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ザカライアの指揮のもと、宰相に騎士、侍女に侍従、総勢百名の総勢百名の遠征隊が、ルカルド王国へと向けて出発した。

道中の安全を守る騎士団に、貴族の世話を担う侍女団、それに食事班や連絡係まで揃い、馬車は十台以上。その隊列の長さは、まるで小さな町がそのまま移動しているかのようだった。


そしてその中には、ジゼル王太子殿下の棺を乗せた馬車も含まれており、周囲にはそれを警護する専属の兵士たちがついていた。


ザカライアは馬上から、隣をゆくオクタヴィアの馬車を覗き込む。

馬車の中には、オクタヴィアの専属侍女ナージャとハロルドが乗っている。

馬車は窓が開いており、中からオクタヴィアが顔を出す。


「オクタヴィア。あなたは今回、観光客としてルカルド王国に入国することになっています。国境手前で、我々とは一度別れます。・・・夜には私も合流できると思いますが、それまではくれぐれも行動を慎んでください」


「はい、もちろんです!今ちょうど、ハロルド様にザカルド商会の支部を見学できないかお願いしていたところです」


「商会の支部を?」


ザカライアが眉をひそめる。


「はい。ファルマン本国の本部も見てみたかったのですが、なかなか機会がなくて・・・せっかくの時間ですし、ハロルド様のお仕事に便乗できたらと思いまして」


「ハロルドと・・・?今度ゆっくり私が案内しますよ?」


「でも、ザカライア様はお忙しいでしょう?本部は今度ご案内いただきます。支部はハロルド様にお願いしたいです!」


天真爛漫な笑顔で答えるオクタヴィア。

同じ馬車に乗るハロルドは、したり顔でニヤニヤしている。

仕返しのターンだな・・・とハロルドは、ザカライアに聞こえるぐらいの大きな声でオクタヴィアに返事をする。


「いいよ、お姫様!支部、一緒に行こう。ついでに街で何か美味しいものでも食べようか」


「まあ!お食事まで?・・・いいのですか!?」


「もちろん。街に馴染んでる良い店をいくつか知ってるし。お忍び旅行なんだから、街に溶け込みやすい服で行こうよ?」


「!!・・ハロルド!」


ザカライアの顔が露骨に歪む。ハロルドはその様子を見て、さらに得意げになる。


「なに?ザカライア。ダメとは言わせないよ?お姫様だって、ホテルに缶詰めじゃつまらないでしょ?街の探索くらいはさせてあげなきゃ。それともなに?一歩も外に出るなっていうの?」


「・・・」


今度はザカライアが黙る番になる。


「ザカライア様、私、おとなしくしておりますわ。商会へのご訪問と、外でのお食事だけでも許可いただけませんでしょうか??」


上目遣いでお願いされ、ザカライアの思考が止まる。


(か・・・かわいい・・・いや、違う!・・いや、しかし・・・)


馬上でひとり、深刻な葛藤に陥る。


(本当なら、私が一緒に街を歩きたい・・でも今回はジゼル殿下に関する大事な任務だ。付き添えない。だが、ずっとホテルに缶詰めでは、確かに気の毒だ・・騎士をつければ安全は確保できる。・・それにしても、この期待に満ちた瞳・・・悔しいが、許可するしかないか)


「わかりました。オクタヴィアはナージャとハロルドとともに、商会訪問と外食を許可します。ただし、絶対に一人では行動しないようにしてください」


「ありがとうございます!ザカライア様!」


オクタヴィアはぱっと笑顔を咲かせた。

そのあまりの輝きに、ハロルドまでつられて頬を赤らめる。


(そうだろう!この笑顔は・・・最高に可愛いのだ!)


ザカライアは内心でドヤ顔を決めるが、次の瞬間、ふと、顔が曇る。


(・・待てよ?あの笑顔、本来は自分だけのもののはず・・なのに、なぜ、同じ馬車にいるのがハロルドなのだ?)


そう。そもそも、ハロルドをオクタヴィアの護衛(?)に任命し、同じ馬車に乗せたのは自分である。だが、いまになって急に不公平に思えてきた。


「・・ハロルド。帰国したら、お前がたっぷり働けるよう、特別な手配をしてやるからな」


ボソリと呟き、「では後ほど!」とだけ言い残して、馬を先頭へ向けて走らせていく。

しっかりそれを聞いていたハロルドは、嫌な予感に顔を引きつらせた。


一日かけて、ルカルド王国の国境近くにある麓の町へと到着した。


オクタヴィアの馬車が停まると、すぐに馬に乗ったザカライアがやってくる。


「では、オクタヴィア、私はこちらで。ナージャ、ハロルド、オクタヴィアを頼んだぞ」


ナージャは背筋を伸ばして「お任せください!」と答えた。最近まで「直視するのは体に毒です!」などと言っていたが、どうやらすっかり美男のザカライアにも慣れてきたらしい。


「またね、ザカライア!」


ハロルドは片手を挙げて手を振る。

ザカライアは軽く頷き返すと、そのまま手綱を引き、ルカルド王国の王都へ向かう遠征隊の先頭へと駆けていった。


馬の蹄の音が遠ざかっていくのを、オクタヴィアはじっと見つめていた。


「ザカライア様たち、大丈夫でしょうか・・・・・」


彼女のつぶやきに、ハロルドが肩をすくめて言う。


「大丈夫だよ。ザカライアなら、そつなくなんでもこなすさ。俺がかき集めた証拠も、しっかり渡してあるしね」


「さぁ、お姫様。俺たちも宿に向けて出発しよう。あと少しで到着だ!」


「はい、ハロルド様!」


オクタヴィアがにこやかに返事をすると、ハロルドは手を上げて馬車に合図を送る。

それを受けて、二台の馬車は静かに動き出した。


ルカルド王国の城下町へ向け、馬車はゆっくりと街道を進んでいく。

石畳の道には馬の蹄の音がコツコツと響き、遠くには王都の尖塔が小さく見え始めていた。


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