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(なんだ?)
目の前にいる王女をじっと見下ろすと、王女の視線は、やはりザカライアの肩のあたりにあり、犯罪の話を切り出した途端、王女はあからさまに動揺した。
(なぜこんなに動揺している?どう言う事だ?禁忌の話でもなかろうに)
なんとなく、この王女ならば国内事情を知っている気がしたので、丁度良いとダンス中の会話に織り交ぜてノートリアス盗賊団の話を聞き出してみようと思ったのだが、この話を出した途端、王女はあきらかに動揺した。
ダンスをしながら王女を観察すると、ネオンブルーの瞳がせわしなく動きザカライアの肩のあたりから腕に目線を移し、困ったような顔をしている。
チラリと自分の肩を見てみるが特に何もないようだ。
(気にしているのは後ろではないな、私の肩が気になるのか?先ほど鏡をみた時には何もなかったが)
「失礼。オクタヴィア王女に話すような話題ではなかったようです。お許しください。」
とりあえず、謝罪を述べ、王女をくるりと回転させるとダンスが終わった。
ザカライアが王女へ腰を折り挨拶をすると、王女もカーテシーで挨拶を返す。
先ほどよりも盛大な拍手が湧き起こった。
ザカライアにとっては、王太子とのダンスよりも注目されたことに驚きはなかったが・・。
オクタヴィアは拍手の渦の中、そそくさと自分の席へと戻っていった。
{オシエタ、カエル}
ダンス中にザカライアの肩から腕を伝って、オクタヴィアの手に移動してきた蟻が言いたいことを言い終えたとばかりに、ドレスを伝いさっさと視界から消えていく。
蟻が床に降りたのを確認してから王族席に戻ったオクタヴィアにオーギュスタンが声をかける。
「ヴィア、さては、アーヴィング公爵に見惚れていたな。。」
席に戻るなり、オーギュスタンが笑いながら言った。
「私も驚いたよ。あれだけ整った顔をしていれば、ご令嬢たちが大騒ぎするのも頷ける。」
「スタン兄様、もはやダンスは覚えていないですわ」
「まぁ、あれだけの美男だ。見惚れてちゃんと踊れなくても仕方がない・・」
「スタン兄様。そうではなくて、この際アーヴィング公爵様はどうでもいいのよ」
「ん?どうでも・・?」
「もはや、アービング公爵様は、蟻さんを連れてきた人という印象しかないですわ!いえ、私は、途中から蟻さんしか見えていませんでしたわ!」
「蟻?・・・・あの公爵を前にどんな印象だよ!?」
「先ほど美男らしきものに蟻さんが乗って登場し、ドーガンさんがファルマン帝国に向かっ
たと教えてくれたのです。」
「!!逃げたドーガンがファルマン帝国にっ!?!?」
「シッーーーー!!!お兄様、声を抑えてくださいませ!」
思わず、オーギュスタンの口を押える。
わかった!と頷き、口を押えているヴィアの手を外す。
「明日は、ルカルド王国の宰相が来られて一味の者を引き渡すことになっている。同時にデューク王国での大規模な捜索をする予定だが・・・」
「ですが、もはやドーガンがこの国にいないとなると・・」
「・・まずいな。」
オーギュスタンが何やら考えながらブツブツ呟く。
「ヴィア、父上に報告しに行ってくる。一人にしてすまないがここにいてくれ」
「わかりました。私も後ほど部屋に下がりましたら、蟻さんだけではなく他の動物達にも聞いてみますわ」
「わかった。でも、無理はしなくていいから。深追いしてヴィアの事が、誰かの目についたら大変だ」
「わかりましたわスタン兄様。いってらっしゃいませ」
なにやら、王族席のほうが気になったザカライアは王と王太子が袖のほうへ移動して、今は
席にひとりで座っているオクタヴィアを見た。
先ほどのダンスの時から何故か王女が気になっていた。
(ダンスが始まる前は王女と目が合ったのだが、ダンス中は会話してもなにやら他に気がとられているようで、全然私を見てなかったな・・わざと視線は外していたというよりは・・・何かを見ていたような・・)
普段から、ザカライアと目を合わせようと必死になっている女性ばかりと接してきたため、オクタヴィア王女の今回の態度が不思議でならなかった。
(王女に盗賊団の話をした時も、狼狽えていたな。さすがに王女と盗賊団に関係があるとは思わないが、デューク王国はこの件で都合の悪い事でもあるのか?)
王女に視線を向けながら考え事をしていたザカライアは、周りからとんでもなく見られている事に気がつきこれは潮時だと思い、周りに目線を合わせることなく自分用の貴賓室へ歩き出した。