表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/101

66

兄が帰国してからは、もっぱら、イザベル様がオクタヴィアの話し相手だ。


「イザベル様、それで、お腹の赤ちゃんはどうですか?」


「まだ実感はないけれど、お腹の中に確かに宿っていると医師に言われたわ。青薔薇が咲いたから、確実に生まれるのはわかっているけれど・・・それでも少し不安ね」


まだ、膨らみのないお腹を撫でるイザベル。


「アーロンったら、どんな子が生まれてくるか毎日想像していて、その話題ばかり」


「アーロン陛下は、楽しみで仕方がないのですね」


「そうなんでしょうけど・・毎日あの過保護で熱烈な話に付き合うのは大変だわ!」


「ふふ・・イザベル様、大変だと言いながら、幸せそうなお顔をされています」


「オクタヴィアさん、人ごとみたいに言ってるけど・・ザカライアの方が、もっと大変になると思うわよ?」


「え・・?そうでしょうか・・?」


「私もね、まさかザカライアがあんなに重くなるとは思ってなかったわ・・・」


そのとき、ふいに背後から足音がして、二人が振り向くと渦中のザカライアが立っている。


「イザベル皇妃、また、オクタヴィアに余計なことを話してますね?」


「まぁ、なにかしら? そんなこと言ってないわよ」


しれっと嘘をつくイザベル。


「アーロン陛下が皇妃を探しておられますよ」


「やだわ、また、心配してるのね?オクタヴィアさんとお茶をすると言ってあるのに!」


そう言いながらも、イザベルは席を立つ。


「オクタヴィアさん、では、また」


「はい、ありがとうございました」


先ほどまで、イザベルが座っていた席に、ザカライアが代わりに座る。


「ザカライア様、お仕事は終わったのですか?」


「ええ、終わりました」


にこにこしながら答えるが・・・


「そのお顔は嘘をついていいますね?」


「おや?どうして、そう思うのですか?」


「ザカライア様の嘘を見抜く技を見つけたのです」


それは、嘘をつくときに右の眉が少しだけ上がるクセ。

本人は気づいていないようだが、オクタヴィアにとっては“自分だけが知るザカライア”のひとつで、密かに嬉しい発見だった。


「・・・技、ですか?」


「ふふ・・ええ、でも内緒です!」


「困りましたね・・・そんな技を磨かれては・・」


「ところで、先ほどイザベル様から今話題の観劇にお誘いいただいたのですが、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


「いつですか?」


「明後日の昼だと聞いております」


「急ですね・・・その日は、陛下からの緊急招集があり、私はご一緒できません・・・」


「はい、伺っています。本来は陛下と行かれる予定だったそうですが、急遽キャンセルになってしまって・・劇場にもご迷惑がかかるのでと、お声をかけてくださいました・・・」


「・・本音を言えば、ダメと言いたいところですが・・・」


「お願いします、ザカライア様! 観劇は初めてなんです、どうしても行ってみたいんです!」


「・・仕方ありませんね。陛下も、イザベル皇妃には最高の騎士団を付けるはずですし・・こちらからも、あなたを守れる者をつけましょう」


「ザカライア様!ありがとうございます!」


思わず嬉しさがこみ上げて、兄にするような感覚でザカライアに抱きついてしまう。


「姫様っ!!」


さすがにそれはまずいと、控えていたナージャが慌てて一歩踏み出すが、ザカライアが手を上げて制止した。


自分が何をしたのかに気づき、オクタヴィアは慌てて離れようとする。

しかし、ザカライアの腕が、背中に回されたまま、離れない。


「・・あなたから抱きついてきてくれるなんて、これ以上の幸せはありませんね」


耳元で囁かれる言葉に、気を失いそうになる。


「ザ・・・ザカライア様・・すみません、つい・・はしたないことを・・」


真っ赤になりながらも、なんとか離れようとするが、その腕はぴくりとも動かない。


「こんな幸運、そうそう訪れませんから・・・少しだけ、このまま私を癒して・・・」


「ザカライア様・・・・」


しばらくそのままの体勢でいると、ザカライアがようやく腕をゆっくりほどいた。

オクタヴィアは、ほっと息をついて彼から離れ、自分の席に座り直す。


「・・・いずれにしても、明後日は会議を早めに終わらせます。終わり次第、劇場までお迎えに上がりますよ」


「ザカライア様、陛下からのお呼び出しなのに、無理なさらないでくださいね?・・・・」


ザカライアが“早く終わらせる”なんて言い出した時点で、絶対に何かやる気だ・・・そんな予感しかしない。


「オクタヴィアは心配しないでください。大丈夫ですから」


そう言って、いつものように完璧な微笑みを向けてくる。


(・・・その笑顔がいちばん不安なのだけれど!)


オクタヴィアは、ザカライアが笑顔の裏で何を企んでいるのか想像するだけで、軽く頭が痛くなってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ