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その頃、オクタヴィアは自室で兄のオーギュスタンと話していた。
「では、お兄様は一度、ご帰国なさるのですね?」
「ああ。明後日には出発するつもりだ。ヴィアは来月、アービング公爵と一緒に父上と母上のもとへ結婚の報告に行くだろう?本当は一緒に帰れたらと思っていたんだけど・・・イザベル皇妃から、“まだ長旅は控えるように”と釘を刺されてしまってね・・・・」
「スタン兄様、ごめんなさい。私はもう少し体力をつけないといけませんね・・・」
「大変な目にあったんだから静養も大切だよ。ヴィアがそれ以上体力付けたら、どこに行くかわからないから今のままでいいよ」
オーギュスタンは、愉快そうに笑いながら、オクタヴィアの頭を優しく撫でる。
「そういう体力ではありません!」
むっと頬を膨らませるオクタヴィアを、微笑ましそうに見つめながら、ふと真面目な顔になる。
「ヴィア、幸せか?」
「・・・スタン兄様、急に何ですか?・・・」
「たった二人の兄妹だからね。ヴィアには、ずっと幸せになってほしいと思ってた。正直、ヴィアの力をちゃんと理解して、心から愛してくれる人なんて現れるのか・・・・そう思ってたこともあったよ」
「スタン兄様・・・・」
「でも、ある日、アービング公爵が現れた。いい男だし、高位貴族で大きな商会を持ち、外交でも手腕を振るう。正直、同じ男としてはちょっと悔しいけど・・・・完璧な男だよ」
「・・・」
「昔の私は、ヴィアの力を羨ましいと思ったことは一度もなかった。むしろ、そんな力を背負って生まれてきた可哀そうな子だと・・そう思っていた。でも、今は違う。その力があったからこそ、ヴィアはアービング公爵と出会い、結ばれたんだね・・・・良かったね、ヴィア。本当に、良かった」
「お兄様・・・・まだ、結婚までは時間がありますわ・・・そんなお別れみたいなことを言わないでください・・・」
オクタヴィアは堪えきれず、涙がこぼれる。
優しい兄の言葉が、胸の奥にしみ込んでくる。
「はは・・そうだね。結婚式は、私の方が先だったな。これからはお互い忙しくなるだろうし、こうしてゆっくり話せる時間も少なくなるかと思って・・つい・・・」
「スタン兄様・・・ありがとうございます。いつも私を見守ってくれて・・・」
「・・・・少ししんみりしてしまったな!ナージャに言って一緒にお茶でもどうだろう?」
「ええ・・・いい機会です・・・スタン兄様のメイベル様への愛の告白も、ぜひ聞きたいわ!」
鼻をすすりながら、それでも笑顔を浮かべるオクタヴィア。
兄妹らしい、やりとりが戻ってくる。
「言う訳がないだろう?それは、メイベル嬢と私の二人だけの秘密だよ」
ふたりは顔を見合わせて微笑み、ナージャを呼びに部屋をあとにした。
今回は話の流れ的に短くなってしまいました。
次行きます!




