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シーザスは、城の地下で静かに作業を進めていた。
彼の頭上には、ジゼルの棺が安置された部屋がある。
葬儀の日、ここに仕掛けた爆薬を爆発させる。
(・・王太子はもう死んでるんだ。どうせなら粉々になったって構わないだろう・・王族の墓に入れないなんて、本当に笑える)
シーザスは笑みを深め、呟く。
「弟よ、残念だな。亡骸さえ骨も残らず消えるなんてな。でも安心しろ。お前だけじゃない、親兄妹も一緒に連れてってやる」
偉そうに見下してきた義弟の顔を思い出すと、また薄笑いが浮かんだ。
「まあ、いいか。お前より、俺が王になった方が国民も喜ぶだろう?」
計算通りに爆薬を配置していく。
この作業は、絶対に誰にも任せられない。細かい計算と慎重な手順が必要だったからだ。
(城ごと吹き飛ばしてしまったら元も子もない。再建費用も時間もかかる・・だから、先生と何度も場所と量を確認したんだ・・)
作業を進めながら、作戦を口に出して復習する。
「まず、王太子の棺のある部屋の下を吹っ飛ばす。混乱した王族たちは、謁見室あたりに逃げる。そこでもう一度地下を爆発させれば、絶対に上階へ逃げる。オルガが王族を音楽室に誘導し・・・そこを、護衛に変装した私たちが急襲する。貴族たちは牢へ。他国の者は身代金を取って解放、自国の者は寝返れば助命。拒否すれば死刑・・・」
シーザスはポケットから指輪を取り出し、見つめた。
王族の証、その指輪を。
「・・・王の最期に、真実を突きつけたらどんな顔をするだろうな」
ニヤリと笑い、再び作業に没頭する。
キチキチ・・・
頭上の天井に吊るされたオオコウモリが、その独り言を聞いていた。
赤い目を光らせ、他のコウモリたちと羽を擦り合わせながら、小さく鳴き声を上げる。
しばらくしてシーザスが去ると、暗闇から数匹のオオコウモリが音もなく飛び立った。
外は暗くなり、闇に紛れてコウモリが羽ばたき、オクタヴィアの宿のバルコニーの欄干にぶら下がった。
「こんばんは。コウモリさん。どうかした?」
{シロノチカ、バクハツ、トメテ}
「爆発?・・・・誰が・・・?」
思わず聞き返す。爆発という言葉に、胸がざわめいた。
コウモリに近づいて詳しく聞こうとすると、続けて言葉が飛び出した。
{オウノコ、ミナコロス}
「オウ・・・王の子・・・・?」
思わず体が震えた。
王の子、それはきっと・・・・・悪い予感が胸を刺す。
「お・・・王の子とは・・・誰ですか・・・」
嫌な予感がする。
{シーザス}
「シーザス・・・・」
その名前を聞いた瞬間、オクタヴィアは欄干に手をついて体を支えた。
「姫様!」
「・・・だ、大丈夫よ。ナージャがそれ以上近づくとコウモリさんが驚いてしまうわ。そこにいて・・・」
オクタヴィアは震える体を必死に押さえ、コウモリに訊ねる。
「・・・爆発の場所、わかる?」
{ツイテコイ}
「待って!仲間も一緒に行っていい?危害は加えないって約束するわ」
コウモリたちは、キチキチ・・・と羽を擦り合わせ、相談していたが、やがて・・・
{ツレテコイ}
コウモリから許可が下りた。
オクタヴィアはナージャに、ザカライアたちに出発の準備を伝えるよう指示する。
ザカライアとハロルドは、オクタヴィアより先に玄関に集まっていた。
外に出ると、すでに馬車が用意されている。
空を見上げると、コウモリたちが夜空を旋回していた。
「お待たせしました。ご案内、お願いします!」
オクタヴィアが声をかけると、コウモリたちは城の方向へ飛び立つ。
ハロルドが器用に馬車を操り、そのあとを追った。
馬車の中で、オクタヴィアはザカライアに事情を説明する。
「まず、シーザスさんの正体がわかりました・・・・」
「シーザスの正体?・・・」
「彼は・・王の子だとコウモリさんが言っています」
「王の子!?・・・それはっ!・・・・」
「はい、何か事情はありそうですが・・・シーザスさんは王族の血を引いている者のようです・・・そして・・・シーザスさんが、城の地下に爆薬を何カ所か、仕掛けられたようです」
「爆薬・・・・」
話すうち、ザカライアの顔が険しくなる。
「コウモリさんの話では、城の裏に誰にも見つからずに地下に入れる横穴のようなものがあるそうです」
「なるほど。では、手前で馬車を降りていきましょう」
「それと・・・相手の作戦なのですが・・・」
「それもわかったのですか?」
オクタヴィアの情報の量にびっくりするザカライア。
「・・はい。最初にその爆薬でジゼル殿下の眠る棺の部屋の真下を爆発するようです。そのあと、謁見室あたりに逃げた王族を狙ってまた爆発させるようです。そこから2階の音楽室に誘導して、そこの部屋で事を起こすと・・・」
ザカライアは混乱した頭を整理するようにオクタヴィアの言葉を自分で呟きながら聞いている。
「最初は棺のある部屋、次に謁見室。爆破は二度・・・王族たちを音楽室へ誘導して、そこで襲う・・・・・・大量の火薬を高く積んで、上階を狙う気か?」
「爆薬を見つけたらどうされますか?」
「持ち出しは難しいですね。気付かれず、当日爆発できないようにしないと・・・」
ザカライアは窓を開け、従者席のハロルドに声をかけた。
「ハロルド、大量の爆薬を無効化する方法はあるか?」
「爆薬?・・・あると思うんだけど・・・・ちょっと今、コウモリ追いかけるのに忙しいから、あとで答えるよ」
「ああ、すまない、あとで案を聞かせてくれ」
「了解~!」
コウモリは飛ぶのが早いので、見失わないように追いかけるのは至難の技だ。
ハロルドは、それを今やってのけている。
「なにか、方法は見つかりそうですか?」
オクタヴィアは爆薬については、知識がなく手伝う事ができないのを悔しく思う。
「出る前に、なにか準備できればよかったのですが・・・コウモリ相手だと待たせるわけにも行かなかったですし・・・。でも、大丈夫です。こちらにはハロルドがいます」
「すみません。動物たちはこちらの状況はあまり考えてくれないので・・・・」
「わかっています。オクタヴィアが謝ることなど、なにもありません」
ザカライアは、窓の外から遠くに見えるコウモリを見上げた。




