる。
「その返事、可愛すぎます。ますます結婚したくなってしまいます・・・」
「ザカライア様・・・?」
ザカライアは真っ直ぐに、彼女のネオンブルーの瞳を見つめて言った。
「私が、心を捧げたいのはあなただけだ。それ以外はありえない。・・・帰ってきたら二人でお茶でもしましょう」
その時、外からハロルドの声が響いた。
「ザカライア〜!そろそろ行くよー!」
「ああ、今行く」
ザカライアはオクタヴィアに微笑みかける。
「では、行ってまいります」
「はい・・・いってらっしゃいませ・・・」
本来なら玄関まで見送るべきだったが、動揺してその場から一歩も動けなかったオクタヴィア。
ザカライアは最後まで笑顔のままオクタヴィアの部屋を後にした。




