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宿に着くと、オクタヴィアたちは手早く湯浴みを済ませ、町娘風の装いに着替えた。

髪は無造作に束ね、化粧も落とし、そばかすを描くなどして、できる限り貴族らしさを消そうと工夫する。

ナージャもその仕上げに奮闘していたが、オクタヴィアの内側からにじむ気品までは隠せなかった。


とりわけ、彼女のネオンブルーの瞳は目を引く。こればかりは隠しようがない。

服を異国風に仕立て、観光客に見えるよう工夫することで、目立たぬよう演出した。


「どうかしら?かなりいいんじゃないかしら?」


くるりと一回転し、ナージャに仕上がりを確認する。


「姫様・・・気品がぜんぜん隠れておりませんが・・・」


「そうかしら?そばかすもたくさん描いたのに」


「いっそ、泥でも服に塗りますか?」


「それ、いいわね!」


「冗談ですよ・・。やりませんよ」


そんな会話を繰り広げていると、ドアの向こうからコンコンとノックの音がした。


「お姫様、準備はどう?」


「どうぞお入りください。準備はできてます!」


部屋に入ってきたハロルドは、オクタヴィアを見て、残念そうな顔をした。


「う〜ん・・・やっぱりダメだったか・・」


「申し訳ありません、ハロルド様。これ以上、姫様を町娘にはできませんでした・・」


「なんだろな~?滲み出ちゃってるよね、気品が・・・」


「はい・・私の力不足で・・・」


二人に見つめられながら、オクタヴィアはちょっと不満そうな声を上げる。


「町娘では、いけませんか・・?」


「ちょっと無理があるかなぁ。でも大丈夫、商人の娘ってことにしよう。商人なら大抵は金はあるけど、身分は庶民だしね」


ハロルドがパンと手を叩き、名案だと言わんばかりに言う。


「じゃあ、名前はどうしようか。短い方がいいよね」


「兄からはヴィアと呼ばれてますが・・・」


「・・・いや〜、俺がそれ呼んじゃうと、色々まずいかな」


「?」


ハロルドが苦笑いを浮かべ、ナージャは首を振る。

みんなで案を出していると、ナージャがふいに思い出したように声を上げた。


「では、タビサはいかがですか?」


「タビサ・・・」


「私の友人の名前なんですが、異国の娘でした」


「タビサ・・いいじゃないか!じゃあ、お姫様は数日間はタビサと名乗って」


「はい、わかりました!」


「ナージャは・・まあ、そのままでいいか」


「はい、私はもともと庶民ですから変える必要はありません」


「わかった。それじゃあ行こう。今日の護衛は六人、少し離れてついてくるから、後で顔を覚えてね」


「わかりました!」


宿から出て少し歩くと、商店が並ぶ街道にでる。活気はあるが、ファルマン帝国ほどの賑わいはない。


「お姫様、右手に見える黄色の建物が、ザカルド商会のルカルド支部だよ」


「わあ!大きい建物ですね!」


その建物は四階建てで、鮮やかな黄色いタイルの外壁が陽の光を受けてきらきらと輝いていた。

一階は店舗になっているらしく、人々がひっきりなしに出入りしている。どうやら人気の店のようだ。


「一階はお店なのですね」


「商会で取り扱っている商品を直接購入できる場所なんだ。主に食品と日用品を並べていて、大型の商品は受注制になってる」


「大きなものとは、なんですか?」


「いろいろ・・・馬車に家具、木材、布・・・家なんかも」


「家・・・」


「さすがに貴族の邸宅なんてのは無理だけど、庶民の住まいくらいならうちの商会で建てられるんだ」


「すごい規模ですね・・・」


「まあね、じゃあ、一階の店内を案内するね」


店に入ると、所狭しと商品が並んでいた。まるで玩具箱をひっくり返したような賑やかさだ。

外からは整然とした印象を受けたが、内装は少し雑多にも見える。だが、よく見ると、商品はきちんとカテゴリーごとに分けられ、見やすく、手に取りやすい配置になっていた。


「素敵なお店ですね!見ていてとても楽しいです」


「本店は、この四倍はあるんだけど。ルカルドは小さなお店なんだよ。でも、必需品が一通り揃うようにしてあるんだ」


そんな話をしていると、奥から一人の若い男が姿を現した。


「副会頭!ご無沙汰しております!」


「ライアー、元気だった?」


ハロルドは親しげに声をかけ、握手を交わす。ライアーと呼ばれた青年は、こちらに気づいて会釈をする。


「こんにちは。ザカルド商会ルカルド支部の支配人を務めますライアー・ゴルデと申します。お見知りおきください」


「こんにちは、私はオク・・・タビサと申します」

「こんにちは、私はお嬢様にお仕えするナージャと申します」


危うく本名を口にしそうになり、慌てて言い直す。

すかさずナージャが被せるように挨拶を続けた。さすがの機転だ。


「タビサ様、ナージャ様、本日はよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそ」


ライアーの人懐こい笑顔に、オクタヴィアは偽名を使っていることに少し後ろめたさを感じつつ、精一杯の笑顔で返す。


その瞬間、ライアーの顔がみるみる赤くなった。


ハロルドはさっとライアーに近づき、何やら小声で囁くと、たちまちライアーの顔色が青ざめていく。その様子は、先日見たシスターの顔色と同じだった。


「し・・失礼いたしました。私は奥におりますので、ごゆっくりご覧ください」


そう言うなり、ライアーはそそくさと店の奥へ消えていった。


「どうなさったのかしら?」


「仕事が忙しいみたいだね」


ハロルドは何事もなかったかのように答える。


「そうですか。お忙しいのに、わざわざご挨拶に来ていただき申し訳なかったですね」


オクタヴィアには聞こえていなかったが、近くにいたナージャにはハロルドの一言がしっかり聞こえていた。


この方は会頭のお気に入りだから、下手なことをしたら首が飛ぶぞ、と。



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