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翌朝。街の空は重たい曇りに覆われていた。


オルガは派手な装いを避け、旅人のような地味なマントを羽織っていた。

その足は、誰に急かされるでもなく、自らの意思で街の外れへと向かっていた。


人気のない廃墟にも似たその建物を過ぎてその裏手を通り、枯れた木々と石塀に囲まれた古びた離れに足を進める。

彼女は小さく深呼吸すると、扉をノックした。


「先生、オルガです」


「・・オルガか。入れ」


中から聞こえた声は、男にしては高く、妙に響くような調子だった。

だが、オルガは怯まず扉を開けた。


部屋の中には一人の男が立っていた。

白髪まじりの黒髪を後ろに流し、痩せた体にゆったりとした古風なローブをまとっている。

その瞳は鋭く、まるで相手の心の奥を覗くかのようだった。


「・・・今日はどうしたんだ?」


そう言って、“先生”は笑った。


「昨日、先生の言う通り、オクタヴィア王女に街で会ったわ」


「ほう。やはりアービング公爵が連れてきたか・・・」


「アービング公爵? あの美男って噂の? 昨日一緒にいたのは、そんな男じゃなかったけど?」


「なら、別の者だろう。昨日はアービング公爵は、王と謁見しているはずだからな」


「なるほど・・・。よかった安心したわ、先生の元に、情報はしっかりとどいているようですね」


満足げに、オルガは言う。

先生は机の引き出しから一通の手紙を取り出すと、オルガに差し出した。


「これは、お前が使っていた兵士の男からの報告だ・・・アービング公爵の行動も、お前の憎き相手、あの王女の居場所も、すべて書いてあるぞ」


「いいわね。先生とシーザスはあのバカな王族を葬り、私はあの王女を消す。・・最高の筋書きじゃない!・・素敵っ!ワクワクしてきたわ。これで長年の恨みを晴らすことができるもの!」


「ああ、よかったな・・・だが気を抜くな。あの連中も、こちらの動きをうっすらと察しているようだ」


「わかってます。ところで、シーザスは今日は来ていないのかしら?」


「あいつは、次の段階に入ったから準備のために出かけている」


「ふ~ん、あいつ、暗くて苦手」


「私たちは友達ではない。利害が一致して一緒にいるだけだ。好き嫌いなんてどうでもいい」


「まぁ、そうだけど・・・で、これからどうするんですか?」


オルガが腰に手を当てて問いかけると、先生は立ち上がり、部屋の奥の棚から古びた地図を広げて机の上に広げた。

地図には、いくつもの赤い印と線が記されている。


「王宮は、間もなくジゼル王太子の葬儀を執り行うだろう。それに乗じて、動く。シーザスの役割はその第一段階だ。お前には、その前に王女の動きを封じてほしい」


「オクタヴィア王女のことね?」


「そうだ。今のところ、彼女の動きはまだ制限されていない。が、あの王女は油断ならないとシーザスが言っていた」


「ふふん・・まかせて。何度も侍女として城に入り込んでるんだもの!私のほうにも、“使える駒”があるんだから」


地図を見ていたオルガは、顔を上げて先生を見る。


「ねぇ、先生、あのときの約束、ちゃんと覚えているわよね?」


「もちろんだ。お前が役目を果たせば、あの王女のすべてをお前にくれてやる。」


その瞬間、オルガの瞳がぎらりと光った。


「ええ。私はもう、あのときみたいに・・・あいつら王族に踏みにじられるような私じゃない」


窓の外を、重たい雲がゆっくりと流れていく。

オルガはオクタヴィアの顔を思い浮かべながら、唇を歪めて笑った。


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