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夜会もそろそろお開きの時間になり、デビュタントのオクタヴィアは先に部屋に戻ってきた。


「姫様、夜会はいかがでしたか?」


部屋でオクタヴィアの帰りを待っていたナージャが苦しいドレスの紐を解いて部屋着へと着替えさせてくれる。


「はぁ、やっと楽になったわ。ドレスに殺されると思った! 夜会はおおむね楽しかったわ。スタン兄様とのダンスも楽しかったし、ご挨拶した方々との話も面白かったわ。」


「それは良かったですね。そういえば、姫様、あの絶世の美男と名高いアービング公爵様もご参加されていたとか。実際のところ、噂は本当だったのでしょうか?」


「ええ、本当よ。ご令嬢もご婦人もアービング公爵様をみて驚いていらしたわ。私は、ダンスの2曲目をアービング公爵様と踊らせていただいたの」


「まぁまぁ、それは素敵なお時間でしたね、ようございました。」


「うーん・・・それはどうかしら・・・」


「・・何かあったのですか?」


「確かに、アービング公爵様は素敵な方だったと思うわ。でもねナージャ、ダンスの最中、公爵様の肩にね、蟻さんがいたのよ。その蟻さんが、最近逃亡したドーガンさんの行き先を教えてくれて・・・」


「姫様!?まさか、アービング公爵様の前で蟻と話したりは!」


ドレスの着替えを手伝う手を止めて、慌てた様子でナージャが問う。


「ナージャ、それはないから安心して!蟻さんが一方的に話しているだけで、私からなにも喋ってないわ。アービング公爵様も蟻さんには気づいていらっしゃらなかったし・・・たぶん、大丈夫なはずよ??」


「姫様、最後の方の言葉はなぜ疑問形なのでしょうか?ナージャは心配でなりません!」


「ナージャ、そんなに心配しないで大丈夫よ。アービング公爵様も明日には帰国すると聞いているし、外交官をお相手するのはいつもお父様やお兄様の役目だもの。ダンスのとき以外、お話しする機会もなかったし、今後も接触することはないと思うわ」


「そうですか・・それならよいのですが・・。ですが姫様、王妃様がご心配なさっています。くれぐれも・・・くれぐれもっ!部屋の外では十分にお気をつけくださいね」


「心配かけてごめんなさいナージャ。十分気を付けるわ」



「ところで姫様、先ほどおっしゃっていた、逃げた盗賊の居場所がわかったのですか!?」


「居場所というか・・デューク王国からファルマン帝国に向かったようよ」


「帝国はここよりも大国ですからね。盗賊一人を見つけるのは至難の業でしょう・・」


「そうなのよね。ドーガンさんの件、知ってしまった以上、このまま放置していい話でもないし・・。スタン兄様からお父様にはすでに伝わっているけれど、お父様はどうされるのかしら?」


「王様でしたらきっと上手にファルマン帝国にもルカルド王国にもお話を通してくださるでしょう」


「本当は私が動物たちから聞いた話だとお伝えできればいいのだけれど・・・そんなわけにもいかないし、お父様にも余計なお手間をかけて申し訳ないわ」


「姫様、手間だなんて王様も誰も思っていませんよ。姫様のそのお力は神様からの贈り物です。皆を助けこそすれ、煩わせているだなんて考えないでくださいませ」


「そう・・かしら。それだったらいいのだけれど・・」


「姫様、今日はお疲れでしょう。少し早いですが、お休みになられたらいかがでしょうか」



「あ!いけないっ!スタンお兄様に、その件で追加の情報がないか確認しておくと言ったのだわ!ナージャ、ちょっと待ってて今から少し庭に出るわ。すぐに戻るから!」


「もう暗いですし、姫様~!私も参りますので、少しお待ちください~」


ナージャは慌ててドレスを片付けようとクローゼットに駆ける。

しかし、オクタヴィアはナージャを待たずに、早足で庭へ向けて飛び出した。


「すぐに帰ってくるから大丈夫よ!」




空を照らす月は大きく、今日はいつもより庭も明るく感じる。

そして遠くから、帰路に就く貴族の話し声や馬車の音がざわざわと聞こえてくる。

少し騒がしいけど、このぐらいなら動物さん来てくれるかしら。


オクタヴィアが庭に出てしばらくすると、バサバサと羽音がして一羽のミルクフクロウがやって来た。

ホゥ、と一声鳴けば、すぐにあの雛のお母さんだとわかる。


「ミルクフクロウのお母さん、こんばんわ。雛の具合はどうですか?」


一昨日の晩に、無事に怪我が治った雛を母親のもとに返すことができた。


ホゥ・・・{ゲンキ、アリガトウ}


「よかった!完全に治ったらまた会いたいわ!ぜひ親子で遊びに来てね!それでお母さんフクロウさん、ドーガンさんのこと何かご存じないかしら?」


ホーホー{コノクニカラデテイッタ、モリノチョウロウ、シッテル}


「森の長老のオオトカゲさんが詳しいのね」


ホゥホゥ・・{ソウダト、オモウ}


「オオトカゲさんはお年だから、こちらまでは来られないわね・・・」


その時、生け垣を超えて大きなツノ鹿がのっそりと近づいてきた。

このツノ鹿は、いつも森の長老オオトカゲの側にいる鹿だ。

たぶん、オオトカゲが遣わせてくれたのだろう。


{オクタヴィア、コマッテルカ、ナニヲシリタイ}


「ツノ鹿さん、こんばんわ。来てくれてありがとう。ドーガンさんの事をもう少し知りたいと思っているの」


{ドーガン、キノウ、クニザカイコエタ、モウ、ファルマンハイッタ、キニナルナラ、ミハラセル}


「まぁ、ツノ鹿さんありがとう。ぜひお願いしたいわ。でも、くれぐれも危険がないようにね。あなたたちが傷つけられるのは絶対に避けたいわ、無理はしないでね」


{ワカッタ、マタクル}


ツノ鹿が森へ駆けていき、すぐに見えなくなると、ミルクフクロウもバサリと大きな羽で羽ばたき飛んで行った。


「姫様!もうお戻りください~」

ナージャがこちらに走ってきた。


「今終わったところよ。ナージャ、このままスタン兄様のところに顔を出さないと。スタン兄様はもうご自分のお部屋かしら」




(あれは・・・・王女か?)


月の光を浴びて、ブルーシルバーの髪がキラキラ輝いていた。ドレスではなく部屋着を着ているらしく、軽やかなシフォンの生地が風にふわりと靡いている。


人がいなくなってから帰ろうと思い、ザカライアは人がいない方へと歩いてきた。

かなり小さな城なので、そんなに歩かずに城の庭と思われる場所に出た。

勝手に来てしまったが、デニス王からも城でゆっくりしてから帰るよう進言されていた。

何人かのご令嬢が、まだ城に残っているらしい。その目的は、自分に会うためであろう。

城の騎士たちが説得していると聞いた。


早めに休みたいのだが、ご令嬢と会ってしまってからの面倒ごとの方が煩わしいと思い、少し散歩に出てきたのだが・・


王女が木に向かって何か呟いている。


(誰かいるのか?)


木のほうへ目を凝らすと、一匹の白い鳥?がいる。

ホゥ・・っと鳴いているので、フクロウなのだろう。

王女がフクロウに向かって話しているようだ。

陰に身を隠しながら、そっとその様子を眺めた。


数分、そうしてフクロウに声をかけている王女を見ていると、今度は角が立派な大きな牡鹿が現れた。


(危ない!)


ザカライアは咄嗟に王女を助けようと動いたが、その時風向きが変わり、王女の小さな声が聞こえてきた。


「ツノ鹿さん××・・危険がないように×××・・・・・・」


ところどころ、途切れて全部は聞こえないが王女は大きな鹿にも何やら話しかけているようだ。

鹿が頷いたように見えたがきっと見間違いだろう、すぐに牡鹿が走り去り、その後王女の侍女がやってきて、王女とともに城の中に急いで入っていった。


(あの王女は、あんなに大きな鹿が目の前に現れても臆することもなく、あまつさえ、あの特徴的なネオンブルーの瞳が嬉しそうに弧を描き、楽し気に鹿に話しかけていたな。鹿も王女を恐れていないように見えたが・・)


ザカライアは、ダンス以降なぜかデューク王国の王女が気になって仕方がない。

あの時は二言三言しか話をしなかった。

外見や所作は、確かに好ましいと思うがこれは世間一般的な意見だと思う。


ザカライアにしては珍しく興味を引いた女性。

あの王女はザカライアの心の何かに引っ掛かるのだ。


(数日、滞在を延ばしてみるか・・・)


ザカライアは、滞在中もう一度機会を作り王女と話をしようと考えながら、貴賓室に戻って行った。



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